第30話:勇者の血を引く者と半翼人
「ツバキが勇者の血を引く者ですって!?」
「そうだ。唯一血を引く者。それがツバキ曹長なのだ。他の勇者は血が途切れたが、彼女の家系だけは奇跡的にも残っていた」
ツバキが大剣を振るい、アテナと戦っている姿をモニター越しに見ながら艦長が語る
アテナは迫りくる連続攻撃に両手を使い、ブロックしていく
ツバキの一撃は非常に重く、素早いがアテナも苦悶の表情をしながら防いでいく
やがて、青色の光が徐々に薄まり白色に変化していく
「そうだ!いいぞツバキ!さすがは勇者の血を引く者!」
その時、私はふと嫌な予感がした
モニター越しで苦しそうにしていたあいつが、微かにアテナが笑っているかに見えたのは気のせいだろうか?
『これで!とどめだぁぁぁぁぁ!』
大きく後退し、力が抜けたアテナに向かってツバキが叫びながら突進する
しかし……
『なっ!』
振り下ろされた大剣が真っ二つに折れていた
そこには唖然として動きを止めたツバキと、蹴り上げた脚を元に戻したアテナの姿があった
「なん……だと……」
『言ってなかったな。私の固有能力はダメージが蓄積され過ぎると身体が鋼以上に硬く、鋭くなるんだよ。そして私の四肢は……』
直後、アテナは素早く接近し……
『強力な武器になる』
ツバキの腹に強烈な突きを繰り出す
『ガッ……!』
アテナの突きは勢いを止めず、腹部を貫通しおびただしい血が噴き出したのであった
「ツバキ!」
『勇者の末裔も大したことなかったな。……弱すぎる』
そう言い、アテナは腕を引き抜く
そしてツバキは翼を失った鳥のように静かに落ちていくのであった
「回収班!至急ツバキ曹長を受け止めろ!受け止め次第、医療班は応急処置を!」
アテナは血まみれになった右手を匂うと、驚いた顔をしながら叫んだ
『なんと!なんと!なんと!血の匂いに混じって我が同胞の匂いがする!?……そこの艦にいるのか!?絶滅したと思われた翼人が!』
あまりの剣幕にビクッとレイナが震え、私の腕に抱き着いてくる
『おい!答えろ!答えるんだ!翼人の嗅覚は間違えを知らない。同胞の匂いを間違えるわけないんだ!いるのだろ!会わせろ!』
「ツバキ曹長の回収に成功しましたが……どういたしますか艦長?」
オペレーターが冷静さを取り繕いながらも不安そうに聞く
アテナは左手を頭上にかざしており、その上には巨大な白い球体が形成されていた
『今すぐ会わせないと地面にこいつを叩きつけてやるぞ!いいのか!?』
けっして脅しとは聞こえない声に、艦内に緊張が走る
私の大切な恋人のレイナ。あんな奴の所に行かすわけにはいかない
「リコリス。私の言いたいこと解るかしら?」
「……ああ。本来ならレイナを会わせるのが正解だが、お前が納得するはずない」
「いやっ!ホープ!いっちゃダメ!」
そう言いながらレイナが私に抱き着く
「大丈夫よレイナ。私にいい考えがあるの。絶対に死なないから」
そう言って私はレイナのおでこにキスをする
「でも……」
「私は嘘をつかないわ。あなたに今まで嘘ついたことある?」
その問いにレイナは首を横に振る
「だから行かせて。必ず戻ってくるから」
レイナは涙を流しながらもそっと離れてくれた
「いい子ねレイナ。さてと、じゃあ行ってくるわね」
私はそう言って飛行甲板に向かって移動するのであった
飛行甲板には負傷した飛行少女達で溢れかえっていた
皆悔しそうにしており、医療班に応急手当を受けている
「あ!希望さん!」
カタパルトオフィサーである飛行少女が私を見かけるとこちらに向かってきた
「カタパルトの準備OKです。いつでも発進できます」
「ありがとう。でもね、遠慮しとくわ」
「え……でも……」
「私には翼があるのよ。だからこのまま飛んでいくわ」
ちなみに飛行少女から半翼人になってからの飛行は初めてだ。しかし、今の自分は大丈夫だという謎の自信があった
「わかりました。ご武運を!」
「ええ、行ってくるわね!」
そういって私は翼を広げ、大空に舞い上がったのであった
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます