第6話ログインボーナス六日目
すっかり冷めてしまったお湯を再び沸かしている間峰と話すことができなかった。
峰がご主人様と呼んでいる存在とは程遠い自分がこのまま峰といていいのか。
いや、このまま一緒という考えは自身の欲でしかない。
どうして峰が現実にいるのか?どうすれば元の世界へと返せるのか考えないと。
電気ケトルがカチッと音を立て湯が沸いたをことを知らせる。
「お湯、沸いたよ」
素っ気なくそういうと峰は着物の袂を押さえながら湯を急須の中へ。
お茶っぱの匂いが鼻をくすぐる。
「どうぞ」と峰が出してくれたお茶を一口。
「おいしい」
それは自然に出た言葉だった。
にこりと峰が笑う。
お茶をちびちび飲み進めながら峰のことを窺い見る。
「ご主人様どうなさいました?先程から顔色がよくないといいますか、ご気分があまりよくはないようですが」
峯にそう言われ湯飲みを両手で持つ。もうそこまで熱くない。
ぐっと残りのお茶を飲み干し峰に聞いた。
「あのさ、峰は俺のこと『ご主人様』て呼んでくれるけど、あの陰陽術に長けた人とは別人なんだよ?俺と峰は赤の他人ていうかさ」
元々口下手なのも相まってうまく言えない。
けれど峯は噛みしめるように聞いてくれた。
「――実のところその身なりや内に秘める気がご主人様とは違うということは感じておりました。けれどなにか胸の奥でこみあげてくるものがあったのも事実。それで少々混乱してしまいましたが。歩様はあの方とは違う、けれどわたくしが認めたご主人様でございます。それに先ほどのわたくしの写し絵に書いてありましたでしょう『一度尽くすと決めた人にはとことん尽くす』と」
峰が笑顔を見せるそれにつられて頬が緩むのを感じた。
いつまでいじいじしてるんだ。峰がそれでいいのならこっちが気にする必要はないじゃないか。そう自分に言い聞かせる。
「峰、ありがとう。それと峰が元の世界へ帰れるまでよろしくね」
「さよう、ですね。今後ともよしなに」
どこか歯切れが悪い言い方をしながら峰が頭を下げた。
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