第25話:違和感

『何と!本当に出たドラゴンバレット!白銀のティアラに空色のドレス姿のミラクルチャージ!必殺技を放ち一気に前に出ました!』




《負けない!私は!私は負けたくない!》




続けて抜け出したのは、越前の金糸雀、ブロッサムだった。猛スピードで先輩を追う




《何やて!》




《おいおいおい!まじかよ!》




意外な出来事、いやほぼゼロの確率でありえない出来事に選手全員動揺が走った




わずかだが、隊列の塊が散会した




「今……ファイナルブースト……オン」




絶好の好機が訪れた所で私はそう小さく呟く




すると、私の身体は軽くなりそして大きく前進した




『何と!二番目に飛び出したのは緑の髪、黄色いワンピースのブロッサム!速い!速い!一気にミラクルチャージに迫る迫る迫る!さらに集団の後ろから物凄い勢いで抜いたのはホープ!ホープ来た!ホープ来た!』




景色が線となって凄い勢いで流れる




しかし身体に掛かる空気抵抗は軽く、呼吸もいつも通りだ




レース中盤から感じた違和感




今日の私は……全く疲れてない……




そしてブーストを掛けたのに関わらず、左腹部の痛みも、眩暈も全くない




それどころか気分が高揚し更にスピードを上げたくなる




そして目の周りが……熱い……




《ホープが抜いた!くそっ!》




《やるな!さすが私のライバルだぜ!まだ……スタミナは残ってるぜ……!》




『最後の直線で抜き出ているのはミラクル!ミラクル!それを必死にブロッサムが追いかける!越前の金糸雀が!蕾が遂に開花するのか!?しかしホープ来た!最後列からの侵略者が迫る!迫る!そしてブロッサムを抜いた!抜いた!更に加速する!2人の背後には2番人気のイーグレットが速度を上げるが差が開くばかりだ』




《ホープ……やはり君が私の隣に来たか……どうやら……玉座を奪わるのも時間の……問題だな……》




《先輩……》




『並んだぁぁぁぁぁぁぁ!女王にホープが今並びました!女王が侵略を許しました!』




先輩は酷く憔悴したような顔をしていた




無茶をしたせいだろうか?気を抜けば今にも湖に落下しそうな……そのような顔をしていた




だが、ここは真剣勝負の場




同情は一切なし




《先輩……抜かさせて頂きます》




そして私は更に加速した




『何と!抜いた!抜いたぞ!ホープが女王を抜いたぁぁぁぁぁ!ミラクルが後を追うが差が離されていく!離される!1メートル、2メートル、いや5メートルの差!縮まらない!縮まらない!もはやこのレースは完全にホープが支配した!完全独走状態!そしてそのままゴォォォォォォル!』




ゴールを抜けた数秒後に、背後から次々と飛行少女達が水に落ちる音が聞こえたのであった






レースインテビューの後、私は誰もいない海岸沿いのベンチで黄昏ていた




「翼人化の副作用かな……?」




レースをして解った事




全く疲れがなく、無限に飛翔出来る感覚




実際ゴールした後、私だけ湖に落ちず汗ひとつかいてなかった




そんな私を見て、観客たちは少し不審がっていたがタウリンのおかげと答えたら納得してくれた




選手の皆からも心から祝福を受けた




だが、私の心は晴れなかった




「もし、これが本当に副作用なら……これから勝っても嬉しくないな……」




【関ケ原】




短命な飛行少女達が血の滲むような努力をして舞台に立てる場所




出場するだけでも名誉な事であり、頂点に立ったものは一生掛かっても使え切れない賞金が出る夢の場所




これから私は【半翼人】というチートを得たことを隠して出場しなければならない




どうしたものか……




ふと足音が聞こえ近づいてきた。レイナには一人にしといてと言ったのだが……




「小鳥遊希望さんですよね?」




振り向くと、そこには見覚えのある人物が立っていた




「あなたは確か……小浦レース場で私と一緒に飛翔した……」




「はい。独立飛行隊1054番ツバキ曹長です!あの時は壁にぶつかって痛かったです!」




その時、私の背に悪寒が走った。濃い緑色の飛行服を着た彼女の目は一切笑ってなく無表情に近かった




「何か用かしら?今更になって謝罪に来たのかしら?」




「いえ、そうではありません」




そういうとツバキと名乗った少女は私の前に立ちはだかる




そして、腰に提げたホルスターから大型の拳銃を取り出し、銃口を私に向けたのであった




「小鳥遊希望。貴方を【翼人関係者】の疑いで身柄を拘束させて頂きます」










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