第47話 決着

「奈落のダンジョンの敵はどんでもなく強かった。それでも俺はこの無能の能力に気づけたおかげで生き延びて、高レベルまで到達することができた」

「い、一体、レベルはなんなんだ……?」

「レベルは2377だよ」


 黒崎の顔が歪み、「ひゃはははははは?」と変な笑いがこみ上げてきていた。

 余りの想定外におかしくなったのだろうか?


「…………な、なあ小日向よ」

「なんだ?」


 先程までの高圧的な態度は鳴りを潜め、下手に出て言う。

 俺は豹変させた態度に警戒感を強める。


「許してくれねえか? 別に俺はお前が憎くて、お前をいじめてたわけじゃねえんだよ。誰でもよかったんだ。その時にお前が近くにいたってだけでよ」


 黒崎は気持ちの悪い、媚びへつらう笑みを浮かべながら俺に訴えかけてくる。


「その論理でなんで俺がお前を許すことになるんだ? じゃあ、悪気はなかったとだけ後でいえば、俺の目の前にいて目障りだから殺す、でも通じるだろ。やっぱりお前は身勝手極まりないな」

「ぐっ…………」


 黒崎の表情が屈辱で歪む。


「それにお前、こっちでは更に無茶やってきたんだろ? その手を殺人にまで染めて」

「それは、しょうがなかったんだよ! 王国の奴らそうしないとっていうからよ」

大迫おおさこ寄道よりみちの件、俺は知ってるんだぞ。きっと他にも余罪はあるんだろ?」

「くっ、あれはあいつらが勝手にやったことで……」

「そんなの通じないよ」

「…………」


 黒崎は顔を青くして下を向く。

 奴は今、死の恐怖に襲われて、なりふりかまっていられないようだった。

 

「そ、それじゃあ、金はどうだ? 白金貨で100枚くらいだったら…………」

「いらねえよ、お前からのお金なんて、諦めろ。自分が今までやってきたことを悔いながら死ねよ」

「い、嫌だぁあああ!! 助けて、助けてくれよぉおおおお!!! 小日向ぁあああああ!!!!」


 黒崎は感情を爆発させて遂に泣き出した。


「あの日、俺はお前と同じように許してくれと懇願したよな…………」

「ひぃっいいいいい!!!」


 黒崎は泣きながら尻もちをついて後ずさっていく。

 股間部には漏らしたと思われるシミがついていた。


「た、頼む…………そうだ! お、俺、貴族になったんだぜ! 俺の貴族の力で得られるものはお前に何でもやるよ! 領内だったら女も金もなんだって好き放題だ! なんなら領主の座をお前にゆずっても……」

「いらねえよ。なんだって好き放題ってお前には倫理観とかないのかよ。お前に関わったこの世界の人たちが可哀想だよ」

「ぐぐぅ…………頼む…………頼むよう、小日向よう……」


 黒崎は目から大粒の涙を流して、鼻水を垂らしながら言う。

 自身が少しでも優位に立っていると思ったら偉そうにするくせに、いざとなったらこれだ。

 俺は益々黒崎への軽蔑が強まる。


「そうだ、最後、この世界に来て、罪のない人を何人殺したか正直に答えたら考えてやってもいいぞ」

「…………ほんとか?」


 俺は頷く。


「揉めたやつはいいよな…………それ以外だったら……数え切れねえが100はいってねえと思うぞ!」

「そうか」


 俺は黒崎の首をはねる。


「へっ?」


 という声を最後に出した後、黒崎は絶命した。

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