ダンジョン

 卒業式がもうすぐ来るので早帰りの日も多くなってきた。すると、また俺はダンジョンにいるのであった。


 レベルを少しでも上げないと……


「『怠惰スロウス』・解除』

『グレーターゾンビのテイムに成功しました。』

『グレーターゾンビのテイムに成功しました。』

『グレーターゾンビのテイムに成功しました。』

『レベルが上がりました。』


『ユニークスキル『怠惰スロウス』の効果:『愚者の心得』の発動に成功……』

『ショートカット『契約・解除』を作成しました。』


 むむむ、ショートカットだと。

 ユニークスキル名の通り、怠ける用スキルのようだ。


「で、やっぱりいるんだな一ノ瀬。」

「うん。この前は出ていって悪かったね。けどやっぱり凜の事は放っておけない。」


 ふむ……そう言ってくれるのはありがたいが、こっちも心配しているんだけどな。


「でも、隷属の首輪は一つしかない。グランがもしそんなに沢山持っていたらちょっと疑うくらいさ。」

「あぁ……この前集まった時に言ってたグランさんってこちらのお爺さん?」

「どうも、ワイトロードじゃ。」

「ああ……はい。」


 そう、三人で集まった時に既にグラン達の話もしてあるのだった。

 歳の差にちょっと慄いている……いや、どう接していいのか分からないんだな。


 すると唐突に一ノ瀬が背負っていた小柄なリュックを漁って首輪をとりだした。

 その首輪…………見覚えしかない。


「これ、坂田君から貰って……坂田君は本当ところ、互いに着け合って三竦みにすれば事実上の隷属関係はなくなると考えてたらしいんだけど……」

「三竦みって事は……坂田も持ってるのか?」

「うん、探索者ギルドが大事に管理していたのを持ち出してきてくれたんだって。ダンジョンの宝箱からのレアドロップだとか……」


 なるほど。三竦みっていうのは全員で一人ずつ奴隷を決めるという事だ。

  ABCの三人を想定しよう。Aがその奴隷であるBに対して無理な命令をした場合、Aに首輪をつけている主人であるCが制裁を加えられるシステムだ。

 もちろん、人を跨いだ命令、つまりAがBに対して「Cにこう命令しろ!」と言うのはあらかじめ最初から防いでおく。



 つまり「奴隷も奴隷を所有できる」っていう前提は既に検証済みなんだろう。

 なにせ一ノ瀬に渡す前、坂田は首輪を当初二つもっていたんだからな。



「でも、なんで坂田は三竦みを拒否したんだ?」

「ああ……それはね、ボク達が協力した瞬間にそのシステムは機能しなくなるからだって。」


 中学の頃からの友達だからヤツも警戒しているんだろう。そんな結託する訳無いのに……いや、きっと坂田の事だしこれは皮肉だな。

 曰く、「お前らデキてんじゃねーの?」と。


「なるほどね。大体の事情は分かったよ。じゃあ坂田の思惑に乗るとするか。」

「ボクは絶対、凛にと思ってたから……」

「支配する側なんだな。」

「ははは。」


 はははじゃねーよ!

 

「うむ。実は儂も空気を読んで言い出さなかったが、隷属の首輪は互いに装着することが出来る。お主らがこうなる事はもはや一目瞭然じゃった。しかし、発動の条件には強い服従の意思が必要な事に変わりないのじゃ。」


「強い服従……互いの同意じゃだめなのか?」

「うむ。その手の実験はやり尽くされているのじゃ。例えば強い恐怖心から……あるいは心の底からメリットを感じる取引とかじゃな。ま、多くは拷問じゃな。」


 むごいな……

 しかし、ここで一ノ瀬が思い出したように口を開く。


「それはね、坂田君がなんとかしてくれてるよ……そんなのって無いじゃんか。」


 そうだった。流石にそんな展開、いや……どうなんだろうか。

 ダメだろ! 絶対友達を拷問とか!!

 

「そう、付与魔法ね。エンチャント……つまりその強い服従の意思という制限を

弱体化して大幅に緩められたらしいよ。寝ずに作業して、魔力ポーションを吐くくらい飲みまくったなんて……感謝しなきゃね。」


 マジか……アイテムへの付与はそんなに大変なのか。

 レベル3000でなお魔力が足らないなんて最悪の魔法である。


「じゃあ、ボクのは凜に。そして凜のはボクに。」

「分かった。なんか……背徳感が凄いけど……」


 一瞬、金属のヒヤッとした感覚が首に伝わって、首を通す用の穴がガシャっと閉じる。すると首元に紫色の禍々しい魔法陣のようなものが浮かんだ。


「うん、凜と奴隷契約が出来たとワールドアナウンスがきたよ。これで成功だね。」

「……あ、ああそうか。」


 おかしい……俺の方には来ないな。

 多分大丈夫だとは思うんだけど……

 あれ……一ノ瀬の首輪が透明になっていってる。


「ああ……ボクの首輪透明になってる?」

「うん……なんで?」

「これも付与魔法らしい。そして、凜のはあえて透明化を掛けないって。だから隠すのにマフラー持ってきたんだ……どうぞ。」

「ありがとう。」


 なぜ俺のは透明化を掛けない?何を考えているんだ……坂田。


「まぁ、今すぐダンジョンフラッドが起こるわけでも無いんだから一緒に探索しよ?」


 一ノ瀬は可愛らしくニコっと笑ってそう言った。



 








 










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