第5話ログインボーナス五日目

「ご主人様――」

「わかってる。急にそんなこと言われても整理が追い付かないよね。俺だって『あなたはゲームのキャラクターです』なんて言われたら同じ顔するよ」

いえ、そうではなくて。と峰が手を挙げる。

「ゲームのキャラクター、とは一体?」

ああ、そこからか。と頭を掻いた。

画像を閉じ今やってるソシャゲを開く。

――え?嘘だよな?

思わず画面に顔を近づけてしまう。

「どうなされました?」

「あ、いや、なんでもない。とりあえずこれを見て」

ソシャゲ定番の箱庭の画面を峰にみせる。

「これは、鏡の中でモノが動いて」

箱庭の中で押しキャラの一体がこちらに手を振る仕草をする。

峰はそれに対して小さく手を振り返した。

「ご主人様これがゲームのキャラクターなのですか?」

「うん、そう。実際には存在しないデータの存在なんだ」

物思いにふけていた峰はゆっくり瞼を開け言った。

「つまりはわたくしは今まで切り捨ててきた妖と同じこと、ということですね。彼らも実際は火や煙、雨に風など自然の中から生まれた存在でした。今こうしてご主人と話しているわたくしはその鏡から生まれた、と」

峰がまじまじとパソコンの画面をみた。

「――怖い、とか気分が悪いとかそういうのはないの」

「ありません。どんな理由で生まれようとこの刀と共にある以上わたくしはご主人様の為に切るのみ。それだけです」

峰の圧に押される。

いや、違う。もし自分が峰と同じ立場ならそんなこと絶対に言えず頭を抱え込んで吐き散らかして怯えることしかできないだろうから。

だから真っすぐな峰の瞳を見て後ずさりしたんだ。

自分はそっとパソコンを閉じた。

「―峰は強いね」

「ご主人様?」

「ごめん、なんでもない。そうそう、そのご主人様呼び辞めて名前で呼んで欲しい」

改めて自己紹介すると峰は軽く頷いた。

「歩様。お茶にしましょう、気分も落ち着くかと」

歩と名前で呼ばれた瞬間ぞわっとする感覚に襲われた。

立ち上がり居間へと向かおうとする峰を止める。

「やっぱりご主人様呼びでお願い」

柄にもなく頬が熱くなってるのを感じた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る