第44話 一方その頃、黒崎は

「なんで俺だけ暴れられねえんだよ!」


 黒崎は王座のエスペリア王に向かって吠える。


「まあ、聞け。前にも説明した通り今回の戦争ではお前は大分、過剰戦力じゃ。異世界人たちが完全に仕上がった今、我が国がヴァレンティン王国に破れる可能性は万が一にもない。となれば、起死回生としてわしの命を直接狙うことも考えられる。そのために我が懐に最高戦力をお前を置いておくという算段じゃ」


 王は黒崎が背中に担いている、おどろおどろしい気配を放っている大剣に目を向ける。

 どこからかあの禍々しい大剣を手に入れた黒崎は、それより一層強くなって王国最強となった。

 あの大剣はおそらく伝説級以上の業物だ。

 

「俺だけ戦果上げられねえんだろ。じゃあ、他の奴より報酬が少なくなるんじゃねえか?」

「安心しろ、お前にも十分な報酬を与える。先んじて与えた領地にプラスしてヴァレンティン王国のいい領地を与えると約束しよう」

「ほんとか? ならいいが……」


 王に斬りかからんばかりだった黒崎は途端にトーンダウンする。


「王、並びに、この国の未来はあなたにかかっているといっても過言ではありません。いくら戦争に勝利しても、王が万が一にも討たれてしまっては元も子もありません。くれぐれもよろしくお願いいたします」


 王の傍らにいるセリーナは黒崎に向かって深く頭を下げる。


「お、おう。まあ、あんたが俺の夜の相手をしてくれたら、もっとやる気は出るんだがな」


 黒崎は冗談めかして言う。


「あら、私でよければいくらでもお相手しますよ。戦争が終わってからになりますが」

「言ったな? 冗談じゃすまさないぞ」

「ええ、もちろん」


 セリーナは微笑みながら言う。


「へへへ、それならまあいいか。じゃあ、俺の力が必要になったら言ってくれ」

「もちらんですわ」


 それだけ言うと黒崎は王座の間を出ていった。


「なんともまあ……」


 王はため息を一つ吐き出す。


「本当に子供がそのまま大きくなったといいますか…………クロサキのような人間を扱うのは久しぶりでございますね……」

「異世界人にはああいうのが多いのかの?」


 王座に片肘を立てかけて頬杖をつきながら王は問いかける。

 

「いえ、聞いた限りだとレアケースだそうです」

「そうか、それはともあれ、クロサキのような人間を扱うのはなんとも……」

「はい、なんとも…………」


 セリーナは不敵な笑みを浮かべる。


「…………やりやすうございます」

「なにせ、望むものが明確でそれを与えていればいいのじゃからの。一見、無秩序のように見えて、ある程度の理性は効く。自らの暴、狂をうまく使い分けながら利益を享受しようとしているだけじゃ」

「単細胞ですから、鞭ではなくて飴だけでいかようにも動かせる男。やっかいなのは……」

「カザマとミツキの方じゃな。あちらは頭が回り、自らの立ちふるまいでどう周りを動かすかということを心得ている」

「おそらく、戦後は端的に言って厄介な存在になります」

「まあ、いずれにしても戦後処理はいつものようによろしく頼む」

「承知しております」


 セリーナはそう言って深く頭を下げる。


 その時、王城の鐘の音とともに王座の間の扉が開かれた。


「襲撃です! 賊に正面を突破され、王城に侵入されました!」


 エスペリア王とセリーナは目を見開く。


「…………やはり、来たか。クロサキを直ちに呼べ!」

「ぎょ、御意にて!」


 報告に来た兵士は駆け足で王座の間を出ていく。


「正念場じゃの……」

「ご安心を。城にはクロサキ以外にも王国の双頭と私をおります」

「頼りにしておるぞ。最悪でも、ヴァレンティンの死に顔を見ないと死んでも死にきれんからの。勝者総取りがこの世の常。この戦争必ず勝つぞ」

「もちろんでございます。我らにおまかせください」


 外では騒がしい音や兵士たちの怒号などが聞こえてきていた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る