強すぎる催眠おじさんについて

『レベルが上がりました。』

『レベルが上がりました。』


 おかしい……俺の部屋にはグランとライム。

 レベルアップが二回連続?


 眷属のグランとライムが近くにいて敵を倒していないのに……レベルアップの間隔がおかしい。いや、必ず理由はあるはず……ただ……思いつかないな。


「そういえば、グラン。魔人ゲルドってのはどのくらいの強さなんだ?推定レベルは?」


「想定できんのう、ただでさえ基本スペックが高い魔族の事じゃ。そして何度もいうがこの儂をユニークスキル『強制催眠』を使わずに瞬殺したのじゃからレベル3000はあってもおかしくはないのではないかのぉ。」


「基本的に催眠系スキルはレベルの差で作用するんだよな?」


「ああ、そうじゃ。とはいえユニークで催眠というのはあまり聞かん。主に奴隷商人が使う催眠系スキルの中でもユニークともなれば……そうじゃな……名称から考えれば“相手をレベル以外何の条件も無く自分の従魔や奴隷に出来る”ということじゃないかのう?」


「つまり、向こうの世界の奴隷商人が使う催眠系のスキルは他にも条件が必要って事か?そして従魔って人の場合は奴隷ってことなのかな。」


「そうなのじゃ、例えば弱っていたりある程度服従の意思が必要だったりするのじゃ。魔人のスキルは推測の域を出ないが……何の対策も講じないよりはマシじゃろうて。」


 確かにその通りだ。

 催眠系でもユニークスキルとなれば、やっぱり効果は強力なんだろう。

 しかも催眠おじさんことゲルドのレベルは超高い。


 ……戦闘にすらならないな。


「前、話してくれたけど……俺のスキル『怠惰スロウス』のような特殊な場合を除いて人の眷属をNTRする事は出来ないんだろ?じゃあ、俺が誰か信頼できるヤツの奴隷になればいいじゃないか。」


「いい加減NTRっていう言い方やめぬか?ちょっと儂の世界にはそういった事があってじゃな……復讐みたいな話も絶えなかったのじゃ。それはそうと確かにそれは使えるのお……『隷属の首輪』さえあれば。」


「『隷属の首輪』だと?なんたるファンタジー世界なんだ!そうか、それさえあればスキルとかいらないって事か。」


「その通りじゃ。ただ、隷属の首輪って儂の世界では良いイメージが無い……支配をかける時に強い服従の意思が必要なんじゃが……拷問するんじゃよ。」


 拷問……ッ……!!

 確かに用途を考えれば拷問が一番の最適解?なのか……?

 

「じゃがな……その案にも一つ欠点が存在する。魔人ゲルドには絶対その首輪をしている事をバレてはいけない。」


「首輪をッ?!なぜ……ってまさか!」


「ああ、そうじゃ。『隷属の首輪』は普通壊れない……“ふつうは”じゃ。しかし魔人ゲルドの圧倒的なステータスならば破壊は容易じゃろう。破壊された瞬間、お主でもテイムされてしまう。」


 人間にテイムって言葉使う……ものなのか?

 ただ……そうか!そうだよな!

 破壊することは可能なのか……そしてそれを危惧するという事は、首輪が壊れた時に奴隷の契約は終了してしまうという事だ!

 

「そして儂の使える空間魔法『アイテムボックス』には『隷属の首輪』がある!これを使うのじゃ。」


 グランは何もない所から首輪を取り出す。

 すると少しライムが悲壮感を漂わせている。


「キュイ・・・・・」

「ライム殿、落ち込むのは早いのじゃ。儂が使える空間魔法の限界はそうじゃな……この部屋についてる“くーらー”という機械くらいの大きさなのじゃ。そして儂は持ち物がいっぱい入っている。」


 クーラーを例えに使うかぁ。

 でもそうか、いくら無限の魔力とはいえ魔法性能には制限があるという事だよな。


「この『隷属の首輪』を、なにか隠すものを買ってくる事じゃな。マフラーとか、中二病っぽくてかっこいいんじゃないかのう。」


「マフラーか……。編んでくれる彼女がいたら良かったんだけどなぁ。」

 

 どうやら、俺は人生の“温もり”というヤツを少しも知らずに死にゆくらしい。

 春先はまだ寒いなぁ。誰か……タスケテ。


「凛、魔人ゲルドは大敵じゃ。ただのぉ、手が無いわけでも無い。この前聞いたお主のステータス値はレベルに対して高すぎる。それこそ聞いた事ないくらいにのぉ。だから、この先力を付ければ勝機はある。」


「ありがとう。頑張ってみるよ。」


 最低限の催眠おじさん対策、『隷属の首輪』。

 これで、本当に大丈夫なのだろうか。


 俺の内心の不安に反して不気味なくらい雲一つない空が、揺れたカーテンの隙に映った。







 




 

 

 

 

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