幼馴染と公園で遊んだ

 その日から赤田は、どんどん料理の腕を上げていった。

空ちゃんにも負けないくらいに。



「うまい!」


「でしょ?」



俺が食った感想を言って、赤田はどんどん喜ぶ反応をするようになった。




 今日は家庭科の授業、調理実習。

空ちゃんは料理上手なので誰の手も借りず、1人でテキパキと料理を作っていた。


一方俺は、赤田と同じ班になったので赤田と一緒に協力しながら調理を進めていった。

意外と赤田は俺の言うことを素直に聞いてくれて、やりやすかった。



一瞬、空ちゃんと目が合った。

空ちゃんは目を逸らして、俯いてしまった。ちょっと寂しそうな表情をしてるような気がした。……いや、次の瞬間にはテキパキと料理を進めてるし、気のせいだろう。




―――




 今日はどんよりとした曇り空。天気が良いとは言えない。



「あ、空ちゃん」


「りっくん……」



下校しようとした時、昇降口で空ちゃんに会った。



「空ちゃん、今帰り?」


「う……うん……」


「よかったら一緒に帰らないか?」


「え……でも赤田さんは……?」


「あいつは今日委員会って言ってたよ」


「そ……そっか……」



空ちゃんはその後しばらく黙って、俺を上目遣いで見つめてきた。



「? どうかした?」


「ううん、なんでもない……」



幼馴染で気心知れた空ちゃんだけど、最近はよくわからない反応をすることが多くなったような気がする。




 俺と空ちゃんは2人で一緒に帰る。



「あ! りっくんあれ見て!」


「ん?」



空ちゃんが指さした先には、小さな公園があった。

俺もよく知っている公園だ。



「ああ、懐かしいなこの公園」


「ねー! 小さい頃ここでよく遊んだよね!」


「そうだな、2人でここで砂遊びとかしていっぱい遊んだな……すごく楽しかったなぁ……」



小さい頃に空ちゃんと公園で遊んだ想い出が蘇り、少しノスタルジックな気分になる。


空ちゃんは、クスッと微笑んだ。



じゃなくて、楽しいよ、きっと!」


「えっ? おい、空ちゃん?」



空ちゃんは明るい笑顔で公園に走っていき、俺も追いかける。



「久しぶりにブランコ乗ろうよ!」


「あ、ああ……」


「あははは! すごく楽しいー!」



空ちゃんはブランコに乗って、とても楽しそうにギコギコと音を鳴らして揺れていた。

普段はとてもおとなしいから、こんなに楽しそうな空ちゃんはめったに見られない。とても可愛くて微笑ましかった。



今日は天気があまり良くなかった。やや強い風も吹いている。


ちょうど風が吹いて、空ちゃんのスカートは捲り上がり、パンツが見えてしまった。



「!!!!!!」


見てしまった……白のパンツを。俺は慌てて視線を逸らした。



「? どうかしたのりっくん」


空ちゃんはパンチラしてしまったことに気づいてないらしく、きょとんとした表情で俺を見た。


「いや、なんでもないぞ! 何も見てない!」


「え、見てないって何が?」


「なんでもない! なんでもないから!!」


必死すぎて逆に怪しいだろ俺。でも空ちゃんはそれ以上気にすることはなさそうで命拾いした。



「よーし、もっと勢いつけよう!」


グンッ!



空ちゃんは勢いをつけてブランコを大きく漕ぎ出した。

グイングインと空ちゃんの身体が大きく揺れる。



「わっ、危ないぞ気をつけろ空ちゃん!」


ズルッ!


「わーっ!?」


「空ちゃーん!!」



空ちゃんは座板から足を滑らせ、ブランコが一番高いところに行ったところで崩れ落ちた。


空ちゃんは頭から落ちる。俺は瞬時に助けに行った。



ドサッ!


「!!!!!!」



空ちゃんは無事だ。俺が滑り込んでなんとか助けた。


助けたのはいいものの……俺は勢い余って空ちゃんの豊満な胸を鷲掴みにしてしまっていた。

むにゅっとした柔らかい感触が俺の手のひら全体に広がった。



「わーっ、ご、ごめん!!!!!!」


「う、ううん、こっちこそ調子に乗っちゃってごめんなさいっ!」



俺たちは慌てて離れ、お互いに背中を向けた。

激しくドキドキする。しばらく収まりそうもない。



「……なんか昔もこんなことあったよな……」


「そうだね……私、昔からドジでそそっかしいからよくりっくんに助けてもらったっけ……」


「……ははは……」


「……ふふふ……」


背中を向けて座り込んだまま、俺たちは笑った。



「なんかどんどん昔のこと思い出しちゃうね」


「そうだな……遊びすぎて怒られたり泥んこになって怒られたり……怒られてばっかりだったよな、俺たち」


昔の想い出が、記憶が、グルグルと巡っていた。



「……りっくん」


「ん?」


「……あの……ね……

昔、約束したの覚えてる……?」


『~~~♪』



その瞬間、空ちゃんの言葉と重なるように俺のスマホが大きく鳴り響いた。



「あっ……ごめん、電話だ」


「……どうぞ、出て」


俺は電話に出る。



「はい……ああ……うん、わかったよ」


俺は電話を切った。



「ごめん、赤田のヤツもう委員会終わったみたいで……今日の当番俺だから早く帰らないと怒られるんだ」


「……そっか……」


空ちゃんは俯いて、とても寂しそうな表情をした。


「……どうかした?」


「なんでもないよ」


「で、話何だったっけ」


「ううん、もういいの」


空ちゃんはニコッと笑顔を作った。



「じゃあまたな、空ちゃん」


「うん、またね」


空ちゃんは笑顔で手を振ってくれた。




―――――――――



※空視点



 約束なんて、覚えてるわけないよね。

もうずいぶん昔の話だもん。



私たちが小学生になったばかりの頃の話だ。


私は公園の砂場でお城を作って遊んでいた。

じっくり時間をかけて、大きなお城が完成した。私は嬉しかった。



「オラァ、オレたちのナワバリで勝手に遊んでんじゃねーぞォ!!」


「えっ?」



近所の男の子たちが3人、砂場にやってきた。

怖い目で睨まれて私は怯えた。

砂場はみんなで遊ぶところで、ナワバリとかじゃないのに……って思ったけど、怖くて何も言うことができなかった。



ドカッ!


「あぁっ……!」



私が作ったお城を、男の子が蹴って壊してしまった。

せっかく頑張って作ったのに……私は悲しかった。



「どけよオラ!」


ドンッ!


「きゃっ……!」


私は突き飛ばされて尻もちをついた。泣きそうになった。



「やめろォ!!!!!!」



その時、1人の男の子が全力で走ってきた。

私の幼馴染、りっくんだ。


「りっくん……!」


りっくんは私を突き飛ばした男の子に体当たりして、私の前に立った。

私を庇って、守ってくれていた。



「女の子になんてことするんだお前ら!! 許さないぞ!!」


「てめぇ……!! ぶっ殺してやる!!」


「絶対に負けない!!」



相手は3人もいるのに、りっくんは怯まずに勇敢に立ち向かって戦ってくれた。

私は何もできなかったのに、りっくんは一歩も退かなかった。




 それからどれくらいの時間が経っただろうか。

りっくんは、傷だらけになって砂場で倒れていた。



「りっくん大丈夫!?」


私は涙をたくさん流していた。りっくんが傷つくのが一番辛かった。


「はは……ヒーローみたいにはいかないな……かっこ悪いや……

だが、あいつらにもそれなりのダメージを与えてやったぜ……」


「ごめんね……ごめんなさいりっくん……!」


「平気平気、このくらいなんともないって!」


腫れた顔で、りっくんはニコッと笑った。

起き上がって私と向かい合う。



「俺、次こそは必ず空ちゃんを守るから。

もう二度と負けない、これからずっと一生守る。

約束する!」



りっくんは小指を差し出した。


「……うんっ!」


私は涙をボロボロと零しながら、小指を絡ませて指切りをした。




 私にとっては、大切な想い出だ。

あの時のりっくんを思い出して、胸がキュッとなって切ない気持ちになった。


……過去の想い出をいつまでも引きずってちゃダメだよね……

いいかげん大人にならなきゃ……



―――その日の夜、私はお風呂で一人で涙を静かに流した。

流した涙は、お風呂に溶けていった。

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