第2話 最近、妹の可愛さに悩まされている。


「お兄ちゃん、ただいまー。あっ、お母さん今日も遅くなるらしいから私が夕飯つくるね。」


 妹の天瞳雷華てんどうらいかが帰ってきた。

 今中学三年生で忙しくなる受験の年なのに、最近夜遅く帰ってくる母に代わって料理を作ってくれるのだ。

 

「雷華の料理は上手いからな、本当に助かるよ。皿洗いは任せろよ?。」

 

 カッコつけてみたものの、料理の「り」の字も知らない俺が言ったところでマイナスなわけだ。

 料理はなんかいつも上手く作れない。

 レシピ通りにやってるはずなのに。


「あはは。お兄ちゃんの料理めっちゃまずいからね!」


 ふぅん。言うじゃないか。

 すっかり兄の偉大さを忘れてしまっているらしい。

 とは言っても、昔の反抗期でツンケンした態度がこんなにも明るくなるとは。

 最近の妹はとても可愛らしい。



「じゃあ、その・・・出来たから隣、す、座るね?」

 

 出来立ての料理とともに妹がキッチンから出てきた。

 頬を赤くし、ドギマギした態度は間違いなく今年のベストバウトだ。

 間違いなく俺の心を穿つ一撃だったので一瞬動揺したものの、すぐに表情を作り直す。

 全く高校生になってシスコンとは笑わせる!


『レベルが上がりました。』

 

「「いただきまーす。」」


「おぅ、今日はポークチャップかぁ。どれどれ。

 美味ええええええ!!なんだこれ!じっくりと火入れされた豚肉は外はカリっと中は肉肉しい柔らかさ!

 バターの風味とコクが、焦がしたケチャップソースの世界を何十倍にも引き立ててやがる!!!」


 どこぞの料理系作品みたいになってしまったが、そんなことより妹の才能が恐ろしい。

 美少女で勉強に運動もできる。その上料理もできる。

 これは婿の成り手にも困るまい。

 今だってこんなに褒められて、頬のニヤけを我慢して顔を紅潮させているのだ。


 

「ほ、ほ、褒めすぎだっていくらなんでもお兄ちゃん!」


「褒めすぎてなんかないぞ。料理のうまい妹がいて俺はうれしい限り。」

 

 母さんは女手一つで俺たちを育ててくれている。

 最近はパートで夜あける事も多くなった。

 せめて家事を手伝っているものの、不景気と相まって負担はあまり軽くならない。


 

 そんなこんなで夕食も終わり。


「俺はお母さんの分は冷蔵庫にいれて、片づけをしとくから。」


 雷華も母さんのことでちょっと負担が増えているようだから、俺の出来る事をコツコツやるしかない。

 バイトも禁止なので、家事は自分の専売特許なのである。


「ラジャ。じゃあ私は受験勉強あるから部屋戻るね。おやすみ~」


 そう言って雷華は自分の部屋に戻っていった。

 俺はなんとなくの不甲斐なさを感じるままに皿を洗い続けた。



 



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