第2話せーん、ぱいっ!
クスクスっ、と聞こえてきた笑い声。
周りの視線が集まっていることに気づき、小学校から散々見せつけられた画面を閉じる。
そして恥ずかしさを誤魔化すように髪をかきあげた。
「いつ見ても外に巨人がいて、襲って来ると言われたら信じちゃう外見しているよな。この恋愛学園都市『恋王市』は」
カップルグッズやカップル割引を大々的にアピールする飲食店や娯楽施設が立ち並び、池袋にとって変わった若者たちの街。
そんな恋愛学園都市で象徴ともいえるD、C、B、Aとランク付けされた何枚もの壁の山。
円形に囲う壁は中心へ近づくに連れて高く頑丈に、豪華に築き上げられていて。
1番奥にある『S』の壁は様々な金属で花のような装飾が施され、今もキラキラと放電のようなイルミネーションで煌めいていた。
「元々、東京の日の出町を再開発した場所らしいけど……Sランクはネットで見たことあるようなモテる人たちが住まう高級住宅街なんだろうな」
ん……待てよ。
それならさっき、Eランクとか言われていた俺の壁はどこだ?
前にある壁を注視するが、どんなに凝らしてみてもEと書かれた壁はない。
せいぜい普通の学校のような石で建てられたDランクの壁が少し見えるだけ。
「もしかして、もう通り過ぎたのか?」
そう思って振り返ろうとしたところ。
バキっ、と湿って腐ったような木片の音が足元で鳴る。
「うわっ……やっちまった」
足を退けるとそこにあったのは加工されているとはいえ、お世辞でも綺麗とは言えない虫食いだらけに穴が空いた小さな木の板。
「くっそ、器物損壊にならないよな?」
雨で落ちたのか?
そう思って『コ』と『L』に割れた両辺を手に取った俺はクルクルと回しながら辺りを見回す。
すると、ハードルより低い、スキップ程度で乗り越えられるボロボロな木のフェンスを見つけた。
「これって……いや、そんな、まっさかー、違う……よな?」
半笑いで二つをくっつけ、ものの見事に出来上がった小さいEの字。
俺、もしかして……これから馬小屋のような場所で過ごすことになるのか?
「フェンスがあっただけ良かった、そう思うべきか?」
何も見なかったことに決め、木片を草むらへ他人から見えないように投げ捨て。
「よし、入学式行っか」と俺はGoogleマップで、入学式の会場である桜とビルの合間から見えるドームへの近道を検索する。
ほー、BとかAにあるのかなって思っていたけど、見た感じ普通にDランクの壁内部にあるんだな。
「せぇーーんっ、ぱぁーーーいっ!!」
ということは、このまま正面に見える小さい鉄柵の校門へ行けば良いのか。
そう思って歩き出そうとした矢先、どこからとも無く先輩と叫ぶ声が背後から聞こえた。
「すぅ、愛されてる人もいるもんだな」
中学校の仲良かった後輩が入学式を見送りか?
まったく異性どころか、仲が良い男友達すら居なかった俺には羨ましい限——。
「————っゔっおッ?!」
背中へ溶けるように当たる二つの柔らかい感触、それに驚く暇もなく衝撃でよろめき。
遅れて桃のような甘い香りが風で運ばれ、お腹へ腕を回されて腰へ抱きつかれる。
「おっはよーございますっ!」
しらない………知らない、知らない知らない知らない。
中学校で後輩と仲良くなった覚えもないし、挨拶されるような異性もいない。
こっわいッ! 一体、誰と勘違いしているんだ!!
間違えを指摘しよう、後から目的の人が現れて変な誤解されたら困るしッ!
そう思って振り返った俺の腰から、ヒョコッとショートカットな茶髪の女の子が可愛い系な顔が現れる。
「どうしたんですか、せーんぱい?」
「悪いけど、誰かと間違えているんじゃないか? 目が悪いのか」
さらに腰を抱きしめる力が強くなり。
モモのフルーティな甘い香りが一層と強まり、にへっと笑いながらエメラルド色に輝く綺麗な瞳がじっと見据えて来る。
「先輩、私は元々目がめっちゃ良いですし、間違えてないですよ」
っぇ……?
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます