第13話:異端飛翔

『さあ、一斉にスタートしました。10番のルミナスが一気に先頭に立ち、3番パエリアがそれに追走します!』




小浦レース場と児島レース場のコースは似ている


そして、児島レース場は何度もVR訓練で周回しているためコースの形は頭に染みついている




私は敢えてスピードを抑え、後方からの追い抜き態勢に入る


現在、殿の地位を取ろうとするがそれを良しとしない者がいた




『前に出えへんのか臆病者!』




私を挑発してきた少女、マルガリータが私に併走するかのように横に並び睨みつける




『私の事は放っておいてレースに集中しなさいよ』




『そうはさせへんで!ルミナスにちょっかい出すって事は、痛い目見ても構わないってことや!覚悟せい』




直線コースで勢い良く飛翔しながら私はちらりと彼女を見る




そこに見えるは憎悪、嫉妬、殺意




『お前が表舞台に出てからルミナスは変わってしまったんや!お前にはここでリタイアしてもらうで!』




そしてマルガリータが一気に力を溜めているのが見えた。まさか……




『死ねや!ミスフォーチューン!』




観客が見守る中、彼女は堂々と……体当たりを仕掛けてきたのであった




だがしかし……




「があっ!」




『おおっと!3番人気8番マルガリータがホープに体当たりを仕掛けた!が、何とマルガリータ弾かれた!弾かれた!そのまま壁に勢い良くぶつかり壁にめり込んだ!これは意外な展開!早くも一人の飛翔不能リタイアが現れた!』




タウリンの過剰摂取のおかげで私の身体は多重のバリアが張られている




その分厚いバリアの中に勢いよく突っ込むとどうなるか?


答えは簡単。単純に思いっきり吹っ飛ばされる




観客からは罵声が上がる




『早くも3番人気に賭けた者達から凄まじい罵声だ!そのままホープ、殿の位置で緩やかなカーブを勢いよく曲がり、距離を縮めていきます!』




後方の集団が見えてきた


抜いたり、抜かれたりを繰り返しながらもスピードを出し続け飛翔している


そして、ほとんどの選手が減速し曲がるヘアピンカーブに差し掛かった




「いま!」




私は右腕をL字の形にし、そこに全力を集中させる


位置は外壁と接触するか否かの距離


やがて私自身もヘアピンカーブに差し掛かろうとしていた




「はあぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」




『なんと!ホープ選手、減速しないままヘアピンカーブに突っ込んだ。しかし!しかし!そのままぶつかる事なくスムーズにカーブを綺麗に曲がっていく!』




『なっ!?』




実況の声にルミナスの狼狽えた感情が私の脳内に入ってきた




更にこの後のS字カーブも一切減速無しで曲がり、一気にトップまであと少しという所まで上り詰めた




『凄い!凄いぞホープ選手!殿から一気にごぼう抜きだ!』




『なるほど!右腕の外側に大きなバリアを張り、壁に当てる事でスムーズなコーナー飛翔が可能となりますね!これは驚きました!』




『つまり腕をローラーのようにしていると?』




『簡単に言えばそうなりますね。しかし、力加減を間違えると一気に壁に弾き飛ばされてしまいます。それを難なくやっているという事は、かなり練習されてるかと……』




実況と解説が驚いている中、私は直線でルミナスと並ぶ




『面白い!面白いわ!さすが私の惚れた飛行少女!そして私の認めたライバル!こうでなくては!楽しいわ!凄くいい気分!』




『こちらは凄く良くない気分よ!』




そして2人並んでスプーンカーブを曲がる




ここで最後の直線。私はバリアを使い過ぎた為か、目が霞む


後は根性のみで飛翔する




『さあ、最後の直線だ!2番人気のミッドナイトが必死に追いかけるが、もはやその差は絶望的!ルミナスかホープか!ルミナスか!ホープか!お互い譲らない!譲れない!さあ、どんどん伸びる伸びる伸びる!ミッドナイトが離される!おっとルミナスがわずかに前に!前に!前に!ホープ喰らいつく!ホープ喰らいつく!喰らいつくが離された!離された!そのままゴォォォォォォォォル!』




その実況の終わりの言葉と共に、私の身体は糸が切れたように動かなくなり、スピードを落としながらも地面に落ちていったのであった


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