魔人——最近、原因不明の失敗に悩まされている。

 魔人ゲルドは焦燥していた。

 

 そこは深層にあるダンジョンマスタールーム。

 ここから魔物を監視・制御することができる。

 

 特異なユニークスキル『強制催眠』を天から与えられたゲルドは魔王軍の幹部集団の中でも優遇されていた。

 次期魔王の声すら届くようになった彼は、直々に世界有数の人口密度を誇る東京にピラミッド型のダンジョンを与えられていた。


「な・・・なぜボス・ワイトの反応がない!!

 他の魔物達も反応が少し消失している・・・!!

 これではに正確な魂の数を伝えることができないではないかっ!!!」

 


 ガンッ!!と魔人ゲルドは自身の椅子を蹴り飛ばす。

 ゲルドはそのユニークスキルで眷属の経験値の上昇を認識することができる。

 人間を襲わせて、その回数と強さを記録していた。

 

 世界に5つしかないピラミッド型のダンジョンは「異世界ダンジョン化計画」の主要拠点で強力な魔物達が配置されていた。


 ただのスライム一匹ですら強力な個体を主から譲り受け、さらには自ら世界を歩き集めた強力な魔物達で構成されていた。

 

 "覚醒した"魂の収穫の為、ダンジョンで殺した元賢者がアンデッドに転生してしまった事は例外だったが・・・それ以外は上手く進んでいた。

 

 魔人にとっては下賎な人間如きが高位の術師だとは認めたくない事実だが、過去の実績からも賢者は相当な使い手である事は否めなかった。

 

 ボス・ワイトに転生したのは・・・偶然か?

 ・・・・あそこでもう一度殺せばよかったかも知れない。

 

 その時から怪しいとゲルドの本能は警鐘を鳴らしていた。

 しかし、昇進を焦っていたゲルドは自らが一番の誇りとするユニークスキル『強制催眠』を使いグラン・アルベルトを眷属にした。


 アンデッドは物理攻撃で殺せない・・・非常に厄介だった。



「まさか・・・裏切られた?

 いや、眷属は主人に叛意を起こすことが出来ない・・・

 眷属とは絶対的な繋がりだ!

 眷属に裏切られるなんてことはありえるはずがない!!

 ・・・となれば殺された?一体誰に!!」


 巡る思考は魔人ゲルドの思考を高ぶらせ、その目を充血させた。

 普段は冷静に策をめぐらす魔人ゲルドは、責任を負わされる未来を想像しただけで思考は狂い暴走していた。


 その原因不明な出来事はそれほどまでに心を蝕む存在だった。

 早く対処しなければ・・・魔人ゲルドの未来は無い。




 ◆

 一方その頃・・・天瞳凜は、チート元賢者の仲間を得たのをいいことに見張りをさせ、ダンジョン内に持ち込んだ寝袋にくるまってぼーっとしていた。

 

 この瞬間は誰にも共有されないが、凜の特別な時間だった。

 誰に羨望されるわけでも無い至高の瞬間。

 

 『怠惰』とは怠けるだけのことでは無い。

 人は一生懸命物事に励んで初めて、至福の怠惰を享受できる。

 何かについて着実に一歩一歩、努力していると自分が確信できる時、人は初めて憂いを無くし、ベッドにその身を完全に預けられる。

 

 大切なのはその人生における“バランス”なのだ。

 

 それがユニークスキル『怠惰スロウス』の性能を向上させてゆく。


 その間、賢者に統率されたスケルトンの軍勢は魔物達を徹底的に襲う。

 大量のアンデッド達はダンジョンを思い思いに侵略していく。

 そして凜は経験値の二割を受け取り、半自動的にレベルアップの恩恵を受ける。

 

 そろそろ冬休みも明け、高校生活が始まってしまうのでこの状態は良い。

 家にいても稼げるこのシステムはこの上なく理想的だった。


『レベルが上がりました。』

 





 

 


 



 


 

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