第2話
「ほんと収納袋は便利だね。これ1つあるだけで大量の荷物が運べるのに、とっても身軽だ」
僕は集めた荷物を収納袋に詰め込みながら、思わず独り言を口走る。
「そうね。この魔道具は凄いわ。それにテントから食料まで全部入って、さらに余裕がある」
「あっ、聞こえてた?」
「聞こえるわよ、エドったら」
恥ずかしい。
まぁいいか。僕らは収納袋に集めてきたものを入れているところだ。
集めたものは……。
父さんは幾つかの役立つ道具......カンテラや収納袋、テントと魔除けを貸してくれた。
母さんは心配そうだったけど食料や水、そして手製の幸運のお守りをくれた。
リリアはカンテラと回復薬、解毒薬、あと彼女も食料と水を持ってきてくれた。
「食料はあわせて2週間分くらいはあるから、十分かな」
「そうね、エド。薬も多めに持ってきたわ」
「ありがとう、リリア」
「それはこっちのセリフよ。テントと魔除けを持ってきてくれたのは助かるわ。どこかで調達しないといけないと思ってたから」
「父さんたちも以前は素材採取のため森に行ったりしてたから、そのころに使っていたものを貸してくれたんだ」
テントと魔除けは大事だ。これがあれば、遺跡の中でも安全地帯を作って休むことができる。
もちろん大量の魔物がいるような場所では効果はないけど、ある程度開けたところで、魔物がわいてくる場所さえ避ければ十分効果を発揮する。
そして、テントではリリアと添い寝……あ~
「エド……カーム!」
突然リリアが僕に向けて印を切る。ハっとする僕。
「ん?リリア、どどどどうした?」
「なんかニヤニヤしてたから……」
「ごめんごめん。ちょっと冒険が楽しみで」
必死にごまかす僕。
カームは精神を落ち着かせる魔法だ......。
「そうなの?まぁそういうことにしておいてあげよう。でも楽しんでばかりじゃなくて、危険な場所なんだからしっかりしてよね」
「もちろんだよ。任せて!」
「わかった。さぁ、全部入ったわね」
「あぁ、ばっちりだ。あとは食料と水や薬などを使って、代わりに採取した素材なんかをたくさん入れて帰ってきたいね」
「うん」
ちょっと説明しておくと、収納袋、カンテラ、魔除けは魔道具だ。
ん?突然だし強引に説明を始めるなって?
どこが強引なんだよ。ここで説明しないとみんな意味がわからないだろ?
ちゃんと聞いてね!
この世界には魔道具という便利な道具が存在している。
どんなものがあるかというと、魔法剣とか、効果付きの杖なんかは魔道具だし、遠い場所に一瞬で行ける転移門とかも魔道具だ。
今説明するのは今回探検に持っていく魔道具だね。
まず収納袋はいろんなものを入れておける魔道具で、この世界では広く一般的に使われているものだよ。
入るものの量は収納袋によって違うし、よりたくさん物が入るものは高いけど、今回のように少人数で短期間旅に出るのに必要なものを入れておく収納袋は1万アスタくらいで買える。
アスタはお金の単位で、だいたい普通の人の1か月の給料が20~50万アスタくらい。外で食事する場合、定食くらいなら1千アスタ、ちょっと豪華にいくと5千~1万アスタくらいかな。お金は全て硬貨……というかこの世界では晶貨と言われるものが使われているけど、この説明は割愛するね。
また機会があったら話すよ。
魔道具の説明を続けるけど、魔道具は魔力を使って起動するものなんだけど、大きく3つのタイプがあるんだ。
1つは魔石が備え付けてあって、自分の魔力を使わなくて済むもの。
もう1つは魔石がくっついてなくて自分の魔力で起動しないといけないもの。
一般的に使われる魔道具には魔石がついているものが多くて、とっても便利なんだ。
対して、効果が高いものや扱いが難しいもの、古代のものには自分で魔力を使って起動して使うものが多いよ。
あとは、僕は見たことがないけど、魔道具自身に魔力を集める魔法陣が備わってるものがあって、勝手に魔力をため込んでくれるものもあるらしい。
そんな魔道具の中で、収納袋は最大のヒット作で需要が多く、作るのも簡単だからとても広く使われていて安い。
これがあれば商会は商品を運ぶのに便利だし、冒険者は装備や食料を運べるし、引っ越し屋は荷物を運べる。
国が政策の一環で補助金を出して価格を抑えてるという話もある。
でも、残念ながら生き物は入らないよ。
カンテラも魔石付きの魔道具で、これは暗い場所で周りを照らすだけの魔道具だね。
魔除けも魔石付きの魔道具で、これは周囲の瘴気を払って魔物が近づくのを防ぐ魔道具だ。
どれも冒険、探検には必須と言っていい魔道具たちだ。
よし、準備完了。
あとは長老たちに挨拶をしたら出発だ。
僕たちは村の広場に向かった。
昨晩ジェレミーが古代遺跡について語った広場で、今日は村の長老であるギルバートが村の者たちに語りかけていた。
ギルバートは伝説の語り部としての役割を担い、古代の物語や神話に精通している。
ジェレミーの遺跡の話を受け、探索に心を躍らせる者たちに、注意と知識を促すために彼は声を高らかにした。
「皆、聞いて欲しい。遺跡の発見はわれわれの村にとって大きな出来事だ。
だが、古代から伝わる物語には、そういった場所に潜む危険についても多く語られている。
遺跡は古の力を宿し、時にそれは我々の想像を超えた形で現れることがある。」
僕らが広場についたころ、長老のギルバート様がみんなに語りかけていた。
「特にお前たち若者に伝えたい。遺跡探索は、ただの冒険ではない。それは古代の世界と対話することだ。」
ギルバートは深く息を吸い、続けた。
「遺跡には、時に古代の守護者が残した試練が待ち構えている。例えば、魔力を帯びた罠や、守護する精霊、または古代から封じられし魔物たちだ。これらに立ち向かうには、ただの勇気と力だけでは足りない。古の知識を身につけ、周囲を良く観察し、そして何より、互いに支え合うことが重要だ。」
なるほど。さすがが長老様だ……よくわかんなかった。
長老様は若いころに冒険者をしていて様々な場所を巡ったらしい。壮年になって生まれ故郷であるこの村に帰ってきて、今では長老様だ。
歴史や伝承に詳しいから、きっと遺跡についての知識も持っているんだろう。
僕がそう思っているとリリアが長老様に尋ねた。
「ギルバート様、私たちが遺跡で直面するかもしれない試練に備えるために、特に心に留めておくべきことはありますか?」
さすがリリア。理解してるのかな?
そんな質問にギルバートはうなずき、答えてくれた。
「1つには、自然との調和を忘れてはならないことだ。遺跡は自然の一部であり、そこに生きる精霊や生物たちは、その場所の守護者だ。彼らに敬意を払い、遺跡を荒らすことなく進むべし。また、古代の文字や遺物には、しばしば重要なメッセージが込められている。それらを見逃さず、学ぶことだ。そして最後に、常に互いを信じ、助け合うこと。一人では乗り越えられない危険も、協力すれば乗り越えられるだろう。」
なるほど。うん……。よくわかんなかった……。
でも大事なことなんだろう。頼んだよリリア。
僕とリリアはギルバートの言葉に深く感謝し、その知恵を胸に刻んだ……はずだ。
「リリア……わかった?」
「あはははは。エド、任せてね」
くそ……めっちゃ笑われてる。
「古代文字で書かれたメッセージ、それに従って遺跡を攻略し、お宝を持ち帰る。それは冒険譚よね。
私は古代語も読めるし、わかったことは教えるから、一緒に考えながら慎重に進もうね」
「さすがリリア。頼りにしてるよ」
「任せなさい!」
胸を張るリリアが可愛すぎてやばい。
「よぉエドモンド。遺跡探検に出るんだってな。兄貴に聞いたぜ!」
僕らが広場に残って会話していると、僕の叔父さんであり村の警備隊のリーダーでもあるアルトンが声をかけてきた。
アルトンはエドモンドの剣の師匠でもあり、エドモンドの剣術の腕前はアルトンの厳しい指導の賜物だった。
「エドモンド、遺跡探検の前に剣の稽古を付けてやろう。遺跡の中には魔物もいるし、罠もある。そんなとき、お前の剣が生きて帰るための武器になるだろうからな」
「お願いします」
僕はそう言って剣を抜く。
「それじゃあエドモンド、早速だが準備はいいか?」
アルトンが淡々と尋ねてくる。
「いつでも、叔父さん!」
落ち着いた風が吹き抜ける中、僕らは真剣を手に対峙していた。
稽古が始まる。
アルトンは圧倒的な速さと正確さで攻撃を仕掛けてきた。
僕は必死に剣を振るう。
アルトンの攻撃をかわしながら反撃のチャンスを伺った。
「遺跡探検では、予測不能な危険が待ち受けているかもしれない。剣を振りながらでもしっかり警戒しろ!考えろ!」
アルトンが攻撃の合間に語りかける。
僕は息を切らしながら答える。
「わかってる、叔父さん。僕は冷静だ!」
攻防が続く中、僕はアルトンの一瞬の隙を見逃さなかった。
「スラッシュ!」
一気に踏み込んで一撃を繰り出す。
「悪くはない」
しかし、防ぐアルトン。
「カッティングエッジ!」
僕は弾かれた剣を強引に引き戻して攻撃を続ける。
「甘い!」
が、避けられた。くそっ!
どうする。
もう少し様子を見ながら隙を探るか?
それとも……。
「くっ!」
思考を挟んだら危うく斬りつけられそうになり、何とか回避した。
危ない。
しかし、アルトンの剣を避けたことで今は動ける。
少し距離はあるが、やれる!
剣撃を飛ばして突っ込もう。
「スラッシュブラスト!!」
「なに?」
行け!!!!
アルトンは僕の剣撃を回避する……。
……が、そこには死角が生まれる。
強化した脚力で一気に接近し、アルトンに剣を突き付けた。
「よくやった。だが油断は禁物だ。遺跡では、常に周囲を警戒し、一瞬の隙も見逃さないように。常に考え続けるんだ。しかし、強くなったもんだな。教えながらとはいえ、まさか負けるとは」
アルトンは微笑みながら、アドバイスをくれる。
「ありがとうございました、叔父さん」
僕は素直に礼をし、感謝を示す。僕も結構強くなった。これは自信になる。
アルトンは僕の肩をたたき、問いかけてくる。
「遺跡探検はただの冒険ではない。長老も言っていたが、未知との対話だ。剣の技術も大切だが、それ以上に大切なのは、心の準備だ。お前はその準備ができているか?」
僕は一度冷静に稽古中の自分を振り返った後、確信を持って答える。
「はい、叔父さん。僕は準備できています。どんな困難も乗り越えてみせます!」
「その意気だな。無事を祈るぞ。リリアも一緒に行くんだろう。しっかりな!
あと、この剣を持っていけ」
アルトンは自身が使っていた剣を手渡してくる。それはアルトンが若い頃に使っていたもので、多くの戦いを経てその切れ味はいっそう鋭くなっていた。
「この剣は兄貴……お前のお父さんが昔俺のために鍛えてくれた剣だ。自分の剣があるだろうが、予備にお守り代わりに持っていけ」
「ありがとう、叔父さん」
「無事に帰って来るんだぞ。そして、お前たちの冒険の話を俺に聞かせてくれ。」
僕らの心の準備はできた。長老と叔父さんに感謝だな。
二人は準備を終え、冒険への出発を前に互いへの信頼と秘めた思いを胸に秘めながら、遺跡探索へと足を踏み出した。
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