第7話

 シルバーリーフ村……平和で牧歌的な村だが、降ってわいた遺跡の話で持ち切りだ。

 そんな中で遺跡を探索し聖遺物を持ち帰った僕は、家族との時間を過ごしたのち、眠りにつこうと微睡んでいた。


 今回の探索はとても楽しいものだった。

 何もかもが順調。

 神殿は聖遺物を獲得し、僕は素材を手に入れ、リリアとの距離も縮まった。

 なんて素晴らしい探検だ。

 もちろん、僕とリリアじゃなかったらもっと苦戦していた。

 途中出てきた怪しい人たちに負けてしまうこともありうる。

 

 なんていったっけ?

 ヴォルグとモルガーナだ。

 あいつらは何だったんだろう。なぜ発見されたばかりの遺跡にいたんだろう。

 確実にこの村の住民ではない。なのになぜ?


 あの遺跡はもしかしたらもともと発見されていたものだったんだろうか?

 いや、それならあの冒険者は知らなかったとしても長老様や神官であるジュラ―ル様は知っているはずだ。

 そして改めて調査ということにはならないはずだ。

 つまり、あの遺跡は知られていなかった。少なくともこの周辺の神殿や国には。

 

 なのになぜ?

 なぜあいつらはあそこにいた?

 

 聖遺物を探していると言っていた。つまり悪いやつらだ。

 神殿や国には属さない勢力。

 あそこまで怪しくて冒険者ということもないだろう。

 

 そしてあいつらは聖遺物を見つけていない。


 なぜだ?

 

 前から探していたなら見つけていてもおかしくない。

 それくらい、あの遺跡はあまり複雑な形状はしていなかった。

 それでも見つからないのはなぜだ?

 

 考えられるのはあの場所に行くのには何らかの条件が必要だとか。

 邪な連中には見つけられない場所だったとか?

 実は見つけてるけど近寄れないとか?

 

 なんらかの制約があった?

 あの場所から聖遺物を移す必要があったとかだったら……。



 

 まずい、神殿が……リリアが危ない。



 

 僕は飛び起き、剣を持って家を出る。


「お兄ちゃん?」

「どうしたエドモンド?何があった?」

「父さん。リリアが危ない。神殿に行ってくる!」

「!?!?」


 まだ起きていた父さんとアリシアにそう宣言して僕は走る。

 泳がされていたとしたらあいつらが盗みに来るはずだから。

 リリアを助けるんだ。


 


「……なかなか頭がいいじゃないか」

「!?!?」

 突然登場した怪しい男に、ハーウェルとアリシアは驚く。

 

 その男はゆったりとした動作で丁重に礼を取る。

「フフフフ。夜分に失礼する」


 だが、その男の邪悪な気配にハーウェルもアリシアも気圧されてしまう。

「だれだ!?」 

 なんとかハーウェルが立ち直り、声を振り絞る。

 

「これは失礼。私はカスピアン……敵だ!」

 そう言うと邪悪な男……カスピアンは剣を振るい、ハーウェルを斬りつける。

「ぐぁ!?」

 

「お父さん!ウォーターカッター!」

「なに?」


 アリシアが魔法を発動させるがカスピアンは身をひるがえして避ける。

「魔法を使える娘……美しい家族愛……悪くないな、バインド」

「なっ!?」

 

 束縛の魔法でアリシアを捕縛するカスピアン。


「やめろ、娘を離せ!」

 ハーウェルがアリシアを救おうと剣を振るうが、カスピアンに軽くいなされてしまう。


「なかなかの剣筋だが……相手が悪かったな」

「くそっ」


 カスピアンは邪悪に微笑む。

「娘は貰っていく。魔神復活のためにな」

「なんだと?」

「心地よい憎悪だ。嘆くがいい。自らの力不足を。そして恨むがいい。こんな世界を」


「そうはさせん。アリシアを返せ!」

 ハーウェルは剣に魔力を乗せて斬りかかる。自らのすべてを乗せて。

「足りん!そんなものでは足りん」

 そう言ってカスピアンはハーウェルの剣を叩き斬り、そのままハーウェルを斬る。


「ぐぁ」

「お父さん!」

「くっ……」

「では、さらばだ。闇に暮れるがいい」


 そう言ってカスピアンはアリシアを捕縛したままこの場を去る。



 

 

 一方、神殿では……。


「くそっ、なんで俺が盗人の真似なんかしなきゃならないんだ。あのクソババアめ」

 神殿の屋根裏に潜んだ男……ジャスパーは独り言ちる。

 

 彼はもともと冒険者だったが、偶然……いやこれもカスピアンの悪だくみのせいだが、偶然を装ったカスピアンたちに遭遇し、嵌められ、彼らの手先となった。

 もともと悪いことだろうと依頼があればが平気で実行する不良冒険者ではあったが、そんなことは棚に上げて自らの悲しい境遇を恨んでいて、自分勝手に哀愁を漂わせている。


「そもそも聖遺物ってなんなんだよ。それで飯が食えんのか?」

 ぶつぶつ呟きながらその聖遺物を盗むために隠れているジャスパー。

 彼は先回りして神殿に隠れており、神官ジュラールとリリアが寝静まるのを待っていた。

 当然、リリアが聖遺物を持ち帰り父親である神官に報告するのは陰から見ていた。

 

 なぜ神官やリリアがジャスパーに気付かなかったかというと、ジャスパーが本性としては魔神に心を売り渡したような人物ではないことと、彼が斥候として潜伏スキルをもっていたせいだ。

 しかし、悪辣ではない人物でも時に大きな悪事を働いてしまうことはある。


 夜が更けたころ、ジャスパーは聖遺物を手にし、ひっそりと神殿から出る。

 彼はカスピアンの手先ではあるが、魔神信仰を持つものではなかったため、聖遺物に直接触り、盗み出すことができた。


 そして、神殿から出たところで遭遇してしまう……。




「お前は誰だ?」

 神殿にたどり着くと、明らかに怪しいやつが出てきたので、問い詰める。


「えっ?えっ?えっ?お、お、お、お前こそ誰だよ」

 怪しい男は手に何かを持っている。間違いない、聖遺物だ。

「僕はエドモンド。その聖遺物を返せ!」

 僕は斬りかかる。

 この男は武器を持っているようには見えない。

 大方、盗み出しに来たんだろう。

 しかも、下っ端なのかな?

 明らかに弱そう……取り返すチャンスだ。


「ま、ま、ま、待て!おい。これを傷つけてもいいのかよ……?ぐっ……おい!」

 とりあえず無視して斬りつける。取り返してから考えよう。


「てめぇ、ふざけんな!おい!」

「スラッシュ!」

「ぎゃあ」

 僕の斬撃がクリーンヒット。この世界にはスキルというものがあって、魔法同様に広く使われている。

 僕が使ったのはそんな一般的なスキルの1つだが、この相手には十分だったらしい。


「なに?」

 騒ぎを聞きつけたリリアが神殿から出てくる。


「エド!どうしたの?」

「リリア!聖遺物を盗みに来た奴がいたんだ」

「聖遺物を?エド、大丈夫?」

「あぁ、怪しいやつはあっちでのびてる」

「よかった。エド、ありがとう」

 リリアに感謝される。

 盗みに来た男がたいしたことなくてよかった。

 

 

「ふむ。やはり強いな」

「誰だ?」

 明らかにさっきの男とは格が違う男が出てきた。

 夜だから見えづらいが、暗い雰囲気の壮年の男だ。

 まとっている魔力はひたすら邪悪……。

 

 その男の後ろには

「……??アリシア!」

「フフフ。それを渡せ。妹がどうなってもいいのか?」

「ぐっ」

 ……あれはバインドで拘束されているのか。許せん。


「エド!マジックシールド!ブースト!クイック!」

 リリアが僕に支援魔法をくれる。

 ありがたい、近くに聖遺物があることもあって、僕はより強化される。

 

「スラッシュ!」

「フン!」

 にもかかわらず僕のスラッシュをあっさりはじきやがった。

 こいつ、強い……。


「マジックブースト!プロテクト!」

 リリアがさらに追加の支援魔法をくれる。

 

「妹がどうなってもいいらしいな……」

「うるさい!それはバインドだろう?なら捕縛が目的で、その状態では手は出せないはずだ!」

「ほう。魔法知識も高い……」

 バインドは捕縛魔法だ。

 捕縛対象を確実に捕縛する魔法であり、つかまって一定時間経つと捕縛対象は意識を失ってしまうが、その代わりのような形で外からの魔法や攻撃を受け付けづらくなる。


「この娘は触媒であり、贄だ。そして聖遺物。神よ、我は今日、目的を達す……食らえ!シャドウストライク!!!」

「ぐぁあ……」

「エド!?」

 怪しい男が放った魔法を受けてしまった。これは闇魔法……やばい。

 リリアを守りながら戦うのは厳しそうだし、そもそも勝てるか?


「フフフ……。いつまで寝てるつもりだ、ジャスパー」

 そういって男はジャスパーを蹴る。

「いてっ!?なにすんだよカスピアン」

「早く起きろ。行くぞ!」

「はい!はい!はい!はい!」

 飛び起きたジャスパーが聖遺物を抱えて走り出す。

 

「ふざけるな!アリシアと聖遺物を返せ!」

 僕はカスピアンと呼ばれた邪悪な男に斬りかかる。


「残念ながらその程度では私は倒せん!」

「ぐっ……」

 あっさり防がれ、僕は蹴り飛ばされる。

 こいつ強い……。

 剣術は僕よりも上……。

 魔法も……。


「ウォーターカッター!!」

「シャドウストライク!」

 リリアの魔法がカスピアンを襲うが、あっさりと相殺……。


「きゃあ」

「リリア!」

 いや、ウォーターカッターを切り裂いたカスピアンの呪文がリリアを撃つ。

 

「残念ながら全て頂いていく。絶望に耽るがいい。自らの力のなさを嘆きながらな。聖遺物を持ち出してくれたことだけは感謝してやろう」

 くそっ、どうしようもない。

 せめてアリシアだけでも。

 こいつら一体何なんだ。

 

「どうせろくでもないことに使うんだろう?」

「知ったような口を叩くな、若造!」

「ぐっ」

 苦し紛れに放った言葉に思いのほか強い反応を示し、降ってきた斬撃をなんとか防ぐ僕……。

 

「全てを奪われた憎しみ……悲しみ……貴様にはわからん。光の中にいる者には影は見えんのだ、今のお前にはな。全てが終わって……妹を失い、父も失えば、少しはわかるかもしれんな」

「なんだと?父さんを?父さんをどうした?」

「お前に語ることなどない。我々は相容れぬ。ただただ、贄の授受があっただけだ」

「渡すもんか!」

「いや、お前は渡す。渡さなければさらにその女を失うだけだ。どうだ、動けんだろう。怖いだろう」

「くそっ」

「しばらく寝ているがいい。ダークフォール!」

「うわぁぁぁぁぁぁぁ」

 展開されたのは強烈な闇属性の魔法だった。

 それをくらった僕は意識を手放してしまった……。

 リリア……アリシア……父さん……。


 

「フハハハハハハ」

 奴の笑い声だけが響いた……。

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