即帰宅

 ダンジョンを発見した俺は、安易に近寄らず即帰宅!

 長年の修練を経た帰宅部にしかできない究極の選択。

 ひとまず、妹とお母さんのことだ。

 ついでに、ダンジョンをいったん見なかったことにして心の安寧を図るのだ。


 完璧な作戦。

 家までのルートは自転車で20分。

 道は完璧にたどれる。

 最近はなぜか走った方が早いのだが、普通に目立つし嫌だ。

 どうも俺は日の当たらない星に生まれたようだ。

 そんなことより、個々の曲がり角を曲がって家だ!


『レベルが上がりました。』


 「母さん、雷華!二人とも無事か!おーーーい。」

 

 玄関で恥も知らずに叫んだ。

 家で叫んだのはコ●亀が終わって以来かもしれない。

 それくらい今の俺の状況は焦燥しきっていた。


 「お兄ちゃん、無事だったの!良かった~。心配したよ!

 いつもの時間になっても帰ってこないから、何かあったのかって。」

 

 ちょっと涙目で抱き着いてきたので、罪悪感が深まった。

 お兄ちゃん、爆睡決め込んでたからな。

 まったくいつもの帰り時間が早すぎたことを考慮すると、罪な帰宅部である。



「凛。おかえり。

 震度5弱の地震があったのに、なんで連絡しなかったの。

 今回ばかりは本当に心配したんだから。」


 ふらっと、玄関からでてきた母さんは困った顔をしていた。


「いや。ほんとにごめん。

 全然寝れてない事、前に相談してたじゃん。

 それでちょっと、今日一気に眠気が来ちゃって・・・」


「そういうことだったの。

 次からはすぐ連絡するように!

 あと、あまりひどい様なら病院行きましょう。常田先生はいいお医者さんだから、きっとよく検査してくれるわ。」


 そういうと、俺たちはリビングへともどる。

 あまり散らかってはいなかったから片付けてくれたんだろう。

 こういう些細な愛情にすこし嬉しくなったので、今度何か買ってこよう。


 テレビをつけると、煩わしい警戒色と警戒音で『大型迷宮出現』と書かれていた。


「やっぱり。俺帰るとき見たんだよ。ダンジョン。

 ピラミッド型でさ、動いてる人影もさ。うちの生徒たち、入ってなきゃいいけど。」



『えー、本日午後5時半頃、全国各地で迷宮と思われる建物が地震を伴って出現しました。専門家は極めて異例の事態であるとし、警察は迷宮付近に住む人々に対して警告し、なるべく近寄らないようにと注意喚起を促しています・・・繰り返します。』


「えぇ、ダンジョン?!現実に!!?」


 妹の雷華がこういうの好きなのは知っていたが、まさか行く気なのか?

 でも確かに、これは選択だ。

 もしダンジョンが俺の思うようなものであったならば、地上では犯罪者が激増し自らを守る力がなければ奪われることだってあるかもしれない。

 俺も考えなきゃいけない。ダンジョンに行くリスクを取るのか、行かないリスクを取るのか。




*****

「魔王リドル・・・まさか地球にまで・・・。」

隠れるような小声で、凛の母・天瞳アンリは憎々しげにつぶやいた。











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