寝返りと倫理

 とりあえず『怠惰スロウス』のスキルは寝返らせる感じの力と仮定した俺は立ち止まっていた。

 

 もし命令されて仕方無く襲ってきていたとしたら魔物達を倒すのって倫理的にどうなんだろう?魔人ゲルドは『強制催眠』というスキルで無理矢理モンスターに命令できるらしいし・・・


 前倒した分は何も知らなかったし、都合も色々あったので別に割り切ろうか。そもそも人類は他の生物の犠牲の上で生活しているただの霊長類だしな。


 しかし・・・俺は別にモンスターを倒さなくても生活ができるし無駄に殺すのもどうかと思うのだ。

 とはいえレベルを上げないという手は無い!既に危ない奴らが沢山居ると知ってしまったあまり引くに引けないのもあるし・・・


 それで折衷案がテイムだ。・・・ただこれも正直あまりやりたくない。

 金魚を死なせた小学生の話じゃないんだ、一体誰が責任を持てるというのか。


「従魔と眷属っていうのは何が違うんだ?」


「テイムした後に従魔となって、名付けが出来る特殊なスキルと言うのがあってじゃな・・・お主の『怠惰スロウス』もその一つじゃろう。それで命名し眷属となるのじゃ。儂に名前を付けられたのじゃからのう。」


「なぁ、グラン。従魔ってのは自分で解放することが出来ないのか?そして、解除したら再契約はできるのか?」


「出来るのじゃ!ただ儂は解放してもらわないで大丈夫じゃぞ?別にもう年齢も年齢じゃし・・・お主のレベルが少しでも上がれば危険も少なくなるじゃろうし・・・

 再契約は出来るものの経験値はもらえないのじゃ、そんなうまい話はない。」


 いやちょっとなんか沁みるな、グラン爺。心配されている事をつくづく感じる。

 お父さんを・・・ん・・・?俺にお父さんなんて居ないよな。

 これは父への憧れと幻想か、今に始まった事じゃないな。


 そしてやっぱり、従魔は主人の意思で解消できるんだ・・・!!

 つまりテイムした瞬間解放すれば経験値のみが手に入るという事になる。

 ・・・まだ俺の知らないルールが無ければ。


 もしこれが成功すれば、倫理観と経験値の問題はクリアだ。

 流石に人類の方はこんな余裕無いだろう・・・人類の国家で魔物と人類どちらが優先されるかは自明である。


 無駄に性能のいいスキルにも変な問題が付きまとうので厄介極まりない。

 原因不明のレベルアップだけなら倫理観もなにも無いのに。




 ―――そんなこんなでようやく七階層を攻略していこうか。


 「ユニークスキル『怠惰スロウス』!!そして契約解除ッ!!」

 

 淡い光に包まれると全ての魔物達が一斉に攻撃を停止する。

 よし、これで複数同時テイム実験も成功だな。


『従魔:グレイウルフの獲得に成功。』

『従魔:グレイウルフの獲得に成功。』

『従魔:グレイウルフの獲得に成功。』

『従魔:グレイウルフの獲得に成功。』

『従魔:グレイウルフの獲得に成功。』

『レベルが上がりました。』


 これで攻撃性が失われれば万々歳なんだよな。

 グレイウルフ達は怯えた様子で一斉に去っていく。


 うまい事いったな。よし、このスキルの使い道がようやく分かってきた気がする。

 ちなみに『怠惰スロウス』のステータス上にあるスキルの説明は何一つ変わっていなかった。


 「ステータス」



 *******

 名前:リン・テンドウ

 レベル601

 称号:『魔王の子』

 技能:ユニークスキル『怠惰』

    スキル『俊敏』『闇魔法』

 耐性:窒息、魔法攻撃

 攻撃:6010

 生命:6010

 魔力:6010

 *******


 

 うむ、多分レベルは減ってない・・・はず。

 つまり従魔を解除してもテイムした時のレベルは下がらない。


 これは・・・使える!!

 他者の従魔、あるいは眷属を強制的に解除する事が可能・・・ッ!!


 魔人の眷属だったグランを寝返らせることには既に成功しているからな。

 これならレベルを効率よく上げられる気がする。・・・ただ欠点はこのスキルはあまり人に言うべきものじゃない事だ。

 

 いや全てのスキルにも言える事かもしれないが、このスキルでテイムしてレベルを上げる場合、誰かの眷属や従魔が必要になる。


 敵から勝負を仕掛けてくるような展開で、従魔を引っ込められたりしたらせっかくの寝返りチャンスが失われてしまう。


 グランを倒す程に強いという・・・そして魔人との対戦を想定しておこうか。

 

 





 



 



 

 

 


 


 

 

 


 


 


 


 

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