第6話


「なんで、俺!?」


 銀二の叫び声が、コロシアムの歓声に、かき消される。


 コロシアムみたいな、その場所では、周囲で大勢の学園生徒が、椅子に座ったり、立ったりしており、その中央では、銀二と、二年生の生徒が、二人きりで対等していた。


「銀二、がんばって~!」


「勝てよー」


「……あっわわ……大丈夫なの?」


「……」と、ソワソワ。


 俺たちは、その他大勢のモブとして、観客席から、応援していた。


 銀二は、今、二年生と決闘をしている。


 下剋上システムを使って、行っており、銀二が挑戦者側だ。


 事の発端は、数時間前である。


 俺たちが、ダンジョンから、帰ってくると、人間が顔だけ、ゴブリンになったかのような顔をした、モンスターが学園の制服を着て、待っていたのだ。


 俺たちが、と言うより、俺が千里と付き合っているのが、気にくわないらしく、別れて、自分と付き合えとか、ほざいていた。


 そもそも、この学園では、男女共同寮で生活しているパートナーには、ちょっかいを、出してはいけないルールがある。


 学園外の話となるが、花園家はなぞのけ華門家かもんけ雅居家いきょけ風荘家ふうそうけ風宅家ふうたくけ文雅家ぶんがけ優邸家いうやしきけ叙情邸家じょじょうやしきけ雅致家がちけ望楼家ぼうろうけの十家が、能力者社会で、大きな権力を持っており、幅を利かせている。


 その馬鹿の家が、風荘家というだけで、自分は特別だと思っているらしい。


 風荘家と風宅家は、同じ風を冠するため、仲が悪い、風宅家と結託して、風荘家を潰してやろうかと、思ったほどだ。


 それで、決闘をする流れになってしまった訳だが、あっちの方がランキング上位のため、こちらから、申請する必要があり、俺ではなく、銀二の端末で、勝手に申請したと、言うわけだ。


 端末は、顔認証と、指紋でロックされているが、この前、隙を見て、解除した後、弄った。


 こういうことが、できる時点で、学園の制度が甘いと言わざる負えない。


 態と見逃しているのかもしれないが。





side 銀二


「……誰だ貴様、今井灰斗はどうした?」


 まじかよ、あいつ、この前の仕返しかー。


 やってくれるぜ。


 睨んでるくる姿とか、ゴブリンそっくりじゃねーかよ。


「あー、灰斗の代わりに、先輩の相手は、俺がするぜ、てか、申請された相手の名前くらい見てねーのかよ」


「.....」


 見てねーのかよ。


『では、これより、一年生、鈴木銀二と、二年生、風荘颯そうふうはやての決闘を行う、なお、負けた方が退学とする』


 敗北条件は、さらに重いものへ、変更することが、可能だが、一度、学園に条件を提出して、申請が通さなければならない。


 しかし、退学などの前例があるものは、その限りではない。


(ゴブリンなのに、名前だけはカッコいいな)


『では、決闘開始!』


 その合図と共に、俺は、相手を視界に捉えながら、手足を獣化させると、視界に捉えていた相手が、消えた。


 次の瞬間、わき腹に衝撃がきて、十メートル程、吹き飛ばされるが、空中で体制を立て直し、着地する。


「おおぉおおお!」


「いけぇえええ!」


(……攻撃は軽い、だが、能力が分からない、面白れぇ)


 思わず、口元が緩んでしまう。


 今度は、顔に衝撃が来て、吹き飛ばされるが、その瞬間に、カウンターを入れる。


(……手ごたえがねぇ、匂いもしねぇ)


 無理な体制でカウンターを入れたことで、衝撃の勢いで転がった後、体制を起こし、さっきまでいたところ見るが、自分の爪で、5本の線が地面に、入っている以外は、何もなかった。


 転がったためか、頬などに、土がついているが、気にしない。 


(……ゴブリンでも、上級生、それも風荘家か、能力の使い方がうまいな、能力すら分かんねーぜ)


 ダメージはない、が、こちらも与えられないのでは、決着がつかない。


 銀二は、笑うと、デタラメに爪の斬撃を飛ばし始めた。


 地面が抉れ、観客席にも、斬撃が飛び、周辺を破壊していく。


 このコロシアムは、結界などがない代わりに、勝手に再生するように作られており、観戦する側も、それ相応の実力が必要になってくる。


 そこは、能力者、個々で、斬撃に対処しているが、一年生や非戦闘能力者は、逃げ惑うか、近くの人に守ってもらっていた。


「ふざけんなぁー」


「こっちまで巻き込むなよぉー」


 周囲が、そういった野次を飛ばす中、音を遮断し、気配に集中している銀二には、届いていなかった。


(やっぱり、手ごたえがねぇー、どこにいやがる?)


 何度も、斬撃を飛ばし、コロシアム全体に斬撃が飛び交い、逃げる場所もないはずだが、当たらない。


「はははははは、無様だな、貴様を倒し、今井灰斗を、引っ張りだしてくれるわ」


「そこか!」


 声がした方へ、斬撃を飛ばす。


(……手応えあり! 戦闘中に声を出してくれて助かったぜ)


「グハァ、何故……」


 見れば、風荘颯が姿を現しており、致命的なダメージを負い、出血している。


「……あー声出しちゃダメだろう?」


(それに、俺の攻撃は、全てを貫通するから、そんな障壁じゃ、止められないぜ)


 銀二の、本気の一撃は、ダンジョンの壁を、完全に破壊できる威力を、持っている。


(それにしても、未だに、能力が分からないぜ)


 誰がどう見ても、致命傷を受けた、風荘颯に近づくと、決着の合図を待つ。


「……まだやるのか?」


 そう問いかけると。


「っくくっくっくくっく」


「……何笑っていやがる?」


「負けたよ、降参だ」


 そう言って、風荘颯は、去っていく。


 貴様には、同情する……――


「……」


(……負け惜しみか?)

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