第16片

 デイドリームがレオと共にフィールドへ戻ると、夢香が試合をしていた。


 夢香は『自分の想像したことを周りに共有できる能力』を持つ。つまり、オペレーターのような周りに情報を伝達するには適している能力だが、ヒーローには不向きだ。案の定、夢香は何も動けないまま勝ってしまった。活躍に応じて点数がつくシステムだが、実技試験での夢香の点数はチームが勝ったポイントだけになってしまった。夢香のことを心配してしまう理由を探そうとすることを拒む自分がいた。


(だめだ……他人のことを心配するよりもまず自分が受からないとな)と自分の心に言い聞かせた。



 フィールドに入ると、夢香と目があった。気まずかったので目をそらしたが、また胸がぎゅっと締め付けられる感じがした。締め付けられる力がさっきのレオの時より強かった。試合に集中しようと思考を切り替えた時、笛が鳴り、デイドリームの缶蹴りの試合が始まった。


 デイドリームは鬼だ。俯き、目をつぶりながら数を数える。懐かしさを感じるこの動作。子供の時は平気だったが、今は恥ずかしさを覚えた。



 デイドリームは、さっきのウサギの行方が気になって仕方がなかった。

 

 デイドリームは目をつぶって数を数える間も、隠れた人を探す間も、試合が終わるまでウサギの行方ばかり考えた。もしかしたら近くにいるかもしれないと、キョロキョロしたりしていた。

 

 デイドリームの頭の中がウサギとにんじんで埋め尽くされた時、試合が終わった。


 チームは惨敗。デイドリームの実技試験の点数は0点。(これはまずいな)と思った。デイドリームは試験に落ちると確信した。しかし(まだ結果が出るまでわからないぞ)と思い直した。



 デイドリームは女性の行方と、試験の合否で頭がいっぱいになり、会議室の中でソワソワし始めた。同じように他の受験生もソワソワしている



 そして、リアムから1週間後に試験の合否が発表されることが伝えられ、全ての試験が終わった。



 デイドリームは1週間、ずっとソワソワしていた。引っ越ししてきた後の家の荷造りもまともにできず、まだダンボールに荷物が入ったまま。試験前の夜は眠れなかった。一睡もできないまま、合格者発表の当日を迎えた。コーヒーがデイドリームの眠たい心と体を起こしてくれる。


 あの日と同じように、雲一つない快晴の空模様。空を見上げると心がスーッと軽くなった。そんな綺麗な空に願いながらウェザーストリートを歩く。そして発表が行われる会議室01に着いた。


 全員集まると、早速リアムが前に立ち合格者を次々に発表していく。今日が最高の日になるか否か、全てはこの発表の瞬間にかかっている。そう思いながら前の一点を見つめていた。

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