巨乳アイドルも妹な幼馴染も金髪ギャルも清楚なあの子もみんな万馬券っ!

にくまも

いつだって月だけが綺麗で、星の海は雫で揺れる

第1話WANTEDな君たちを

 青春、せいしゅんせいしゅんせいしゅん……嫌というほど、聞く言葉だ。

 しかし、誰だって一度は疑問に思うだろう? 青春とは一体なんなのか。

 

 孤独に勉強をすることを青春というのか。

 孤独に運動をすることを青春というのか。

 

 そうさ、どれも違う。

 青春とは異性と関わり合い、恋愛とその他のイベントが絡み合う成功や失敗の体験だけを青春という。

 それなら——


 うわの空な俺の額に、自動式拳銃の熱された鋼鉄な銃口が向けられ。

 そこから溢れた『花火を連想させる火薬の匂い』と『僅かばかりな甘い香り』が鼻先を撫でる。


「はぁッ、ハァっ、なぁんで逃げんだよ」


 座ってただ勉強をする場所だった教室、そこへ苦しそうに入ってきた男子生徒は引き金に指をかけたまま股間を押さえ。

 肩で荒い呼吸を繰り返し、ニキビ跡の沢山残った頬が夕日に照らされる。


「——ッやめて!! 来ないで」


 生意気だった俺のヒロインは一丁前に教室の隅で縮こまり、体を抱えて震え。

 もう後ろへ下がれないにもかかわらず、足を滑らせて後退しようと必死に足掻く。

 乱れた髪の隙間からは俺の一挙手一投足を見逃すことなく、警戒する瞳が覗き。

 その絶望と失望の混じった表情は、信頼もクソもないことを物語っている。


「お、おまえもヤ……ヤりたいならボクの後ならいいぞ。でもこれで仲間だからな」


 男子生徒はそんな彼女を気にすることもなく股間をハチ切れるほど勃起させながら、後ろ手に教室の鍵を閉め。

 俺を共犯者として誘ってきた。


「ふぅぅぅぅぅっ! ついに追い詰めたぞっ!」

「馬鹿めっ、窓の鍵も閉めておくんだったな!!」

「野郎どもと回すのは気分じゃねぇけど、もう我慢できねぇんだッ! 乱交だ!」


 追い討ちをかけるがごとく、廊下側の窓が開かれ。

 銀色ドクロネックレスを首に下げた男性器を筆頭に、さらに拳銃を持っているのが3匹も入ってきた。

 

 ——これも青春というものなんだろうな。

 



 

『パチャンッ』


 

 

 雨上がりに跳ねた泥濘の中から、薄汚れたピンクな花が覗く。

 見上げた通学には、青々と緑な葉っぱを着飾った桜が立ち並び。

 その下を色とりどりなリボンやネクタイに白い上着、紺色ズボンや黒をベースとした白いチェック柄が入ったスカートを身につけた学生たちが闊歩する。


 2月、3月の時期に「綺麗」と花見をして見上げていた桜の花びらも、散ってしまえば踏みつけられるだけ。

 せっかくの入学式前に物悲しくなるけど、それはしかないこと。

 そうさ、ここは3月の卒業式に花が散り、4月の入学式で満開になるような物語の世界じゃない。

 いつだって桜は別れを祝うように満開で、入学式に水を差すように花が散る。


「おい、知っているか? 今年の1年Eランクに倍率0.01のヤバい後輩が入るって噂」

「なにそれ、0.125より下なんてあり得ないっしょ、だってそれすら2週間我慢して当てたら5000円の人間だよ? もっとマシな嘘つきなって」

「いやいやっ! それがまじだって」


 会話から推測するに先輩らしき腕を組んだカップルが横通り、半信半疑に笑って通り過ぎる。


「まったく……どこにでもいるって訳か」


 小さく息を吐いた俺はポケットからスマホを出し、画面を付ける。

 

『プロジェクト‪【賭けギャンブ恋愛ラブ

 

 第一次ベビーブーム世代の高齢化である2025年問題が無策に過ぎ、迫り来る第二次ベビーブームの2040年問題に若者達が恐怖していた2035年。

 何も解決しない少子高齢化に対する苦肉の策として、後がなくなった異次元な日本政府は発案した。


 義務教育卒業である高校まで、毎月1名だけ自身が好きな人を記名。

 2週間に1度、他人の好きな人を予想でき。

 結果がハズレなら対象の倍率へ1が加算され、的中なら見合った賞金が与えられて倍率オッズは半減する。

 加えて後日、両者間でカップル成立したならば、与えられた賞金の10倍が無条件で与えられる』


 良いのか、悪いのか、時代は進んだ。

 今ではギャンブルで賭けるものは馬や船の勝敗ではなく、分かりやすい人間の色恋が主流になった。

 

 そして察しの良い人なら、もう気づいただろう。

 あのカップルが話していた人物は俺だ。

 学生にとって大金とも言える、5万の価値がある倍率の変動チャンスが1ヶ月に2回。

 誰か一人にでも興味本意で調べられたら倍率が1.0に戻る中で…………俺の倍率はずっと0.01、500円。

 

 ま、死ぬほど他人から感心が持たれてないし、いじめっ子だって俺よりマシで笑っちまう状況ってことだ。

 だから当然 どいつもこいつも倍率を知ると色眼鏡で見てくる。

 まぁ……もはやどうでも良いことだ。だって、


「ぜんぶ、全部、全部全部、ここで終わりッ。

 倍率を気にしない人間たちと甘酸っぱい青春を過ごし、倍率なんて上っ面なものを否定するんだッ!!!」


 なんだってここは日本でも有数な芸能人を多く輩出し、モテることと恋愛を教えてくれる恋愛ファーストな学園都市。

 そんなところが、本物の恋愛を体験できないわけがない。


「倍率なんて、クソ喰らえっ!!!!」 

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