第四話「銀行強盗でもしないと生きていけないの」
昼下がりの南都カントカの市街地、武器屋、空き家、カフェテリア、銀行、質屋、注射器屋、保険会社、さまざまな店舗が店を構えている。
「で、その指名手配犯とやらはどこにいるんだ?」
朝起きて、すぐに昨日戦った場所にトラックを走らせ戻ってきた。昨日戦った跡はすでになく、深夜に作業でも行われたか修復されていた。
「そいつは猫みたいで猫じゃないらしい、ちなみに人みたいで人でもないらしい」
「どういうことですかそれ」
「んーそいつは気まぐれらしいから……あ、いた」
トリプトが指差す方を見る。そこは銀行の中、一人、いや一匹?の女が一人の男の子を人質にして強盗を働いているところだった。何人かが血を流して倒れている。おそらくはそいつがやったのだろう。
「銀行強盗流行ってんの? なんでこんな銀行強盗したがるやつが多いんだ」
そいつは一言で言ってしまえば人と猫のキメラだった。顔は猫の形に近いのに瞳や口は人間に近く、猫の鼻をして猫のヒゲが生えており、耳なんて猫の耳と人の耳とで計四つもある。体毛が猫のように毛むくじゃらなのに髪の毛も生えていたり、手も猫のような爪や肉球があったり、そのうえ服まで着ている。
「なにあれ!? きもっ!」
「なんか、何なんだあれ。能力なのか?」
「不思議な生き物ですね……初めて見ました」
まぁ、相手がどういう存在だろうと関係ない。僕たちはあいつを捕まえて警察に引き渡し、そしてお金を手に入れる。
「よし、トリプトとヒスチンは前に立って盾になれ」
「はぁ!? 嫌よそんなの!」
「大丈夫、俺が責任持ってヒスちんを盾にするから!」
「ちょ、ふざけんな!」
「ささ、こやつめは私に任せてくださいませ、お二人はどうぞごゆっくりと」
トリプトがニヤニヤと笑いながらヒスチンの首根っこを掴んで宙に浮かせる。ヒスチンは暴れるが四肢は空を切るばかりで意味はない。それはそうと、トリプトの謎のキャラ付けは一体何なんだ。
「ノミアは僕と一緒に動いて、隙を見て手錠を投げつけてね。もしなにか攻撃されそうだったら手錠で離脱するよ」
「はい! お兄様!」
「よし、突撃!」
まずトリプトがヒスちんを抱えてドアを蹴破ると、銀行にある視線の全てがトリプトに注がれる。そしてトリプトはヒスちんに拳銃を突きつけてこう叫んだ。
「そこの猫女! 動くんじゃねぇ! こいつがどうなってもいいのか!」
「たずげっ、んむー! ぐむー!」
トリプトはヒスちんの口を塞ぐようにしながら左手で抱え、右手で拳銃をヒスちんのこめかみに当てている。そんな異物の登場によって銀行にいる人と、猫女は動きを止めた。唯一動いているのは困惑している僕たちだけ。
「は……はぁ??」
あまりの出来事に人質にしている男の子の拘束が少し緩む。その隙を逃さず暴発によって手錠を生み出す。
「ノミア!」
「はい!」
僕とノミアはトリプトの背後から横へ飛び出して、ノミアは手錠を男の子に向かって手錠を投げつける。何かを投げつけられたことを視認した猫女は少年を前に突き出して盾にした。投げつけられた手錠は男の子の胸に衝突する。
「ニャッ!?」
そのまま手錠の鎖を縮めて男の子を猫女から奪う。その様子を見たトリプトはヒスちんを猫女に投げつけた。
「うおりゃぁー!!!」
「きゃあぁぁぁ!!!」
「ニャアァァァ!!!」
投げつけられたヒスちんを猫女は横に避ける。
「げふっ」
ヒスちんを目隠しに使いトリプトは一瞬で猫女との距離を詰めた。そして猫女のお腹を透過した拳でぶち抜く。透過しているため猫女にダメージはない。猫女はトリプトの腕に噛み付いた。だが透過によってトリプトにも攻撃は通用しない。トリプトはそのまま壁まで押し出して猫女の体と壁を融合させた。
「こ……っんの!」
体と壁は融合し、猫女は暴れるが、もう自由に動くことはできない。僕とノミアは猫女に近づいた。けれど、半径五メートル以内に猫女が入っても、暴発の対象にはならなかった。つまり……。
「ノミア、この子は能力者じゃない」
「え? ですけど、明らかに人間では」
「あんたたち! 私の心配をしなさいよ!! 私がかわいそうだと思わないわけ!?」
突然、投げ飛ばされてうずくまっていたヒスちんが叫んだ。
「え、あ、ごめん」
「今、私とお兄様が会話してるんですけど?」
「死んだかと思ってたわ〜」
ヒスちんは泣きながらトリプトの腹を殴る。けれどトリプトは能力すら使わずに耐え、まったく効いているようには見えない。
「いやー、投げ飛ばされても怪我せずに済んだのは、普段の修行の成果だなー」
「なにが修行よ! いつもいつも殴ったり蹴ったり……ふざけんじゃないわよ!」
ぜーはーとヒスちんが息切れをして、またうずくまった時。
「なんなのよ……あんたたち……」
暴れても意味が無いと分かったらしい猫女が呟いた。猫女の方へ向き直り、話しかける。
「そうだった……名前は?」
「……無いわよそんなの」
「名前が無い? 一体どうして」
「私はねえ、実験体なのよ」
猫女はぽつぽつと身の上を語り出そうした。
「あ、あの、早くそいつを警察に引き渡してく、ください」
銀行の職員の一人が震えながらそう言った。それにトリプトが反論する。
「黙れ!! 今この名無しちゃんが喋ってる最中でしょうが!! 次何か余計なことしたらてめーの内臓かき混ぜんぞ!!」
「ひっ、す、すみません」
「んじゃ、続きよろしく」
「……」
「……」
「……えっと」
意外と長かったので要約すると、政府が人体実験をしていて、その実験で生み出されたらしい。そしてさらなる実験のために色々とひどいことされまくったとのこと。実験が嫌で実験所から逃げ出したは良いものの、お金も何も無く、人でも猫でも無い身体では働くことなんて出来ず、それどころか殺されかけたりすることもあって、今こうして銀行強盗したりしていたらしい。なるほど、指名手配って犯罪したからというか脱走してるからか。
「私はどうしたら良かったのよ! こんな身体じゃ普通に生きることだって出来やしない! 勝手に生み出しておいて、どうしてこんな……!」
慟哭して、涙が瞳から落ちた。
「何で私なんて生み出したの!?」
「うるせえボケェ!」
トリプトは殴った。能力とか関係のない純粋な暴力だった。
「だからって強盗して良い理由にはならねえ!」
「ちょ……な、何してんだよ」
いや、お前も銀行強盗しようとしてただろ、しかも不必要に被害を出そうとして、どの口がそんなこと言えるんだよ。
「だってこいつ被害者面して同情を誘おうとしてるし強盗を正当化させようとしてるし」
「……もう良いわよ……警察に引き渡しなさいよ」
「えぇ……」
そうして、警察と救急に通報を入れ、すぐに警察が来た。
「あー、ご協力感謝すっすー」
やってきた警察官は二人とも身なりがだらしなく、やる気が感じられない態度であった。そんな警察官たちに真っ先にヒスちんが話しかける。
「まぁ、かわいそうだけど、これでお金が手に入るわ……! お巡りさん、早く早く」
「あー、こいつの懸賞金いくらだったっけ?」
「知らねー、別に適当でいんじゃね」
融合していた壁と体をまた融合によって引き離し、能力によって生み出された手錠ではない本物の手錠をかけさせて警察官に引き渡した。そして懸賞金を貰おうとしたのだが、なんとここの銀行からお金を引き出して渡された。あまり制度について詳しくはないが、こういうのはその場で貰うものだとは思っていなかった。その場で貰える分に文句は無いので何も言わなかったが。現金、二万七千六百六ドルを手渡された。
「なんて言うか、すごい中途半端ですね」
「だね、まぁ多い分には困らないか」
とりあえず、一週間くらいなら生活できそうだ。それでも一週間、お金が尽きる前にまた何か策を考えなくちゃ……。
「ほら、さっさと乗れ」
パトカーに乗せられた猫でも人でもない化け物は静かに後部座席に座った。隣に一人の警察官が乗り、運転席にもう一人の警察官が乗る。隣に座った警察官は、化け物の服からはみ出た毛がシートに付くのを見て顔を顰めた。そんな警察官を横目に化け物は呟く。
「ねえ、私を捕まえたあの四人、あの人たちはまるで魔法のような能力を持っていたけれど、あれはなんなの?」
「あー? あー……」
「政府実験のやつじゃないの? なんか期間限定で政府が能力をあげるとか」
「そう、そうなんだ」
化け物は手錠で繋がった両手首を口元に近づけ、手錠を噛み砕いた。
「なっ」
手錠を噛み砕く。そんな異常な出来事への驚きにより体が硬直した警察官へ化け物は腕を振り上げ、左側頭部から顔、喉、胸、腹を一撃で切り裂いた。肉は抉れ、吹き出した血液が化け物と車内を赤く染め上げる。
「て、てめっ」
化け物は運転席のヘッドレストごと警察官の頭を腕で貫いた。ぐちゃりと音が鳴り、腕が頭から引き抜かれる。パトカーはコントロールを失い、ビルへと突っ込み、轟音と衝撃と共に停止した。
「政府実験、ねぇ……色々と調べなくちゃ」
パトカーから降りた化け物は腕に付いた血を見る。
「騒ぎになる前にここから離れて……そうだ、体を洗って服を手に入れなきゃ」
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