第10話 謎の少女

「あなた私に鑑定魔法かけたでしょ」

「え?」


 バレたようだ。咄嗟のごまかしや、または正直に白状する言葉がでなかった。


「見えるわけないでしょ、我々の力をあなたたち程度が。うーん、でもあなた素材としては面白いわね。持ち帰ろうかしら」

「持ち帰る? 何を言って……」

止動フリーズ!』


 突然の魔法詠唱。体が動かせない。

 しまった、人間だからと油断した。


「どう動かせないでしょ、体。といってもこの止動フリーズ魔法、自分よりも高レベルの相手には効かないから。分かる、私の言っている意味?」


 つまりはこの少女が俺よりも更に高レベルだというのか?

 やはりこの異世界、レベルインフラした世界なのか。

 言い返えそうにも口も動かせなかった。


「ああ、ごめんごめん。全て止動フリーズ状態だとしゃべることもできないよね。一部解除してあげる」

「――君は何者なんだ?」


 率直な疑問をぶつける。


「だめよ質問するのは私の方。あなたは聞かれたことに正直に答えるだけでいいの。ここまで到達できて、私のような存在と話せるだけでも感謝してもらいたいのに」

「何を言ってるんだ? 人と話せるだけで感謝って……」


 そこまでコミュ障でも、ロリコンでもないとは思ったが言葉にはしなかった。

 

「あらあなた、何を目的に奈落の最奥に来たの?」

「目的なんか特に……俺は異世界から転移してきて、それでいきなり奈落に追放されたんだ」

「異世界から転移? ああ、そういえばそんなのもあったっけ。でもそれって禁忌にされたんじゃ……もしかしたら転移のランダム性が異常な外れ値を生み出した? でも、そんなこと……」

 

 少女は何事か考えに耽り、ぶつぶつとつぶやいている。

 その後、少女は確認のためか俺の体を色々と触る。


「肉体は別にそんなおかしくはなさそうね。あら、ちょっと熱が上がってきた?」


 女性に免疫のない俺は赤くなってしまう。


「知性も別に問題なさそうだし。ここじゃこれ以上分かりそうもないわね。やっぱり持ち帰ろうかしら」

「持ち帰るってどこに?」

「さっきもいったでしょ。質問するのは私。あなたは答えるだけでいいの」


 上から目線で一体なんなんだろうこの子は。

 年の差の礼儀はいいとして、初対面で随分と無礼だ。

 少し腹がたってきた。


「あのさ、いきなり出会って金縛り状態にして、聞かれたことだけ答えろってあんまりじゃない? 物事には道理や礼儀ってものがあると思うんだけどさ」

「ふふふ……あははははは」


 少女は突然笑い出した。何が可笑しいというのだろう。


「そうよね、あなた異世界から来たんだもんね。この場所も、奈落というダンジョン自体よくわかっていないんでしょ。それに自分が今、置かれている状況も。おめでたいわね、今の状態で生きて帰れると思ってるんでしょ」


 冷たい微笑みを浮かべながら少女は言い放つ。

 

「まさか、殺すっていうのか? 一体俺が何を……」

「だ・か・ら、余計な問答は不要なの。あなたは奪われる側で私は奪う側。弱肉強食はこの世の常。あなたの元世界でもそうでしょ? 安心して、拷問なんてせずに一思いに殺ってあげるから。いや、でも異世界人がどれだけの耐性を有してるのかデータをとるのもいいかもね。どう、数十時間の拷問コース受けてみる? おそらく直ぐに精神は破壊されてしまうでしょうけど」

「…………」


 俺は少女の言葉に二の句が継げない。

 今、言ったことが冗談でなければ、こいつは人の皮を被った悪魔だ。

 いや、冗談を言っているような雰囲気でもない。

 俺はなんとか右手をかざせないか頑張るが、腕が上がることはなかった。


「うふふ、健気に何かしようとしてるわね。いいわよ、少しの間、止動フリーズを解除してあげるから私に攻撃してご覧なさい。圧倒的な差を思い知らせて上げる。そうすればもう少し物わかりが良くになるでしょ?」


 言ってろ。俺は直ぐに無能を発動できるように集中する。


「はい、解除したわよ」


 すぐさま右手を掲げて無を念じる。

 すると少女の下半身は一瞬で消失した。


「え?」


 大量の出血を伴いながら少女は床に倒れ、気の抜けた声を出す。


「……そんなありえない。一体私に何をしたのよ!」

「俺の無能のスキル確認しなかったのか?」


 出血はいつしか止まっている。

 魔力の残滓が感じられたので、おそらく強力な回復魔法を発動したのだろう。

 出血は止めようと思っていたので手間が省けた。

 発動も目視できないような高速の魔法だ、まだ油断はならない。

 右手はかざした状態にしておく。


「無能? 何よそのふざけたスキルは……なにこれ」


 少女は俺のスキルを確認して目を大きく見開く。


 さっきの俺と同じだ。

 レベル差があまりに大きいから舐めて確認を怠っていたのだろう。

 

「ねぇお願い、命は助けて!」


 先程までの態度は一転して、目に涙を溜めながら懇願する。

 顔色も青く変化し、俺のスキルを確認してから認識が改まったようだった。


「俺のこと、殺すんだろ?」

「そ、それは言葉の綾で……」

「数十時間の拷問コースだって?」

「ごめんなさい。あなたがこんなに強いと思ってなかったの! あなただってこれほどの強さを持っているなら、私の気持ちがわかるでしょ? 虫けら共と対峙した時にそれを蹂躙する愉悦が!」

「一緒しないでくれ。そこまでクズじゃない」

「そんな……ゔゔゔぅ……」


 少女はむせび泣く。

 一体どういう教育を受けたらこんな人間になるんだ。

 

「それじゃ、もう一度質問するよ。君は何者なんだ?」

「私は……」


 少女が喋りはじめようとした時、近くに透明なモニターが出現する。

 そのモニターに少女の目線が移り、何か操作をしようと手が伸びた、その時――


『無』


 俺は瞬間的に少女を滅した。

 時が止まったかのように無音の時間が流れる。

 部屋には床に大量の血痕が残されていたが、それ以外に少女の痕跡は1つも残されていなかった。


「殺したのか……」


 あまり実感はわかなかった。

 それに罪悪感もなかった。

 罪悪感がないのは、殺されそうになったため、自衛の為に殺したせいかもしれない。

 だが、変な後味の悪さは感じる。

 しかし、それがトラウマになりそうな程かと問われれば、否と答える程度のものであった。


『レベルが1013から1014へ上がりました』

『レベルが1014から1015へ上がりました』


 レベルアップ通知が続いていく。

 今度は一体いつまでこの通知が続くんだろうとぼんやりとそんなことを考えていた。

 

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る