第31話:弱き者の取引

「貴様か!我が同胞よ!良くぞ生きていた!」




艦内からアテナの元に飛翔してきた私に対し、彼女は歓喜の声をあげた




「どうも。私はホープよ。どうやら貴方と私のみ生き残ったみたいね」




「そうか。しかしホープよ、なぜ人間側についておるのだ?」




「それは色々あったのよ。それよりも、あなた久しぶりの娑婆に出て遊びたいんですってね?」




「ああ!100年も眠らされていたのだ!何か面白い遊びないのか!?」




「あるわよ。ストレスがたまっている貴方にぴったりな遊びが」




私はアテナに近づく




「空繰遊戯と言ってスタートからゴールまで飛び抜けるの。言わばレースみたいな物よ」




「ほう、競争か。翼人同士で戦うのも悪くないのだが面白そうだな。そう言えば、この下はレース場みたいな形をしておる。だが、翼人の我らに対しては狭いな」




同じ翼人の姿をしているのか無警戒なアテナ




ここで私が攻撃をしかけてもいいのだが、戦闘とは無縁の存在だからできない




私はあくまでアテナの機嫌を取ることに徹する




「そう言うと思ったわ。てなわけでここは旧岐阜県である関ケ原から旧東京である壊滅都市ゲートまでどう?」




100年前に無国籍軍による攻撃により壊滅した東京。巨大な穴が開き今でも閉鎖されている区域だ




距離も約400キロと無限のスタミナを持つ私達にとっては大した距離ではない




「面白い。我ら翼人にとってちょうど良い距離だな。よし、早速始めるか!」




「待って。折角だから明日の朝にしない?あなたも体力使ってフェアじゃない状態だし」




「おっ、そうだな。久々の戦闘だからエネルギーを使っちゃってな。休むとしよう。」




そういい、アテナは大きな白い翼で自身を包み込む




「私はひと眠りする。ただし、少しでも攻撃してみろ。その時は容赦なくこの辺りを焼け野原にしてやるからな。もう一度言うが私は不死身だ」




そう言ってアテナ眠りに入った




私はアテナが完全に眠ったのを確認すると、戦艦に戻るのであった






「まさかあのアテナがこちら側の言う事を聞くとはな。それにしてもよくぞ争いを防いでくれたな。感謝する」




戦艦のブリッジに戻ると汗を流し緊張しているリコリスが声をかけてきた




ザクロは既に去ったのかそこにはいなかった




「ホープ!」




レイナが私に抱き着いてくる。それを愛おしく抱きしめる




「アテナ。翼人で元5人衆の一人。不死の能力を持っており、戦力は高いが性格は我が儘で自分勝手。意外と寂しがりやであり、いつも遊び相手を探している。嫌いな事は約束を破られること。これに基づいて彼女と対話を試みたのよ」




「なぜそんなにも詳しいのか疑問なのだが」




「歴史は得意な方なの。100年前の本に書いてあったわ。ところで、私の言った提案を受け入れてくれない?」




「受け入れるしかないだろ。しかし、いけるのか?400キロのレースなんて前代未聞だ」




「翼人は持久力はほぼ無限と聞いたわ。半翼人である私も無限とは言わないけどこの距離なら無問題」




「それでアテナに勝ったとしよう。その後の事は……」




「彼女は約束という概念に強く囚われているから、また再封印という事にしてもらいましょう。約束を破らないのが彼女の信条」




「もしアテナに負けたらどうする?」




「その時はその時よ。まあ、私を信じなさい」




「信じるってな……どこからその自信がでてくるのだ」




「背負ってる者が大きいからね。負けられないのよ」




そう言って私はレイナの頭を優しく撫でるのであった

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