第3話あなたもあなたも先輩
「君の前前前世から僕は君を探し始めたんだよ〜」
感情が追いついていないまま訴えられるかもしれない。
そう思って固まっていると、後ろの女の子は急に歌い始める。
「くッ、臭いだろ、離れろ」
「えっ、臭いですか? そんなキツイ香水でもないはずなんですけど」
匂いを指摘した途端、パッと機敏に反応した女の子は距離を取って手首と制服の襟を嗅ぎ始め。
そんな行為に安心し、俺は後退りして距離をとりながら胸を撫で下ろす。
「むっ、さすが先輩、引き剥がす嘘だったんですね? 見事に騙されました」
別に嘘という訳でも無かったし、勝手に勘違いしただけだが、わざわざ訂正する必要もないか。
それにしても急に抱きついたりして、なんなんだ? こいつは。
距離が空いたことで改めて、頬を膨らませて怒っているとアピールしてくる女の子の全身を観察する。
肩に少しだけかかった毛先はゆるいパーマがかかっており、キラキラした黄色いシュシュを腕につけたオシャレな人で。
長いまつ毛と控えめなメイクで、元々も凄く整った顔立ちだと分かる。
お椀型に膨らんだ胸、引っ込むところは引っ込んでいてスタイルも良い、サッカー部のマネージャーでもしてそうな女の子…………間違いなくモテている。
だからこそ、分からない。
一体なぜ、そんな美少女が俺に抱きついて先輩と呼んでくる?
「俺には仲が良い後輩どころか、知り合いもいない。お前はだ——」
「っあ、おはようございますっ! 先輩」
「っえッ?! あっ、あぁ、おはよう」
俺が声をかけたタイミングで、彼女は後ろの他の男に気付き。
後ろ手にくるっと挨拶し、びっくりされながらも照れた返事をされる。
「おはようございますー、先輩っ!」
「ッア、お、おはざ……す」
その後も他の生徒が通っていく度、女の子は「先輩」と元気に挨拶を続けていく。
「わざわざ入学する先輩たちを見送りか、マメだな」
「っはは、先輩面白いこと言いますね? 今日は入学式なんですから、見送りに来る人なんている訳ないじゃないですか」
俺の腕に手を通し、胸を押し付けてきながら女の子は一緒に歩き出そうとする。
「いやッ、ちょっと待て! まさか、お前も入学式に出るのか?」
俺が止まったことで、自然と引っ張る形で止まった女の子は不思議そうに振り返って来る。
「当たり前じゃないですか、先輩」
何を聞いているんだ、そう俺が可笑しいような顔で見つめ返し。
ジャケットをパタパタと見せびらかすように開き、同じ制服であることをアピールしてくる。
「飛び級はしてるのか?」
「嬉しいことにしてないですねぇ」
ごくごく普通に答えてくる彼女、それと俺の間になんとも言えない沈黙が流れる。
「俺は今年で高校一年生になって入学式にでる」
「そうですね」
俺は自分のことを人差し指で指差し、
「それでお前も入学式に出ると」
「ですね」
次に彼女を指差し、一つ丁寧に聞いていく。
「そんで、俺とか他の奴らは?」
「えへぇ、せぇーんぱいっ!」
こてっと頭を傾げ、天真爛漫に可愛らしい笑顔を向け。
そんなものが向けられたことがなかった俺の心臓に頭突きされたような衝撃が走り。
「——ッハ」
一瞬、視界が真っ白になる。
あっぶねぇ……心停止するところだった。
ドキドキするな、そうじゃない、そうじゃないだろ! 俺。
「ようはお前、同い年を先輩って呼んでる変人ってことじゃねぇか」
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