第9話

 そうして廊下の天井裏の通路から移動した僕らは、予想通り大広間の少し上に出て待機する。

 リリアは反対側だ。

 こんな風に天井裏を移動して僕を驚かせていたのか……。

 天井裏の存在に全く気付いていなかったよ。

 

 僕らは大広間に入るところで二手に分かれる天井裏の通路を別々に辿ってきた。

 今は少し離れた位置にいる。

 奇襲のためだ。

 そして今回そのサプライズの対象になるのは……。


「あの音は罠が作動した音だよな!」

 こいつ……そうケダモノ……!

 じゃなかった、ヴォルグだ。


「どこへ行くのヴォルグ?」

 そのケダ……もういいや、ケダモノに声をかける魔女。

 こいつはモルガーナだ。


 あの邪悪な男はやっぱりいない。

 どこ行ったんだ?


「どこって?罠が発動してんだ。罠のところに決まってんだろ?」

 ケダモノは魔女に向かって間抜けな表情をしている。

 仲良くなさそうだ。


「バカだね。悲鳴もしない。魔力の発動は一瞬だけ。そしてジャスパーは戻ってこない。突破されたと見るのが自然だよ。ならここで待っときゃやってくるさ」

 こいつ冷静で厄介だな。


 そろそろかな。

 僕が反対側にいるリリアの方を見ると彼女は杖を少し上げて答えてくれた。

 準備はできたみたいだ。

 よし、行くぞ!


「ウォーターキャノン!!!」


「なっ!?!?」

「マジックシールド!」

 よし!モルガーナは防御魔法を使った。


「スラッシュブラスト!!!」

「!?!?」


 僕は全力でモルガーナの方へ飛び、空中から斬撃を放つ。

 そしてそのままモルガーナへと突っ込み、連撃を繰り出す。

「カッティングエッジ!」

「ギャア」

 手ごたえあり!


 

「てめえらは!?」

 

 奇襲は成功だ!

 僕は脚力を強化したままリリアのもとに移動する。


「リリア、大丈夫?」

「うん、エド。上手くいったわね」

 リリアも無事だ。

 立ち位置を見る限り、あのケダモノは魔法発動を感知してからリリアの方に移動しようとしたようだ。

 そこに僕がモルガーナに攻撃をしかけたから、それに気付いて迷ったみたいだな。

 完全にアホ面だ。


 そのアホ面に向けて僕はゆっくり剣を構えなおす。

「さぁ、2対1だ」


「モルガーナ?」

「ガキどもめ……」

 魔女には攻撃を当てた感触があったが、完璧に決まったらしい。

 魔法を防いでるところへ攻撃したからな。

 腕を切り落とされ倒れているが、まだ生きてるな。


「シャドウウォーク……」

 と思っていたら、何かを唱えて沈んでいった。

 あれは影を通して移動する呪文だったような。

 チッ、逃げやがった。

 あの邪悪な奴のところに行ったのかな?

 そもそもここにいると思ってたのにいない。

 

「てめぇら、覚悟はいいな」

「くっ」

 ケダモノが突っ込んできた。


 僕はケダモノの一撃を剣でいなし、戦闘にもつれ込む。

 後ろにそらすわけにはいかないからな。


「エド!プロテクト、クイック、ブースト!」

「ありがとう、リリア!!」


 これがあれば100人力!

 

「うらぁ!」

 ケダモノが拳と脚で連撃をかけてくる。


 大丈夫。十分躱せる。

 支援魔法がなかったら怪しかった……というか、やっぱりリリアの支援魔法の効果がイメージより強い。


 間違いなくこの廃墟のどこかに聖遺物がある。


「おらぁ!」

「うぉ」

 危ね!蹴りを当てられるとこだった。


 これ以上のんきに戦う必要はないな。

 戦いの中で強くなる、みたいなのを待ってやる必要はないし。

 

「やっぱり強えぇな」

「ん?」

 このケダモノ、立ち止まって会話始めやがったけど、なんなんだ?


「強えぇやつを前にすると湧くよなぁ」

 頭がか?


「頭がか?」

「なんだと!!!?」

 あっ、いかんいかん。思ってたことが口に。


「ふざけたやつだけど、強さは本物だ。俺は本気で行くぜ」

 手加減とかできる頭脳があったことに衝撃だ。


「エド、あいつの魔力が高まってる。何か来るわ。気を付けて」

「あぁ」

 心配してくれるリリアが可愛い。


「ふん。目を見開いてな!これが俺の……全力だぁ!!!!」

「闘気か?」


 驚いた。ケダモノはやっぱりケダモノだけど、闘気使いだったか。

 禍々しい体内魔力が溢れ出してヴォルグの周りを包み込んでる。


 こんな組織で粋がってるんだ。これくらいの能力はあるか。


「よく知ってんなぁ。そう、闘気だ!ここからが本番だぜ!」

 どっかの勇者みたいなセリフを吐くケダモノ……シュールだ。


 こんなやつに需要なんかない。

 さっさと僕に倒されてほしい。


「エド、サンクチュアリ!」

「うぉ!」

 さっきから僕のセリフこんなのばっかじゃない?


「ありがとう、リリア!」

 でも、この魔法の効果は凄い。

 サンクチュアリは聖属性の支援魔法だ。

 聖属性の魔力が僕を包んでくれる。

 これであいつの禍々しい闘気の効果は減る。さすがリリアだ。


「行くぞ!」

「おらぁ!」


 僕らはぶつかる。

 殴り合いだ。

 僕は剣、ケダモノは拳と脚……だが、これはバトルだ。

 

「オラオラオラオラ!」

 ケダモノが頭の悪い掛け声とともに殴りかかってくるが全て躱す。

 攻撃に追随して闘気が振りまかれるが、サンクチュアリの効果で影響はない。


 僕はヴォルグの攻撃をかわし、いなし、斬り返す。

 さすがケダモノなだけあって、多少斬られても動じず、攻撃を続けてくる。


 しかし、僕も下がらない。

 下がったところにはリリアがいるんだ。下がれるわけがないだろう?


 そんなリリアはマジックブーストをかけた上でちょこちょこケダモノに魔法攻撃を当てている。


 こいつしぶといな……。


 でもそろそろだ。

 

「くそっ、2対1は厳しいか。だが、このまま終わりはしねぇ」

「ん?」

 前回と同じく力押しで十分だな……。

 そう思ってた自分に反省を促したい。

 窮鼠猫を噛む。

 そんな感じだった。

 

 禍々しい闘気がヴォルグの腕に集まった……。

 

「グランドインパクト!!!!」

 

「エド!」

 リリアが覆いかぶさって……って、えぇ?

 びっくりしてリリアを落とさないように身をさばきながらリリアを抱き止め、地面に伏せる。

 そして衝撃が通過したことを感知した後、片手で地面を押し返して立ち上がる。

 さらに何かぶつぶつ言ってるリリアを抱えて横に飛ぶ。


「グランドインパクト!!!!」


 僕のいた場所を通過する闘気。

 僕は距離を取ってヴォルグを振り返ると、床が思いっきりへこんで……いや、破損してるし、壁にも穴が開いてる。

 追撃には来ていない。

 というか、肩で息してるな。相当疲れる技のようだ。

 そこへ……

 

「セイクリッドバースト!!!」

 我らがリリアの得意魔法セイクリッドバーストが着弾する。

 抱えて横に飛んでるときにぶつぶつ言ってたからまさかと思ったけど、やっぱり詠唱してた。

 かわされて疲労貯めたところに強力な魔法がクリーンヒット。

 鬼だなリリア。

 さすがすぎる。


「クソが!」

 正面からセイクリッドバーストを受けたケダモノの体は焦げ、ゆっくりと倒れていく。

 倒したんだ。

 ちょっと気を抜きすぎたか。

 

「大丈夫?リリア」

「うん」

「ありがとね、助かった」


 リリアに押し倒されるとは思ってなかったけど……しあわ……

 なんとか回避できたし、助かった。


 ヴォルグは倒れて動かない。



「闘気を発動した状態のヴォルグを倒すとはな……なかなかやるじゃないか」


 

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