第3話

 村の北側に向かって2時間くらい歩くと森が見えてくる。

 その森は昔からそこに存在しており、森と平原、そして川があるこの地に作られたのが僕らの住むシルバーリーフ村だ。

 そんな経緯でできた村なので森までの距離は割と近い。

 もちろん森には魔物がいるのである程度の距離は取っているが、普段から平原では村の人たちが農業や放牧をしているし、森にも木の実や薬草、動物や魔物の肉や素材などの採取に来ているから、村から森までは道が整備されている。この道を通って僕らも森に入るわけだ。

 

 道を歩きながら、久々にリリアと一緒だからいろんな話を……わくわく……とか、ちょっと考えたものの、もちろんそんなことはしない。

 村で借りた馬に乗ってさっさとやってきた僕らは、森の手前に作られている厩舎に馬を預け、森に入る。


 ジェレミーの言っていた遺跡の位置は頭に入ってる。

 道中で出現する魔物を退けながら森の奥に向かって進み、神殿の入り口までやってきた。

 僕らは期待を胸に探索に挑んでいるが、一方で緊張もあるので当然ながら無駄話なんかしている余裕はない。

 それくらいの余裕があった方がいいんじゃないかって?

 いやない。あえて、ない。

 そんなに口が上手じゃない僕が長時間女の子と会話できるわけないじゃないか。

 もちろん調子を崩してないかとか、そういった気遣いは……たぶんお互いしているんだよ。


 

 森は朝露に濡れ、神秘的な光を放っていた。日常から離れ、未知の冒険に足を踏み入れる緊張と興奮が、二人の心を高鳴らせた。

 とか書かれれば、なにかが起こりそうだけど、そういうのはいったん置いといてもらおう。

 いや、森が僕らの日常から離れているのは確かなんだけどね。


 そうして僕らはジェレミーが言っていた場所に到着すると、そこには本当に古びた門があった。


「あった」

「本当ね。ジェレミーっていう冒険者さんが言っていたとおりね。魔力が漂っていて中が見えないわ」

「ここからは気を付けて進んでいこう。僕の後についてきて」

「わかった。私はいつでも魔法を唱えられるように準備して進むわ」

 そういいながら杖を構えるリリア。

 

 

 石の門をくぐり、進んでいくと祠があった。その祠を入ったところに石碑が立っていた。


「石碑だ。何か刻んである」

「これは…古代文字で書かれた説明文ね。『光を求めし者、闇の試練を乗り越えよ』って書いてあるわ……」

 石碑には判読しづらい文字が刻まれていたが、古代文字がわかるリリアが読んでくれる。

 

「試練か……。でも、僕たちはこの石碑の言う"光"を求めてるんだ。だから、この先に進むしかないよね。」

 僕は覚悟を決め、リリアの手を握った。

 

「まだ文章は続いているわね。えぇと、

 『光を求めし者、闇の試練を乗り越えよ

  お前の力が試される

  星の力が神の光へと誘う

  番人を超えられるか

  調和をもたらすことができるか

  それが試練なり

  順番に乗り越えるがいい』  

 ね」

「どういう意味だろう」

「わからないわ。でもなにがしかの暗号だったり道しるべになっているはずよ」

「なるほど。じゃあしっかり記憶しておこう」

「そうね。」

「それじゃあ進もう。いよいよ遺跡探検の始まりだ!」

 

 僕らは石碑を背にして遺跡を進み始めた。

 石碑のある場所は小部屋のようになっていて、奥へ進むには古めかしい扉を開ける必要があるようだ。

 この扉が開かなかったらどうしよう……。

 そんな心配をよそに、二人で押したら割と簡単に扉が開いた。

 扉がゆっくりと開く音は僕らの冒険の始まりを告げるかのようだった。

 その先には、古代の秘密が眠る未知の世界が広がっていた。


 

 僕らはようやく遺跡に足を踏み入れた。

 最初の部屋はとても広く、中央付近に石碑が、壁側には鎧……もしかしてゴーレムかもしれない、が複数ある。

 警戒していた魔物は存在しないようだ。

 なんだこの部屋?


「これが試練なのか?」

「そうかもね。特に魔物もいないようだからとりあえず調べてみようか」


 僕らは中央に向かった。

 中央部には6つの石碑があった。

 中心には無機質な感じの石碑がたっていて、その周りを5色の石碑が囲んでいた。

 赤色、青色、黄色、水色、茶色。


「まわりの石碑は魔法属性を表しているみたいね。火、水、地、風、木ね」

「なるほど」

「ここに書いてあるのが説明文みたいね。えぇと、『調和を求むる者、自然の秘密を解き放つ鍵を手に入れよ。 火は水を暖め、水は地をうるおし、地は風を育み、風は木を揺らし、木は火を灯す。これが調和の法則なり』だって」

「どういうことだ?」

「もう、エドったら。考えてみて」

 難で魔法属性を示しているのに雷がないんだろうというくらいしかわからない……。

 

「うーん。わかんない。5つの石碑には何かを安置するような台座がついてるけど」

「そうね。何を置けばいいのかな?」

「わかんない。とりあえず今度は端っこの方にあった鎧を調べてみる?」

「そうね。そうしよう」

 わからなかったら調べる。基本だろう。

 石碑に書いてあった"番人"が気になるけど、こんないきなり出てくるかな?

 

「ゴーレムみたいでちょっと嫌なんだけどね」

「なるほどね。そうだったら……頑張ってね。応援してるから!」

「いやいや、一緒に戦ってよ!」

「もちろん頑張るけど。ゴーレムって魔法が効きづらいのよね」

「わかってる。足止めとか、僕の補助をお願いするよ」

「わかったわ」


 ゴーレムは石や金属でできた人形が魔力で動いている、という形式が多い。

 なぜ動くのかはわかんないけど、それを言ったらアンデットとかだってそうだ。

 そして、ゴーレムには魔法防御の魔法陣が描かれているものが多く、そういうゴーレムはリリアが言うように魔法が効きづらい。


 

 そして僕らは部屋の入り口まで戻り、今度は鎧に近づく……。

 すると不思議な音が鳴り響く。

 

「なんだ?」

「見て、鎧が!」

「リリア、危ない!」

 僕はリリアに覆いかぶさる。その上を熱線が通り過ぎていく。


「ゴーレムだ!戦うぞ!」

「わかった。マジックシールド!ブースト!クイック!」

「ありがとう!」


 準備しておくとの言葉の通り、支援魔法を重ね掛けしてくれるリリア。

 なんて素晴らしい。

 僕は力任せにゴーレムを蹴りつけ、その反動でゴーレムから距離を取る。


 起動したのはファイヤーゴーレムのようだ。

 赤いフォルムで熱線を放ってくるなんてそれしか考えられない。

 もしかしてこいつを倒してその遺骸を安置するんだろうか……めっちゃ運ぶの大変そうなんだけども。


 ゴーレムの目が光りだす。やばい……。

 僕は思いっきりジャンプする。その場所を通過する熱線。


「ウォーターボール!」

「グゴァア!?!?」

「ウォーターボール!」

「グボゴォゴボ」

 リリアが連続してウォーターボールを飛ばしてくる。なるほど、ファイヤーゴーレムには超効果的だ。素晴らしい。

 水属性が弱点なら僕だって。


「……できることがない」

「ウォーターボール!」

「グガーーー……」

「やった!倒したわ!!!」

 さすがリリア。かっこいい!


「ごめん、リリア。水属性の攻撃方法がなくて」

「いいのよ、エド。最初かばってくれてありがとう。さすがエドね。あそこで熱線をくらっていたらかなり厳しかったと思うわ」

「うん。気を引き締めていこう。鎧が全部ゴーレムなら、他は僕でも戦えるはずだから」

「任せたわよ。私は水魔法と聖魔法は得意だけど、他はあんまりだから」

「これこそ協力ってやつだよね!」

「そうね」


 そうなんだろうか?

 まぁいっか。


「この遺跡の中で魔法を使って進んでたら魔法レベルもあがりそうね」

「たしかに」

 

 魔法にはレベルがある。

 えっ?突然説明に入るなって?ごめんごめん、手短に終えるよ。

 僕らが火とか聖の属性魔法や回復魔法を持ってるって話は前にしたと思うんだけど、それぞれの魔法にレベルがあるんだ。

 僕の火魔法はレベル3だ。

 レベルが上がると新しい魔法を覚えたりできる。

 レベルはその魔法を使った経験によってあがるから、使いまくってたら上がる。上達する、と捉えてもらってもいいかな。

 なにせ、レベルが上がるのにどれくらい使うかには個人差があるから。

 そして一説には周囲に魔力が多い場所で使った方がレベルが上がりやすいと言われている。

 ふふふ。期待してしまう。

 風魔法が上がったらファイヤーストームを撃てるようになれるかもしれないし、光魔法が上がればコピー呪文であるエミュレートを習得できて、攻撃の幅が広がる。

 あっ、エミュレートはね……って、ごめんごめん。妄想を膨らましてないで次に行くよ。

 

 

 予想通り鎧は全てゴーレムで、ウォーターゴーレム、アースゴーレム、ウィンドゴーレム、ツリーゴーレムだった。

 サンダーゴーレムはレアだからいないのかな?

 


「燃えろ~♪フレア♪」

「綺麗だね、エド」

「ほんとだね。よく燃えるよね~♪」

 ツリーゴーレムはないだろう。普通のゴーレムより弱い。めっちゃ燃える。


 ゴーレムを倒すとその場に延べ棒サイズの素材が残った。

 ツリーゴーレムはあれだけ燃やしたのに、それでも木材みたいなのが残った。不思議だ。


「これを置けばいいのかな?」

「そうみたいね。とりあえず置いてみよう」


 僕らは各色の石碑にある台座に同じ色の素材を置いてみた。

「普通に考えたらこうだけど、あってるかな?」

「エド、あれ!」

 リリアが中央の石碑を指さして叫ぶ。

 そっちを見ると、石碑から何か光が放たれており、それが石碑の上で球体になっていた。

「リリア、危ない!」

 僕はリリアに覆いかぶさる……が、何も起きなかった。

 やばい。


「エド、なに?」

「……いや、その、あの」

「エド?」

「ごめんなさい、またさっきみたいにいきなり攻撃されるかと思って」

「もう、エドのバカ!」

 ようやく衝撃が来た。僕が守ろうとした人から……。

 

「ずびばぜん」

「もう。庇おうとしてくれたんだからいいけど、真面目にやってる?」

「めっちゃ真面目です。間違いないです。ほら、何か出てきたよ?」

 ほっぺに赤い手形を付けた僕の目が球体から出てきたものを捉える。

 

「あれはゴーレム……。だけど……どうして?」

「何か色も違うね。暗いけど、黒?ダークゴーレムとかだったら面倒だよね」

 

「何か知ってるの?ダークゴーレムだったら何が面倒なの?」

「ダークゴーレムはその名の通り闇属性のゴーレムだよ?面倒なのは、ダークゴーレムは普通のゴーレムより強いこと、闇魔法を使ってくることだね。」

「他のゴーレムより強いのね。でも闇魔法であれば、エドの光魔法で」

「そのつもりさ!いくぞ、シャイニング!!!」

 詠唱とともに、僕の手から眩いばかりの光の波動が放たれ、ダークゴーレムに直撃する。

 光がダークゴーレムの闇を一瞬打ち払い、その巨体を揺さぶった。


「効いてる。やっぱりダークゴーレムみたいだ。リリア、避けろ!」

「ん!?!?」

 ダークゴーレムの目が赤黒く輝き、魔力放出が起こる。リリアは……?


「マジックシールド!マジックブースト」

 僕の周りに淡い紫の光が展開される。よかった、リリアは無事みたいだ。しかも支援魔法を展開してくれてる。素晴らしい。


「リリア、無事か?」

「えぇ、大丈夫よ、エド」

「よかった。一気に倒そう!シャイン!!!」

「エド、合わせるわ!ウォーターキャノン!」

「おぉ」

 弱点属性の僕の魔法と、水属性だが中威力のリリアの魔法がダークゴーレムに着弾する。

 マジックブーストもかかった僕らの魔法の威力は悪くないはず。

 そのままダークゴーレムの反撃を警戒して移動しながら魔法攻撃を続ける。

 登場して特にいいところもなく魔法の猛威に晒されるダークゴーレム。

 僕らが4発ずつ魔法を当てたときにはその動きをとめ、そして消えていった。

 あとには何も残っていなかった。


「あれ?」

「エド、どうしたの?」

「いや、特に何の素材も残っていないんだなって思って」

「なるほど。ダークゴーレムは何も落とさないのかな?ん~、なんでだろう」

「これは恐らくはずれってことなのかな?罰ゲーム的な。台座には素材が残ってるから、また1体ずつゴーレムを倒す必要はなさそうだけど」

「置き方……『調和を求むる者、自然の秘密を解き放つ鍵を手に入れよ。火は水を暖め、水は地をうるおし、地は風を育み、風は木を揺らし、木は火を灯す。 これが調和の法則なり』」

「あぁ!?」

「なに?エド?どうしたの?」

「わかったかも。置き方。台座と素材だから、水、つまり青い台座に火の素材を置くんだ。同じように、地、つまり黄色い台座に水の素材を。

 あとは、水色の台座に地の素材、緑色の台座に風の素材、赤い台座に木の素材を、ね」

「なるほどね。調和を示しているのね」

「よし。早速置いてみよう」


 僕らは順番に素材を置いていく。もし違うように置いたらまたダークゴーレム出てくるのかな?

 これでダメだったら台座と素材の関係を反対にしてみよう。

「……」

「エド……」

「ん?」

「変なこと考えてないよね?」

「もちろん……」

「(怪しい……)」

「(なにもしない……)」

「(……)」

「(ごめんなさい)」


 ……ガタン!


「何かが開いたような音……あぁ、あそこだ。扉が開いてる」

「そうみたいね。行きましょう」


 無言で変な交信をしながら台座に素材を置くと、正解だったようで今まで見えなかった扉が開いた。

 楽し……じゃなかった、気を引き締めていかないと。

 しれっと収納袋に5つの素材を入れて、僕はリリアの後を追った。

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