第7話
side 灰斗
「これ、知ってたの?」
千里が、疑って聞いてくるが。
銀二の対戦から、二週間が過ぎた、俺と千里はいつも通り、講義を受けて、ダンジョンに行く生活をしているが、銀二が大変なことになっている。
「いや、こんなことになるなんて、な」
(なればいいなーとは、思っていたけどな)
「銀二、可哀そうに」
全て悟ったように、千里が言う。
「見てよこれ、銀二の対戦スケジュール、一か月先まで、びっしり詰まってるよ」
そう言って、端末を見せてきたので、見てみる。
「風荘颯って人、あれでも、ランキング上位だったからな、ぽっと出の、一年生がランキング上位になれば、好機だと誰でも思うさ」
この学園の、下剋上システムの、ヤバいところだ、一日に一度しか、対戦を組めないが、逆に言えば、連日試合を組めてしまうため、疲労による敗北が時折、起こる。
決闘の承諾を保留にも、正当な理由、ケガや、既に他の決闘があるなど、がなければ、保留には、できない。
その対策として、クラブというものがある。
クラブとは、数の力に対抗するものであり、信頼できる人、同士で作る、サークルみたいなものだ。
決闘を受けたくない、休みたい場合などに、仲間内で、決闘の申請をし、当日キャンセルすることで、他の決闘を受けなくてもよくすることだ。
キャンセルの場合、デメリットは特にないが、試合を連続で、10回キャンセルすると、順位が、学園にいる最下位の人と同じになり、全体の順位が繰り上がる。
「灰斗! クラブ作ろうぜ!」
教室に、入ってきた銀二が、言ってきた。
元々、体力には自信がある銀二も、二週間連続で、決闘をすれば、疲れたのだろう。
「銀二、はいこれ」
千里に、渡されたものを見て、銀二は笑顔になる。
「さすがだぜ」
「元々、作ろうとは、思っていたからな」
「あの二人も、知っているのか?」
クラブの立ち上げ手続きに、署名しながら、そう言った。
あの二人とは、信吾と小野里の、ことだ、二人には、すでに署名してもらっている。
「あぁ」
「クラブの名前は?」
銀二が、興味深そうに、聞いてきたので。
俺は、千里を見ると。
「「銀郎の獅子」」
徹夜して考えた、俺たちは、自身満々に、そう言った。
それを聞いた、銀二は、微妙そうな顔をする。
「嫌なのか?」
「……ダサくねーか? それに銀色の狼に、獅子って意味が分かんねーぜ」
そんなことを言ってくる。
銀二が、書き終わった書類を、受け取ると、記載内容に漏れがないので、千里に渡す。
渡された千里が、駆け足で提出に向かったのを、確認してから、答える。
「……銀郎の書き方が違う、銀色の野郎って書いて、銀郎だ」
「ん? 余計に変じゃねーか、なんだ、銀色の野郎って」
そう言って、首を傾げる。
「文字通りさ、な、部長さん」
俺がそういうと、やっと理解が及んだのか。
「……嵌めやがったな、この野郎!」
と、怒っている。
「いや、部長は、ランキング上位者が望ましい、って言われたからな」
(……言われただけで、絶対ではないが)
渋々、納得する、銀二だったが、何かに気づいたのか。
「……元はと言えば、それも、灰斗が原因じゃねーか!」
そうやって、やいのやいのしていると、千里が帰ってきた。
「どうだった?」
「受理されたよ」
「そうか」
その言葉に、さっき記載したものが、受理されてしまったのを、悟った。
「ちくしょうぉー」
そう言って、駆け出した銀二を、見送り。
「帰るか」
「うん、……あ、そういえば、副部長は誰って聞かれたから、灰斗にしといたよ」
千里が、こちらをニマニマしながら、言ってきた。
「まぁー、副部長ならいいか」
そう、軽く返事をしたが。
(……いや、千里が、態々言ってきたということは、何かあるのか?)
灰斗は、へきへきしながら、帰宅にした。
「今日はね、ローストビーフを、作ったんだ」
千里が、笑顔で、そう宣言してくる。
俺は、過去一の危機感に、襲われていた。
(……やばい、何の記念日だ……)
俺は、脳をフル回転させた。
”付き合って、三年ちょっとだから、違うな”、
”バレンタインでは、ないし、クリスマスなどの、他の共通行事でも、ない”、
”誕生日でも、ない”、
(……分からないぞ、何でもないのに、作った可能性もある、か)
机に並んでいる、料理をみると、すごく豪華だった。
(……いや、こんな豪華にするか?)
「……凄く美味しそうだ」
「でしょ?」
「いつも、作ってくれてありがとう」
本心では、あるので、ワンクッションを入れる。
「えへへ、どういたしまして、でも、急に、どうしたの?」
ちょっと、不自然過ぎたのか、千里が、問いかけてきた。
「こんなに、豪華な料理を、目の前にしたら、つい、ね」
少し遠回しに、言ってみると。
「それね、クラブの開設が上手くいったから、嬉しくて、作りすぎちゃったんだよ、えへへ」
聞きたかった答えが、返ってきた。
(……クラブかー! よかった、何か、忘れていたんじゃなくて……)
「そうだな、上手くってよかった、ほんとーによかった」
「うん」
俺は、達成感に打ちひしがれながら、ご馳走を残さず食べ、千里と一緒に寝た。
お腹がきつすぎて、夜中に何度も、起きたが気にしない。
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