第51話 英雄認定
「ほら、ユウ。襟が曲がってるよ」
フェリシアは俺の襟を正してくれる。
俺は襟を直してくれている時にこっそりフェリシアのおでこにキスをする。
フェリシアはキスされたおでこを押さえると、「もう」っと言って少し顔を赤く染める。
今日は帝国からの論功行賞の授与式だ。
俺は二度の禁忌の異世界召喚を行った、エスペリア王国の国王を誅した英雄に祭り上げられている。
皇帝からはエスペリア王国の後の、国王にならないかとまでの打診があったが丁重にお断りしている。
権威や権勢に対する欲もないし、何よりも自由がなくなるのは嫌だ。
ならばといくらでも報奨金を与えようと言われた。
最初に打診があったのが、白金貨で1万枚だ。
白金貨1枚で1千万だからざっと1000億の打診だ。
皇帝は馬鹿なのかと思った。
それも丁重にお断りして、白金貨100枚にしてもらった。
それでも10億はあるので、普通に生活する分には一生食うには困らないだろう。
堅苦しい授与式とか出るのは嫌だったんだけど、出ないとお金もらえないって言われたので、嫌々ながら出席の準備をしているという状況だった。
「ユウお兄ちゃんは、英雄なの! シエナのお兄ちゃんなんだよ」
シエナは帝国のメイドたちに得意気に言っている。
「それに加えて特別公爵でございますね」
「とくべつこうしゃく?」
シエナは首を傾ける。
最初は貴族に叙せられると言われたのだが、領地とか、領民とか責任を持てないと言ったら地位だけを特別に与える言われた。
それも丁重にお断りしたのだが、帝国が英雄として認定した人間に対して何も爵位を与えない訳にはいかないと言われて、特別公爵なるものに強引に叙せられたという訳だった。
「特別公爵は皇族の次の地位になります。帝国でこれはすごいことですよ」
「すごい…………お兄ちゃんはすごい!」
シエナはバンザイをして喜ぶ。
「あーあ、もっと早く唾をつけとくべきだったわね。既成事実さえ作れば後はどうにでもできたのにー」
アデルは胸元がはだけた挑発的なドレスを着ている。
「あんたがユウと早く知り合いにならなくてよかったわ」
「ユウもこんな生娘がいいんだもんね。どう、それでもうやったんでしょ?」
俺たちはそれに答えない。
フェリシアは顔を赤くする。
「やったかぁー、くぅーー…………ねえユウ、第二夫人とか興味ない?」
「ちょっとアデル!」
「何よ、なんでも独り占めはよくないのよ、フェリシア」
「それとこれとは話は別よ!」
「なんなら愛人でもいいんだけど。ユウの種が貰えればそれで手を打ってもいいわよ」
「ユウの種って……あんた…………」
フェリシアが顔を赤くしている所にシエナは俺に無邪気な瞳を向けて言う。
「お兄ちゃん、種が出せるの? どんな木がそだつ? お花さんかなぁ?」
「そういう意味じゃないんだけどな…………」
俺が困っていると――
「お嬢様、あちらにお菓子をご用意しております」
「お菓子! お姉ちゃん、ありがとう!」
メイドさんが助け舟を出してくれた。
「それではそろそろユウ様」
執事らしき白髪の年配の男性に促される。
「じゃあ、ちょっと行ってくるよ」
「頑張ってね! ユウならきっと大丈夫よ!」
「いってらっしゃーい」
思えば遠くへ来たものだ。
会場までの道すがら、色々なことが頭に浮かぶ。
黒崎や王たちへの復讐を果たして何か劇的な変化が起こったかと問われればそれはない。
だが、いじめられていた地獄の日々に対する感情的なしこりみたいなものは、すっかり解消されたようにも思う。
過去は決して消えない。だが、いじめられていたという過去が、これからの人生でマイナスに作用することはもうないのではないかと思う。
その後、クラスメイトたちのほとんどは帝国によって拘束された。
一部は処刑という声も上がったようだが、同情的な声もあり、この世界の法や常識を教えてから市民権を与えて放免という方針になっている。
その拘束されたクラスメイトたちの中に風間や美月の姿はなく、彼らは行方不明だ。
そもそもの話で風間と美月は、戦争に真面目に参加しようとしていたか怪しいらしい。
前任の転移者たちの末路も把握していたみたいで、王国から離れる機を伺っていたのかもしれない。
彼らにも借りを返さないといけないが、その気持ちはそんなに強くはない。
別にいいとまでは言わないが、今となってはという気持ちだ。
それとは別に懸念としてエーテルコードという組織の話がある。
そもそもセリーナに失われていた異世界召喚の禁忌の法を教えたのも、エーテルコードらしい。
悪魔召喚もエーテルコードの関与が疑われるとのことだ。
人知を超えたような知識や実力を持つ者たちによって構成された組織でその成り立ちも、目的も一切が不明らしい。
エドワードたちがエーテルコードを追っているらしく、それへの参加を誘われている。
もしやるなら個人的な復讐よりもそちらの方が優先度は高いだろう。
そんなことを一人考えていると論功行賞の会場が見えた。
その会場を見た瞬間に俺の頭は真っ白になった。
皇帝が大会場を埋め尽くす大観衆に向かって演説をしているが、その内容はほとんど頭に入ってこない。
なんだよ、ちょっとした論功行賞って全然話が違うじゃないか。
はめられた…………逃げようかと頭に浮かぶが――
「ユウ、観念するんじゃ。もし、お前が逃げようとしたらわしらが止めるようにと仰せつかっておる」
「そうよ、私もいるし、ここには帝国の最高戦力が揃っているからね」
エドワードにラナ。
それに知らない面々だが、明らかに腕が立ちそうなものたちが俺を取り囲んでいた。
「謀ったな、エドワード!」
「ふぉっふぉっふぉっ。ユウ、帝国の英雄認定を舐めていたお前が悪いわい」
エドワードは高笑いを浮かべながら言い放つ。
「それでは英雄、ユウ様のご登場です!」
アナウンスがされると会場からは鼓膜が破れそうな程の大歓声が沸き起こる。
「ユウ、諦めろ。力を持つものはそれに応じて責任と注目が生じるのじゃ。因果応報、善因善果じゃ」
一転、エドワードは真剣な眼差しで俺を見つめて語りかけてきた。
「…………」
俺は黙って頷き、大観衆の海に向かって歩みを進めた。
頭上には嘘のように晴れ渡った空が広がり、太陽の強い日差しが容赦なく降り注いでいた。
外れスキルの無能で無双 〜クラス転移して授かった外れスキルの『無能』が理由で、召喚国から奈落ダンジョンへ追放されたが、実は無能はすべてを無にする最強のチートスキルでした コレゼン @korezen
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