第10話さぁ、君たちの青春ラブコメを始めようか
苺谷の目は至って真剣で、俺を揶揄っているようにはとても思えない。
「ま、でも流石に先輩でも0.01なら見抜けますか。そんな異常な奴、気付けない方が馬鹿を通り越してますもん」
おい……なんだ、これ?
再度、周りにカメラがないか、確認するけど監視カメラぐらいしか見当たらない。
一体、どれだけ前世で悪行をしたらこんなことになるんだろ。
目の前にいる女の子が、現在進行形で自分の悪口を言っているぞ。
「でもさ、見て分からないレベルかもしれないし、気付けなくても仕方ないと思うけど」
「じゃ、良かったじゃないですか。気をつけた方がいいですよ、先輩は私と違って節穴ですから」
俺は叫びたくなる声を我慢して頭を抱えた。
ダメだ……方向を修正しようとするも、エグいカーブで言葉の球がピッチャーに直撃していく。
ふと……昔の記憶がよぎり、俺が低倍率だと知ると『私と仲良くなりたいから騙した、クソキモイ』と罵ってきたことを思い出す。
もう、どこか行ってくれ。
そう願って横目で苺谷を見るも、手を当てて自慢げに胸を突き出していた。
「親切に教えてくれてありがとう、お前も後が大変だろうけど頑張れよ」
「ん? 言われなくても頑張りますけど……後が大変ってどういう意味ですか?」
なんで偉そうに応援しているんだ、と頭に疑問符を浮かべてくる苺谷。
「後で分かる時が来るだろうからさ……それまで悪いけど、もうお前と話したくない。どっか行ってくれ」
口が上手い方でもない俺は突き放すような言葉しか言えず、彼女の顔がスンっと無になる。
「あぁ〜、そっすか。はい、じゃ、これでお別れですね」
そして淡々と言葉を発すると、意外にもあっさりとどこかへと消えていく。
「ふぅー、まっ、しゃーないな」
そのあまりに拍子抜けするような別れを、俺は何度も知っている。
あれは心底どうでもいい、冷めた人がする適当な返事で……多分、もう2度と話しかけてくることもないだろうな。
とりあえず、席でも探すか。
『恋愛学園都市『恋王市』へ、ようこそ童貞、処女たちよっ!』
そう思って階段を上がっている放送が聞こえ。
ドーム外周から「シューっ」と何本もの線が空を駆け上がって行く。
『ここで生活して行く過程で恋愛に興味を抱き、モテるよう努力し、甘酸っぱい青春を送れるようサポートすると誓おう——』
「バァーーーンッ!!」と線の先端が破裂し、先ほどまで雲一つなかった青空を。
『——それこそ、おとぎ話の魔法に負けないぐらいに』
「うぉーー、すっげぇな」
泳ぐようにアルストロメリア、ユリ、菜の花、マリーゴールドなどの色鮮やかな花びらが彩り。
「「「「「おぉっ……」」」」」
バンバンバンっと花火の振動が伝わるたび『味気なかった青空を綺麗と感じていた価値観』に亀裂が入って壊れるのを感じる。
そうそう無いことのようで観客席にいた人たちも立ち止まり、見入っている。
『パラ……パラ』
そんな中、髪の毛に何か落ちる。
取って手のひらへ乗せると、それは焦げついたユリの花びらで、白い色も相まってえびせんみたいだった。
そして試しに頭を振ってみると、ドンドン髪の毛から焦げた花が落ち。
「いや…………雰囲気に飲まれてたけど、よくよく見ると色がごちゃごちゃしてるし、髪も灰で汚れるし、花の命も勿体無いな」
その灰を指で擦り、手のひらの花びらは急激に冷めていく。
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