第5話

 一晩ゆっくり休憩した後、僕らはテントを片付け、軽い食事をしてから再び歩き始める。


 そうして進んでいくと、突然開けた場所に出た。

 そこはとても幻想的な庭園のようだった。

 その美しさに一瞬息をのむ二人だったが、突如、空気が張り詰めた。


「誰かいる……!」

 リリアが低く警戒する声を出すと、影から人影が現れた。


「誰だ?お前たちは」

 僕は現れた2人に問いかける。

 

「誰であろうと関係ないわ。宝探しに来たお上りさんたち……」

 明らかに不穏な空気を纏った魔女が言葉を返してくる。

「ここまで来るってことはなかなか強いんじゃねぇか?ちょっとやってみてもいいんだろ?」

 そして獣人の方は隠すことなく殺気をあらわにしており、今でも殴りかかってきそうだ。

 僕は剣を握りしめ、いつでも戦えるよう2人を警戒する。


「やる気もあるじゃねーか。いいねぇ」

「お待ちなさい、ヴォルグ。ここまで来たんだもの、質問はしておくべきだわ」

「こいつらが持ってるようには見えねぇぜ?」

「それでも、よ。役目を放棄するの?」

「わりぃわりぃ。そんなことはしねぇよ。おいお前ら。この遺跡の中で何かおかしなものを見つけなかったか?」

 魔女に諭され少しだけ落ち着いた獣人が問いかけてくる。

 おかしなものってなんだ?お前たちか?


「なぜそんなことを聞いてくるの?あなたたちも何かを探しているの?」

 リリアが答える……。というか質問する。

 それに対して頭の悪そうな獣人はブチ切れ寸前だ。

「あぁ?聞いてんのはこっちだ!殺すぞ?」

 いやブチ切れだ。僕は少しだけ前に出てリリアを庇えるよう意識する。


「ヴォルグ、落ち着きなさい。彼らは知らないのよ。おかしなもの、ではわからないわ」

「いやだってよぉ、モルガーナ」

「あなたは少し黙っていなさい」

 この2人の力関係は、魔女の方が上なのかな?


「私たちはとある古代の遺品を探しているの。この遺跡は明らかに古代のもの。この世界には多くの遺跡があることは知っているかしら?」

「もちろん」

「そんな遺跡には様々な役割があるの」

「役割?」

「まぁ、お聞きなさい。遺跡の役割は様々なものがあるわ。何かを遺したい、何かを隠したい、何かを伝えたい、試練を与えたい……。さらに作った者も様々。古代の人が残したものもあるし、精霊たち、魔族、竜が作ったという伝承もあれば、神々の手によるものもある。私たちが探しているのは古代神が残した遺跡で、その遺跡の中にあるという聖遺物」

「聖遺物?」

「そう。それが何なのかはよくわからないわ。でも、そこには神の力が宿っている。聖遺物の力は強大で、上手く扱えれば望みを叶えることができるといわれているわ」

「望み?お前たちは何かをしようとしているのか?」

「もちろんじゃない。じゃないとこんなとこに潜ったりしないわ」

 どうせあまり良い望みではなさそうだな。こんな怪しい2人組みだ。力を手に入れたいとか、誰かに復讐したいとかかな?怖っ。


「その様子ではやはり聖遺物は手に入れていないわね。もういいわよヴォルグ。彼らが余計ことをしないように……」

「殺していいんだな?おりゃ!」


 ぐっ。このケダモノ、いきなり来やがった。


「エド!マジックシールド!ブースト!クイック!プロテクト!」

「そうはさせないわ。ディスペル!」

「なに?」


 会話を聞きつつ十分な時間をかけて準備してくれたリリアの支援魔法だったが、モルガーナとかいう魔女に消されてしまった。

 そこに追撃をかけてくるケダモノ……いや、ヴォルグだっけ?

 その衝撃はなかなか重い。

 なんとか防ぐ僕に、ヴォルグは殴り続けてくる。

 

 「オラオラどうした?そんなもんか?」

 

 防戦一方な僕……に見せかける僕。

 ん?どういうことかって?

 一応これくらいであれば僕は耐えれる。アルトンとの修行ではずっとスピードもパワーも負けている状況で戦い続けてきたんだ。

 だが余裕綽々な姿でいる必要はない。耐えているていにして考えているのさ。

 恐らくあのモルガーナとかいう魔女の方がやっかいだ。だから、このヴォルグという獣人しか手を出してこないうちに状況を整理しておきたい。

 どうやったらモルガーナに一撃を与えられるかな?

 今のところリリアはモルガーナを警戒して特に行動はしていない。

 いや、水魔法かな?聖魔法かな?なにがしか魔力は練っている。

 リリアの聖魔法はレベル3……十分相手の脅威になるはず。

 となると、その魔法発動に合わせてモルガーナに攻撃をしかけるか……。

 仕掛けるなら、魔法より斬撃が良いと思うから……。


 そう考えながら僕はモルガーナを視界に納められる場所に自分とヴォルグを誘導する。


「オラオラ、ちょっとは反撃してみろよ!」

 うるさいケダモノ。ただの力押しで偉そうにするな。

 一発一発は早くて重たいから掠った場所が痛い。

 こいつは体内魔力を使って強化した状態にあるんだろうな。

 だが、そろそろリリアの魔法が組みあがるはず。

 相手の様子を鑑みればおそらく聖属性の魔法を選ぶはず。


「エド、おまたせ!いくわよ。『聖なる炎、敵を包み込み、聖なる力の爆発をもたらせ』セイクリッドバースト!」

「なに?」

「!?!?」

 

 キターーーーーー

 

 僕は驚くヴォルグを放置してモルガーナに向かい、リリアのセイクリッドバーストを迎撃しようとしていたモルガーナを攻撃する。

「スラッシュ!!!」

「ぐぅ」


 クリーンヒット!

 やったね。そして着弾するセイクリッドバースト。

 いや、直前に防御魔法を展開したようだ。無詠唱なのにセイクリッドバーストを抑えてる。


 僕は追撃を諦め、リリアの前に移動し、再び剣を構える。


「くそっ、やるじゃねーか。大丈夫かモルガーナ?」

「……なんとか魔法はしのいだけど、斬撃はくらってしまったわ」

「一度退け、モルガーナ。ここは俺に任せろ」

「そうさせてもらうわ。ではお上りさんたち、失礼するわ」


 そう言ってさっさと撤退していった。なんなんだ?

 ケダモノだけが残ったけども……。


「嬉しいねぇ。強いやつとの戦いは最高だ。血が沸き、心が躍る。さぁ続けよう!」


 そう言って再び挑んでくるヴォルグ。


「今度は行けるわ。ヒール!ブースト!クイック!プロテクト!」

「ありがとうリリア!」


 そして力押し。

 回復魔法と支援魔法を受けた僕はヴォルグと同等以上に戦い、彼の右腕を切りつけた。


「くそっ、強えぇじゃねぇか!また会った時、今度はお前を殺す!」


 そう言って逃げていった。正直追う元気はない。疲れた。

 まともに食らったら致命傷になりかねない攻撃をいなし続けるのは思った以上に精神を削る。

 

 でも、やけに簡単に引いたな?僕らが聖遺物を持っていないからか。

 それにしてもリリアの魔法は凄いな。

 いつもより効果が高い気がするけども……。



 

「ありがとうリリア。お陰であいつらを退けられたよ」

「どういたしまして、エド。守ってくれてありがとう」

「……(うっとり)」

 とても良い笑顔を返してくれるリリア。不覚にも見とれてしまいそうだ。

 

「どうしたの?エド?どこか痛む?もう1回ヒールをかけておく?」

「いや、大丈夫だよリリア。君が無事でよかった」

「ありがとうエド」

「それにしても何だったんだろうな?聖遺物を探してるって言ってたけど」

「あっ、ごめんねエド。聖遺物については伝承で知ってるんだけど、あいつらの目的が知りたくて聞いてみてたの」

「そうだったのか」

 リリアは天才だ。あんな不穏な場面でよくそんなことができる。感心するね。


「聖遺物ってどんなものなの?」

 僕は素直に聞いてみる。知らなかったのが恥ずかしいわけではない。決して。


「聖遺物はね、神様が残した魔道具の一種だと言われているわ。だけど使い方がわからないものが多いの。古すぎて伝承が残っていなかったりしているから、そのせいだと思うんだけど。それでもいくつかの聖遺物には使われた記録もあるの。この国の王様は聖遺物を保有していると言われていて、強大なモンスターに対して使い、王都を守ったっていう話もあるのよ」

 予想以上に凄かった。

 仮に魔道具の一種だったとして、そこまで強いものを作れるのはやっぱり神様ってすさまじいね。

 

「それは凄い。でも魔道具なら確かに、使い方がわからないと使えないね」

「そうなの。でも、この遺跡にはきっとあると思うの」

「どうしてそう思うの?」

「私の魔法……普段より強くなってると思わなかった?」

 それは確かに。

 

「それは思った。さっきの戦闘はより分かりやすかったけど、普段より効果が高い気はしていた」

「だよね。私もそう思う。それは聖遺物があるからだと思う」

「そうなの?」

「うん。聖遺物は周囲で展開される聖属性の魔法や、神官の称号を持つもの、遺した神の加護を持つものの力を強める効果があると言われているわ。だから……」

「リリアの魔法の効果が高まっているのは、聖遺物がここにある証拠だと?」

「そう。間違いないと思う」

「それは羨ましい……」

「そうよね。同じ魔法でも効果が高まったり、聖属性の魔法のレベルが上がったりするらしいわ」

「凄いね。でも、聖属性なんだね。光属性も上がれば……」

「エドは光属性をもってるものね」

「そうなんだよ。あと1つ上がったら攻撃魔法のライトブラストやコピー魔法のエミュレートが使えるようになるのに」

「確かに。かなり強化されるね。ただ、聖遺物の効果で光属性のレベルが上がるというのは聞いたことがなくて……」

「仕方ない。リリアが強化されれば僕らの戦力は上がるしね。……となれば、聖遺物を探そう!きっとそれが夢で見た光り輝くものなんだと思うよ」

「でも、変なのよね」

「変?」

「そう。古代神の残した聖遺物で私の力が強化されるとすると、その聖遺物は聖属性なんだと思うの。でも、そうだとするとあんな悪意を漂わせているような人たちには触れないと思うんだけど」

「でも狙ってる?」

「そう……考えても仕方がないのかもしれないけどね。あと、もし聖遺物だとすると、ちょっとエドに申し訳ない気がするわね」

「えっ?どうして?」

「だって。もしエドが見たのが聖遺物だとすると、それを素材にして何か道具を作るのは無理だと思うから」

 優しいリリア。僕のことを案じてくれるなんて。


「心配ないよ、リリア。もしそうだったとしても、僕はもうすでに珍しい素材を手に入れているし」

「え?いつの間に???」

「最初の広場の試練。扉があいたあと素材は置かれてるだけだったから取ってみたんだ。そしたら持ってこれたから、全部持ってきたのだ!」

「さすがね、エド。全然気付かなかったわ」


 フフフ……。

 僕は悪だくみが成功したかのような楽しさを感じながら、先へ進む。

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