第11話 帰還

 鉄製のテーブルに上には無造作に書籍が積み上げられている。

 それは俺がこの世界の知識を得ようと、乱雑に流し読みした書籍群だった。


『レベルが2321から2322へ上がりました』

『レベルが2322から2323へ上がりました』

『レベルが2323から2324へ上がりました』

 

 レベルアップ通知は永遠と思えるほどに続いている。

 一種のBGMとして聞き流しているが、これがこの先ずっと続くようならノイローゼになりそうだ。


 書籍からはあまり有用な情報は得られなかった。

 鉱物や植物、各種素材の専門的な知識、錬金的な研究情報。

 それに魔術の知識と研究情報が主たるもので、この世界の成り立ちや歴史といった書籍は皆無だった。

 小説的な書籍も一つもなかった。

 この世界にそういう娯楽がないのか、或いはこの部屋の主がそういったものに興味がなかったのか。

 魔術の研究情報は魔術の深淵に触れれたようで興味深かったが、読んで面白いと感じたのはそれくらいだった。


『レベルが2375から2376へ上がりました』

『レベルが2376から2377へ上がりました』


 遂に、レベルアップ通知が止まる。

 もう通知音は聞こえてこないが、まだ頭の中では通知が続いてるかのような錯覚を覚える。


「やっと終わった」


 ほっとして、そうつぶやいた時のことだった。


『報酬として星絶断刃スターブレイクブレードを取得しました』


 突如として通知がされ、宙に現れた剣が地面に落ちる。


「報酬? はじめてだな」


 地面に落ちた剣を手に取る。

 鞘から星絶断刃スターブレイクブレードをゆっくりと抜き出すと、まるで夜空が刃に宿ったかのように、星々が踊る神秘的な輝きが溢れ出た。

 刀身に施された銀河のような複雑な模様は、生き生きと躍動し、見る角度によって絶えずその形を変える。

 鞘を離れる瞬間、周囲の空気が微かに震え、剣が持つ絶大な力が静かにその存在を主張した。

 

「すごい……」


 思わず感嘆の声が漏れる。

 異世界の基準はわからないが、相当上位の武器らしいということは調べなくても分かる。

 逆にこれで弱武器だったら笑える。

 

「さて」


 俺は部屋の奥にある、転移魔法陣と思われる場所に目を向ける。

 あそこから地上に戻れそうなのだ。

 やり残したことはないかと考える。

 書籍は全部見切れてはいないが、有用そうなものはなかった。

 念の為、持ち帰るか。


無限収束箱インフィニティボックス


 空間収納系魔法を発動し、その中に無造作に書籍を入れていく。


「これで大丈夫かな……」


 後、本棚や机なんかはあるが、それを持ち帰ってもしょうがない。


 転移魔法陣の上に立つ。

 するとピロンと音がなり、『転移先を選択してください』というアナウンスとともに、透明なウィンドウが空中に出現する。


 ・箱船

 ・地上


 行き先はその二つだけだった。

 箱船ってなんだろう?

 たぶんあの少女が来たのが箱船からなんだろう。

 そういえばあの子の名前、最後までわからなかったな。

 見た目に反して、しゃべり口調や内容も随分と大人びていた。

 今更疑問視してもしょうがないことではあるが……。

 

 俺は確認画面くらいは出るだろうと、試しに『箱船』を選択してみる。すると――


『認証に失敗しました。行き先に箱船は選択できません』


 というアナウンスが流れる。


「え、嘘だろ」


 認証が必要?

 じゃあ地上にも戻れないってこと?


 焦りながら選択画面に戻り、今度は『地上』を選択する。


『地上が選択されました。処理を続行してよろしいですか?』

 

 確認ウィンドウで『はい』を選択する。

 よかった地上は大丈夫だった。


 すると転移魔法陣から光の粒子が上昇してくる。

 光の粒子はどんどん増え、目も開けていられないようになった、その後――

 

 俺の意識はプツリと途絶えた。

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