第6話

 ヴォルグとモルガーナとの戦いを乗り越え、さらに深く遺跡を進む僕とリリア。

 僕らは持ってきたカンテラであたりを照らしながら進んでいく。


「ここは随分と暗い......」

「そうね。いやな気分はしないから、それが不思議な感じね」

「よく見えないから、気を付けて進もう。この通路に入った時よりは少し明るくなってきた気もするけど」

 そう言いながら僕らは進んでいく。

 

 そうして僕らは祭壇のような場所に辿り着いた。

 中央に何かが置かれている。

 周囲には魔力が漂っているが、その何かの周辺だけはぽっかりとあいたようになっている。

 その何かはぼんやりと光を放っているように見える。


「あれが聖遺物なのかな?」

「きっとそうね。神聖な......聖属性の魔力を纏っているわ」

 神聖なのか。あまり感じないのは僕が聖属性を持っていないからかな?もしくはリリアが神官だからかな?

 ただ、何かこう清らかな感じはする。ホントだよ?

 あそこに置いてあるものを安易に持ち上げてはいけないような気もする。

 

「これが……聖遺物」

 リリアが呟きながら聖遺物を手に取る。

 

 その瞬間聖遺物は光を放ち、あたりを照らす。

「なんだ?」

「聖遺物……女神様……?」

「リリア?」

 ここでリリアをまた押し倒したりしたらやばい気がした……。

 リリアは虚ろな目をしている。

 

 

「はい……わかりました」

「リリア!」

 肩をゆらしてもリリアは僕に反応してくれない。

 

「必ず」

「リリア!!」

 誰かと喋ってる?


「加護まで……。ありがとうございます」

「リリア!!!」

「んっ?エド?……どうして?」

 ようやくリリアの瞳が僕を捉えた。

 

「どうしてって。どうしたのリリア。誰かと話してた?」

「わたし……。話したわ。この聖遺物を守るように言われたの」

 妄想とかじゃないよね?リリアは神官だし、天啓ってやつなのかな?


「大丈夫?歩ける?」

 僕はふらつくリリアを優しく支える。とても優しく。

「ありがとう、エド。大丈夫よ。女神様……だと思う。お声を頂くのに力を使ってしまったようね」

 そう言うリリアだが、大丈夫のように思えない。ふらふらじゃん。


「少し休もう」

「うん」

 リリアを座らせ、収納袋から水と軽食を取り出してリリアに渡す。

「ありがとう、エド」

 だいぶ落ち着いてきたみたいで安心した。

 僕らは少しの間休憩した。


「聖遺物を手に取った後なんか変な感じだったけど、そこで女神様と出会ったの?」

 そしてなぜ女神様は僕には声をかけない。

「そう……」

 リリアは古代神様との邂逅を思い出して話してくれる。


 

「聖遺物を手に取った瞬間視界が光に包まれ、光が晴れたときにはどこか別の場所にいたの。

 目の前には女神様がいたわ。そして、手に取った聖遺物を守るように言われたの。

 この聖遺物の役割は今は教えられないって。でも、時が来たらわかるからって。今はこれを守るように言われたわ」

「そうだったんだ。使命ってやつなのかな?」

「そうだと思う。きっと力のある女神様だと思う。もしかしたら古代神様かもしれないほどに。エドは知ってる?古代神様と現代神様の違いを」

「うーんと……わかんない」

「ふふ。この世界を作ったのは古代神様と言われているわ。それは?」

「それは知ってる。古代の主神グラシウスとラディフィウスの神話だ」

「そう。その通り。グラシウス様は世界創造と平定の中でラディフィウス様を失い、世界を安定化させた後眠りに入る。

 その後にやってきたのが現代神様達で、世界を維持された。現在も現代神様達の加護と祝福のもとで世界が維持されている。

 でも、いつの日かグラシウス様が目覚め、世界を滅ぼす」

「ん?滅ぼすの?」

「うん。そう言われているわ。少なくとも神殿の中ではね。世間には過去の話だけがお伽話として伝わっているわね。その差が何を意味するのか、私にはわからないけど」

「その滅びを回避する策とかは神殿にはないの?」

「わからない。神殿が主に崇めるのは現代神様なんだけど、グラシウス様のもたらす滅びに対して現代神様がどうするのかもわからないの」

「そうなんだ。不思議だね」

「えぇ。なぜそんな中途半端な物語というか予言だけが残されているのかはわからないわ」

「滅ぶのは避けたいけど、この世界にいるものたちではどうしようもないとか?」

「そうかもしれない。でも、それでも……」

「それでも?」

「いえ。神殿に一部の神話が残されているように、どこかほかの場所にも違う話が残っているのかもしれないわね」

「それがグラシウス様による滅びを回避する方法?」

「わからないわ」

「だよね。まぁ考えても仕方ないよね。だいぶ落ち着いたかな?」

「うん。ありがとう、エド」

「じゃあ、そろそろ行こうか。聖遺物を手に入れたんだから、ひとまず村に帰ろう」

「そうね。この遺跡の探索は完了してはいないけれど、一度帰った方がよさそうね。さっきの人たちとまた出会うのは避けたいし」

「うんうん。じゃあ片づけをしてと……。帰ろう、リリア」

「うん、エド」

 

 こうして僕らは遺跡での探索をいったん終了させ、帰路についた。

 この遺跡は途中途中に離脱の仕組みが備わっていて、僕らは少し探検して見つけたクリスタルに触れると、遺跡の外に出ていた。


「一瞬だったね」

「ほんとうに。凄い仕組みね」

「たいていの遺跡に存在する脱出の仕組みだと、次に来たときは行ったことのある場所には行けるって聞いたけど」

「見て、エド。この石碑に触れるとどこに行きますか?って表示されるわ」

「よかった。また来ることになったらこの石碑に触れたらいいんだね」

 

 入口にあった石碑に触れると一度行った場所に行けるみたいだ。

 たいていの遺跡にはこの仕組みがある。


「あとは帰るだけだね」

「そうね、エド。でも気を付けて行きましょう」

「だね。これで帰りに魔獣にやられました、じゃあお話にならない」


 僕らは来た道を引き返す。

 帰りながら今後のことを相談した。

 聖遺物は神殿に保管すること。

 リリアのお父さんである神官のジュラ―ル様には遺跡で起こったこと、聖遺物を狙う怪しいやつらがいることを話し、そこから先はジュラ―ル様の指示に従うこと。

 今後たまには一緒にデート……じゃなかった、移籍探検に出かけること、などだ。

 聖遺物を持ってきので遺跡内でリリアの魔法が強化されることはなくなっちゃうんだろうから、次回からの方が敵が強く感じそうだ。

 でも、楽しみだ。

 

 途中で遭遇したゴブリンをルンルン気分で倒し、森の入り口にある厩舎で馬を返してもらい、村まで戻ってきた。

 聖遺物はリリアに渡し、ジュラ―ル様への報告もリリアに頼み、明日また僕は神殿に行くことを約束して僕らは分かれた。

 

「ただいま!」

「お兄ちゃん!?おかえりなさい」

 数日ぶりに帰宅したところ、両親は笑顔で迎えてくれたし、妹のアリシアは喜んでくれた。

「エドモンド、おかえりなさい」

「ただいま、父さん、母さん。無事に戻れたよ」

 家族ってあったかいな。

 

「リリアちゃんも無事か?」

「もちろんだよ、父さん。凄いものを見つけてしまって、それは神殿で保管してもらうことになったからリリアに持ち帰ってもらったんだ」

「それは良かったな。今日はゆっくりして、また明日にでも遺跡でのことを聞かせてくれ」

「わかった」


 

 聖遺物を手に入れたことで……手に入れてしまったことで運命が大きく変わることを、その時はまだ僕らは知らなかった……。




 


 エドモンドとリリアが聖遺物を発見したころ、アルトンたち村の警備隊は森と村の間の周辺巡回を行っていた。


 日が落ちる頃、彼ら警備隊員たちは普段とは異なる道を歩いていた。

 一昨日、村にやってきた馴染みの商人から、村の外れにある廃墟の中に人がいるように見えたという報告があったからだ。

 森と村との間の街道及び周辺の巡回は通常3か月に一度行っているが、廃墟の調査のため少し早めて実施していた。

 

 この村は小さい。

 常設の警備隊を配置することはできないため、隊長のアルトンを除いてみんな他に職を持っている。

 そのため、通常の活動は交代での村の門の警備や周辺巡回だ。

 ただ、近くに大きな森があるため、一定の警備は必要だ。

 魔物が出てくることもあるし、過去にはどこかからか流れてきた盗賊が住み着いて悪さをすることもあった。


 今回廃墟にいる何者かも盗賊の類ではないかとアルトンは考えた。

 そのため、アルトンは自ら警備巡回に加わり、廃墟の確認に向かっていた。


「この道は普段は通らない道だ。みんな、気を付けて行こう」

 アルトンは警備隊のメンバーに声をかける。


「はい!隊長!!」

 

 今日の巡回メンバーはアルトンを含めて4人。

 アルトン以外は若いメンバーだが、その分血気盛んなところもあり、アルトンは慎重に冷静に進むことを心掛けていた。

 

 この村出身のアルトンはかなりの腕前を持っており、若いころは冒険者をやっていた。

 さらに、長い期間ではないが周辺を治める貴族の警備兵をしていたこともある。

 彼は兄であるハーウェルが森に住み着いた盗賊との戦闘で怪我をしてしまったため、村への帰還および警備隊長就任を打診されて戻ってきた。

 

「そろそろ廃墟のあたりだな。警戒して進むぞ!」

「はい!」


 警備隊は廃墟の近くまでやってきたので、アルトンはさらに注意を促す。


「あれは?」

 そして、廃墟をその視界に納めた。

 灯がともっている、廃墟を。


「間違いなく誰かいるな……」

 アルトンが呟きに、若いメンバーが答える。

「堂々といますね。まさかあかりをつけて」


 アルトンは冷静に動き方を考える。

「潜入するにしても、戦うにしても、この人数では厳しいな……」


 しかし、若いメンバーは血気盛んだ。

「押し入って、捉えてやりましょうぜ!」


 アルトンは方針を決定した。

「いや、一度戻ろう。間違いなく一人ではない敵だ。警備と突入、無事捉えられたとして輸送もある。4人では無理だろう」

「しかし隊長!」


 メンバーへの説明も忘れない。

「我々の仕事は警備であり、警戒だ。もしここで全滅なんかしてみろ。村では何の準備もできなくなる」

「はい、わかりました!隊長!!」


「では、戻るぞ。戻って対策を講じる。場合によっては戦いになる」

 アルトンたちは村へと戻る。


 こんな廃墟に立てこもったやつらは何を目的にしているのか?

 最近見つかった古代の遺跡と何か関係があるのだろうか?

 

 アルトンたち警備隊は不安を胸に街へ戻る。



 

 

 そんなアルトンたちをよそに、廃墟の中では邪悪な企みが進む……。


 

 

「お前が後れを取るとはな」

 落ち着いた、それでいて威圧感と邪悪さを振りまいている男がそうつぶやくと、モルガーナは苦虫を噛み潰したような顔で返答した。

「申し訳ない。甘く見ていたようだ」

「過ぎたことは仕方がない。そのために事を起こしたのだからな。その者たちは見つけたと思うか?」

 淡々と重ねられる言葉に対し、苦々しい声音でモルガーナが答える。

「見つけただろうね。古代神の匂いが移動したのは間違いない」


 男は壮年にさしかかったころ。その眼には復讐の火を宿し、その体は鍛え上げられている。

 魔女と思しきモルガーナとはまた違った人種。しかし仲間なのだろう。

 その目的が同じなのかはわからないが。

「予定通り、やつらはこの近くの村の連中だろう……」

「お上り具合から言って間違いないだろうね」


 計画の進展を確信し、男は邪悪に嗤う。

「もし彼らが聖遺物を見つけて持ち帰ってくれたのなら、彼らもまた我々の計画に一役買ったというわけだ。あの冒険者を泳がし、お前たちにも一芝居うってもらったかいがあるというものだ」

 

「それで、カスピアン。どうするのだ?」

 苦々しい表情のまま、モルガーナが訪ねる。

 

「ジャスパーに調べに行かせているが、ほぼ間違いないだろう。私が行って来よう」

 そう言って男……カスピアンは立ち上がり、その場を後にする。

 残ったモルガーナはカスピアンが聖遺物を手に入れてくることを確信し、受け入れる準備にとりかかる。


 

「待っているわ、カスピアン。あの2人は研究しがいがありそうだ。死体でもかまわないから回収してきてほしいねぇ。クックックッ……キャハハハ……ヒィッヒッヒッヒィ」

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