第3話ログインボーナス三日目

「昨日のことでございますか?」

うーんと峰が視線を上にする。

「いつも通り鍛錬をしご主人様に声をかけてもらうのを待っておりました」

「つまりいつも通り、と」

はい。と峰がまっすぐこちらをみつめる。

ひとまず話し合うことにし居間に移ったのだが状況を説明できるような情報は何も得られなかった。

かくいう自分からもなにもないのだが。

「とりあえずお茶を淹れますね」

「あ、俺が淹れるよ」

「お茶の淹れ方であれば私の方が上手と自負しておりますので」

いや、そうじゃなくて。と言うよりも早く峰が台所に立つ。

「はて、水甕はどちらに?」

やはりこうなった。峯は設定上式神で平安、戦国、江戸と日本の過去を舞台に妖怪と戦ってきたゲームキャラクターなのだ。

にわかに信じがたいが確かに自分の眼前に彼女がいる。

「ギヤマンの湯飲みがこんなにも――」

「峰、ちょっといい?」

そういって峰に電気ケトルを持たせる。

「これは、手持ち式の甕か?中身は空のようだが」

「今から水を入れるんだよ。ここ捻ってみて」

水道の蛇口を指さす。ふっ、と峰が力を込めて捻る。

勢いよく捻ったものだから水がステンレスの上を跳ねて峰を濡らした。

「わぷぅ。何事!やろか水か!」

距離を置き抜刀の構えをとる峰を止める。

「ストップ!待って!止まって!」

蛇口を締め勢いを弱め峰にそういう。

「勢いが弱まった。さすがご主人様、わたくしめはどうも陰陽術は苦手で」

峰の言うご主人はプレイヤーの分身で陰陽道に精通しているという設定なのだがもちろん自分にそんな知識も力もない、ましてや蛇口を締めただけで陰陽術ならこの時代の人すべてが陰陽師だ。

今のは術でも何でもないことを伝え電気ケトルに入れる分量を伝え自分は急須とお茶っぱを探すことに。

確かおばあちゃんが一緒に保管していたはず。

「ご主人様適量かと」

「こっちもあったよ」

居間に戻り電気ケトルのスイッチを入れる。

「今からこの甕が水を湯に変えるのですか?」

「うん、そうなんだけど術とかそういんじゃないからね」

この時代のこと教えていかないと。いや、それよりこの状況が夢や幻ではないことを証明しなければ。

もしかしたら昨日何らかの事故に遭って自分は病室で昨日の子供のこととか全部夢というどこかでみたような状況なのかもしれない。

だがそれを確認しようにもどうすれば――。

電気ケトルがごぼごぼと音を立てはじめ湯気が昇ると「おお」と感嘆の声を上げる。

「そろそろだね」

そう言って新聞紙に包まれて保管されていた急須を峰の前に出す。

「――これは」

「どうかしたの?」

「とても大事にされていたのがわかります。なるほどご主人様のおばあさまはとても才長ける方だったのですね」

そういえば峰は刀の付喪神だったか。大切にされたモノ同士で共鳴しているのだろう。

「ただ――」

「ただ?」

「ご主人様の生まれ故郷は妖たちによって滅び無事なものはなかったと」

峰は訝しみながら急須をみた。

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