11-海蜇皮
何事もなかったかのように古代ギリシア様式の大邸宅へ帰還を果たしたチャンプをリビング・ルームで出迎えたのは、オリーブ色のバスローブに身を包んだジェリコだった。「おかえり。……パーティにでも行ってたの?」サイボーグの色男は、青年のいつになくフォーマルな装いに驚いて、笑いながら問いを投げる。「まあ、そんなところ……。似合ってないかな?」チャンプが少し恥ずかしそうに視線を逸らすと、彼を不機嫌にしてしまったと勘違いしたジェリコは慌てて表情を引き締める。「いや、そんなことない。素敵だよ」今度は笑わずに、まっすぐな目でそう言った。それはそれで気恥ずかしいのだが、チャンプは何も答えることもなく、適当なリビング・チェアに腰掛ける。ジャケットの内ポケットに忍ばせた立方体の存在に気づかれないよう、それとなく腕で隠しつつ、「今日はこっちに泊まるのか?」無難な話題を振ってみる。「うん、そのつもり。起きたらすぐに出て行くけどね」無数の
同じころ、エイミーはニュー・オスロのトルコ料理店で二人分のケバブサンドを注文し、商品が渡されるのを待っていた。厨房の奥から漂う肉が焼けるにおいに、彼女は思わず表情を緩める。しばらくして、「はい、お嬢ちゃん。お待たせ」人の好さそうな中東系の髭面の男が、エイミーへ二包みのケバブサンドを渡した。「ありがと、おっちゃん」彼女は代金を支払うと、店を出る。ここからオルセン・クリニックへは歩いてもそう遠くはない。親友であるリッシュへの差し入れを大事そうに抱えながら、エイミーはドクター・ベルテルの医院へ、弾むような足どりで向かう。この街の夜は
豪奢な造りのベッドの上で、半裸のチャンプは目を覚ました。日はすでに高い。リビング・ルームへ向かうと、姿見の前に脱ぎ捨てたままだったはずの衣服が綺麗に畳まれ、拳銃が収まったホルスターとともに椅子の上に置いてあった。ジェリコには世話になりっぱなしだ。心の中で彼への感謝と謝罪を述べながら、チャンプはいつもの服を着て、右腿にホルスターを巻いた。着替える前にシャワーを浴びようと思っていたが、買い物に行くだけだから、まあ、いいだろう。チャンプは家を出ると、あらかじめ呼んでおいたタクシーに乗って
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