第11話食事会場
『目的地付近へ到着しましたので、音声案内を終了します』
「はぁ……ここでもやっぱ、入学式は長かったなぁ。お腹ペコペコだ」
花びらがパラパラと落ちているエレベーターの中で、Googleのナビを止め。
パレードやらドローンで文字を出しながら学校説明されても、覚えられないものは覚えられねぇな。
唯一覚えていることと言えば、この学園専用のアプリを説明されたぐらいか?
ま、それもスケジュールやら学園マップ、その他諸々便利な機能がついているぐらいしか覚えてないけど。
「いらっしゃいませ、当学園のアプリに表示されている現在の階級をご提示願えますでしょうか?」
エレベーターが開くや否、すぐにスタッフがドアを押さえて丁寧な案内をし、
「はい、Eランクですね。この突き当たりを左へ曲がると本日の昼食会場でございます。
どうぞ、ごゆっくりお楽しみください」
スマホの画面を見せると廊下の奥を指し示される。
俺は今、正午を回ったことで学生それぞれの学園アプリに表示された昼食場所に来ていた。
「ディナーで有名なビル最上階にある見晴らしの良いレストランっかぁ。いやぁ、すっげぇな」
内装は漆でも塗っているような淡い煌めきを放つ黒い壁。
言い方は悪いけど床は水で濡れたら滑りやすそうなテカテカな大理石、ライトも天井の凹んだところから控えめに光が漏れ出る名前分からない奴。
そしてほのかに聞こえる『眼鏡掛ければ頭良いでしょ』レベルでお決まりな落ち着きあるジャズ。
うーむ……このよく分からない感じ、まさに高級だ。
「ま……そもそもエレベーターで何十階と上がった時点で、高級なんだけど」
牛丼屋とか、ハンバーガーチェーンとかの可能性を考えていたから凄く緊張してきた。
道端に落ちてたボロボロなEランクの壁を見て、マイナス思考に陥りすぎたな。
通路の横はもう少し力を入れただけで、外れそうなほど大きい窓。
そこからカラフルな街並みが見下ろせ、豆粒ほどの人々があちこち動いているのが見える。
1番モテない人間たちが分類されるEランクでこの待遇、ここからD、C、B、A、Sと5段階もグレードアップするとも思えない。
昼食の予定時間は1時間。
学園にある高級料理店へそれぞれ人数分散させて楽しく、ランク関係無くモテる奴らと会話しながら食事を楽しむ。
そんな感じのプログラムなんだろうか?
「うぉぉぉぉっ、ここって美味しいで有名だったよねっ?! こういう高級料理店初めてで楽しみだ」
「俺も俺も、せっかくならいっぱい食おうぜ」
後ろ首に両手を組んだ男子生徒が友達同士っぽい男と通り過ぎる。
そして一段と男女混じった黄色い声が大きくなったかと思えば、バタンっと静かになる。
「はい、会場はこちらになりますよ」
角を曲がって覗いてみると華やかな扉の前へ、男性のスタッフがこちらに微笑を浮かべていた。
あー…………買い物とか、静かにしたい派の俺にとって焼けるような眩しさだ。
これは素材とか、産地とか言われながら食べさせられるんだろうか。
「こ、こんにちは」
「えぇ、こんにちわ、ゆっくりでいいですよ」
辿々しく近づき、軽く頭を下げて挨拶すると緊張が伝わったのか優しい声で返ってくる。
そんな顔に出ていて、分かりやすかったんだろうか。
思えば……俺もこういう店は初めて来た、どんな料理とサービスが提供されるんだろうか?
想像するだけで楽しみだけど……、
「あの、マナーとかシステムがよく分からないんだけど、大丈夫ですか?」
「えぇ、皆さん学生ですし、それを気にするような人もいないと思いますよ」
そう言われ、肩の荷がスッと降りて楽になる。
「すぅ、はぁ」と深呼吸し、覚悟を決めた俺はドアの前へと近づき。スタッフはそんな俺を小さく鼻で笑った。
「ただ、一つアドバイスするなら……何事も早さと、悪意を持っている人間が一番幸せになれるかと」
横を通る合間、小さく聞こえて来た声。
早さ? 悪意……? ただ飯を食べるだけじゃないか? 早食い大会でもするっていうのか。
そんな疑問が頭に浮かぶ暇もなく、ドアが開かれ。
眩しい光と一緒に飛び込んできた光景に、俺は思わず笑ってしまった。
立派な凸凹したパイナップルの実が縦に切られたまんま皿へ乗せられ。
それをイチャイチャしながら、スプーンで交互に食べさせ合う学生カップルたち。
「趣味はなんなの?」
「っあ、まぁ……ゲームっすかね」
「へぇー、私たちもmiHoYoとか好きだよ。今度3人で一緒にする?」
その合間合間を孤独な生徒が座り、見覚えのある先ほどすれ違った男子生徒の一人も座っていた。
「えぇ、はいっ、じゃ遊びますか」
ただ、その背中は老人ぐらいに曲がっていて、正気の抜けたような取り繕った笑顔は同一人物とは思えないほど、しょぼくれていた。
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