ボス・スライム

 世の中の探索者は多くの場合、食料を選ぶ。

 ダンジョンに長期潜伏する場合、保存が効き荷物にならない軽いものが求められるからだ。

 

 この男、天瞳凛てんどうりんはスライムに殺されかけて以来、ずっと慎重になっていた。

 まずは缶詰を買い漁り、かつお節やサバ節といった防災用食料。そしてなにより大切な合計4リットル水をリュックに背負いダンジョンに旅立った。

 




「ふぅ、しんどかった。」

 

 またもや旧聖華学園・グラウンド跡ダンジョンまでやってきた。

 今日は全速力で走ってきたので、某少年用靴会社の広告みたいになってしまったぞまったく。


『スキル:『俊敏』を獲得しました。』


 お、スキルが手に入った。俊敏。

 探索者情報サイトと照らし合わせても、2つ目のスキルを手に入れるには2~

 3週間程かかるらしいので俺は運がいい。



 強くなったステータスであまり重さは感じなかったが、荷物がかさばって嫌になってくる。定番のマジックバックみたいなヤツが欲しいところだ。


 今日もスライムが湧き出ているので次々狩っていくが、それにしてもなんで入口があんなに狭いのにダンジョンはずっと明るいんだろう。

 不思議パワーってやつは全く凄いものだ。


 

 ダンジョンを迷いながら走り回って、スライムを10匹程キックで仕留め終えたところで1階層ボス部屋の前に来た。


 

 荘厳な扉は威圧感がものすごかったが、やっぱり前に進みたい気持ちを抑えきれず取っ手に手をかけてグッと押してみる。



 するとそこには巨大な球・・・スライムが堂々たる威圧をもって佇んでいた。


 しかし、凜には圧倒的な自信があった。

 ひとつは圧倒的なステータス。

 これのおかげで特に最近は特に超人的な力を発揮できる。

 そしてもう一つは『窒息耐性』。これならスライムの不意打ちを潰せる。

 試しに風呂で実験してみたら、少なくとも1時間は息を止めていられたことは既に確認済みだ。



 ボス・スライムは戦闘態勢に入ると体を触手のように使い攻撃してくるが、凛は「パンっ!!」という破裂音とともに殴って相殺し、スキル『俊敏』を発動させながらスライムに近づいていく。

 

 するとスライムはなんと自分の身体から高速で剣を発射させて攻撃してきた。


「なんでもありかよ・・・」


 しかし、凜も『俊敏』を発動させているので難なく躱す。

 そしてそのまま接近していく。


 

 段々と距離が縮まるにつれて、ボス・スライムは近づけまいとしてゴムのように体を拡げると凛を包み込むように窒息攻撃を仕掛けてくる。


 が、凜は体を薄く拡げたボス・スライムに触れると、


「そこまでだ!デカスライム!!俺の眷属になってくれ!!」


 凛はまさかのボス・スライムを眷属にすることを考えていた。

 スキル『怠惰』には確かに眷属の説明があったが、検証はまだのはずだった。

 しかし、なぜ凛はここで急に思いっ立ったように叫んだのか。


 ◆『怠惰』:何もせずにレベルがあがる。

     また、眷属を作り経験値の1割を納めさせられる。



「正確には、俺のマジックバックになってくれ!デカスライム!!」


 リンが着目したのは、ボス・スライムが自分の身体の大小を自在に操る能力。

 そして、スライムが剣を放出する姿を見ていた彼は荷物を代わりに持って貰うためボス・スライムをできれば自分の眷属にしたいと思っていた。


 凛とボス・スライムの間に緑色の優しい光が広がるとスライムは触手を収め、攻撃の姿勢ではなくなった。

 

「まさかこんなにあっさり上手くいくなんて。」


 少し遅れて、いつもの声が響く。


『従魔:ボス・スライムの獲得に成功。』

『ユニークスキル『堕落』を獲得しました。』

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