謎の美人悪魔

『レベルが上がりました。』


 四階層に来てすぐに異常を感じた。

 辺りは異常なまでの静寂に支配されており、モンスターのうめくような声は全く感じられなかった。


 それでもスタスタと歩を進める。

 ライムも弾みながら着いてきてくれている。

 しかし俺達の足音だけがその場に取り残された様で何とも不気味だった。


 ・・・おかしい、全くモンスターの気配がしない。

 グランの額にも若干の汗が滲んで、ハードなイケオジ面を顰めていた。

 魔力感知にも引っかからないみたいだ。



 しかし突如として、ダンジョン内に美しい女性の声が反芻した。


「あらぁ、アーノルド。久しぶりじゃない?

 ん・・・?賢者もいるわね。あなたもダンジョンに来てたの?」


 天上の美を体現した様な美しい金髪を靡かせながら、その麗人は刀を抜く。

 

 ヤバいぞ・・・グラン!!これは本格的にまずい。

 本能的に危機感を抱くッ!!これはいけない方の美しさだ!!

 

 万人を魅了してやまない人工物のような完璧な輪郭に、澄んだ瞳。

 空想上の女神のように麗しかった。


「あやつは『剣魔』・・・伝説の悪魔じゃ!!

 逃げろ凜。抵抗してもどうせ死ぬ!・・・儂は楽しかったぞ。

 友人にも会えたし・・・なによりお主と過ごした時間は短かったが楽しかったのじゃ。儂がここを食い止めておくから早くいくのじゃ!!

 少しの間じゃったが礼をいうぞ、凛。」

 

 死に際の挨拶をするなっ!涙を浮かべなくていいからッ!!


 ヤバい実力の持ち主だということが空気を介して肌にピリピリと伝わってくる。

 グランと対峙した時に感じた比ではない隔絶したオーラに今にも逃げ出したくなるが、どう逃げても追いつかれて殺される未来しか感じ取れなかった。

 

 しかし・・・俺には『怠惰スロウス』がある。ピンチの時に何度も救ってもらった大罪の名を冠するユニークスキル。

 さながら桃太郎や水●黄門のような馬鹿げたスキルだが、テイムを成功させる代物である事は既に分かっていた。


「アーノルド、あなたとはつもる話もあるけど・・・あなたが本当にあの人か確かめさせてもらおうかしら?」

 

 その絶望的な美貌を放つ麗人は剣を構えてきた。

 ・・・なので俺は襲い掛かってくる前に叫ぶ。

 俺が今一番信頼できるスキルの名前!


怠惰スロウス!!テイムしてくれ!!」


「スロウス・・・?何それアーノルドぉ・・・?」

 

 煩い。さっきからアーノルドって一体だれなんだよ全く!

 いや毎回知らんヤツでてくるな!

 てかこの超絶美人は一体・・・・?

 ・・・間を置いてみたものの一向にテイム成功の旨は脳に響かない。


 「キュイッ・・・!!!」

 隙を見計らったようにライムが、俺と戦ったとき披露した剣の放出攻撃を悪魔にけしかける!!

 ・・・本当に有能な部下だ。

 しかし、いとも簡単にスッと差し出した左の手の平で受け止めてしまう!!


「これは・・・探してた私の魔剣・・ようやく見つかった・・

 ・・・それはそれとしてアーノルドかどうか確認しましょう。」

 

 いや切り替え早いなおいっ!!

 疑問はずっと湧き続けるものの・・・なぜか『怠惰スロウス』は発動しない。

 俺の今までの自信はいとも容易く崩れ落ちた!


「じゃあ行くわよ??ユニークスキル『絶剣』」

 

 いやヤバそうなユニークスキル!!

 "剣魔"が信じられない速度で剣を振り下ろすと空気がぶるると震える。

 

 グランっ!!俺の前にでるなっ!!

 死に際に加速した時間の中でグランが少し悲しく笑ったように見えた。

 しかし、斬撃はグランを通り越し俺の首を目掛けて進む。


 ああ・・・今度こそ死ぬんだ。

 斬撃が少しだけ見えたような気がする・・・

 死に際にゆっくりと感じられた濃密な景色は鮮やかだったが、手足の方にも斬撃が飛んできている。


 いやそれは流石に・・・オーバーキルだろッ・・・!!

 


『ユニークスキル『怠惰スロウス』の効果:『現実逃避エスケーピズム』の発動に成功しました・・・・』


 

 

 

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