第5話
「学園のダンジョンは、ゴブリンが出るって聞いたぜ?」
「それは、悲惨だな」
俺は、嫌な想像をしてしまった。
「実際、入学してすぐは何人かは、帰ってこないらしいぜ」
「……僕たちは、……頼もしい二人がいるので、……大丈夫……だよね?」
信吾が、顔を青くしながら、こちらを見て、不安げに言った。
千里は、小野里と話をしているみたいだが、会話できたのか?と、驚いてしまう。
「あぁ」
「俺一人でも、過剰戦力だぜ!」
銀二が、自信満々に言うが、その通りなのが、腹に立つ。
(実際、銀二が一人でも、一階層くらい楽勝だろう)
「銀二、来たぞ」
俺は、目の前の何もない、ところを見て言った。
「風上に立たれれば、嫌でも分かるぜ」
そう言うと、手足を獣のように変化させ、T字路に顔を見せた、ゴブリンに一瞬で近づき、獣の爪で、ダンジョンの壁を抉りながら三体同時に、切り裂く。
後に、残されたのは魔石と呼ばれるもので、ランクが高くなるほど、高価になり、上位ランクの魔石は一億や十億とも、言われる。
銀二の能力は、変化系の中でも、特に珍しい、ライオン種である。
素早く、パワーもあり、幼少期から、訓練したため、スタミナもある。
こちらも、上位能力者は、身体能力系に近いことも、できるようになるため、疑似的マルチ能力者と、呼ばれている。
「……すごい……」
「……」と、コクリ。
初めてみる二人は、驚いているようだ。
「銀二、壁壊したよ?」
「やっべ、力加減ミスったぜ」
「はぁ、隠ぺいはこっちでしておくから、先に行こう」
俺は、壁を元の状態に、戻すとそう言って歩き出した。
俺たちの、会話内容や、今、起きた現象に理解が及ばないのか、信吾と小野里は、無言で背後をついてきた。
何故、理解が及ばないのか、と言うと、ダンジョンの壁はそもそも傷つけることが、できないのが常識であり、ましてや、修復など人類には不可能だからだ。
それを当たり前のように受け入れて、平然としている三人に、言葉も出ないという状況が今の現状だ。
俺たちは、その後、一階層を難なくクリアし、二階層に行く前で、引き返した。
「最後の班か」
そう声を掛けてきたのは、兵頭先生だった。
「あれ? どうしたんですか? 兵頭先生」
名簿らしきものを持っている、兵頭先生に千里が、問いかける。
教師の相手は、基本的に、千里や銀二がする。
俺は、存在感を薄めた。
銀二の背後に、隠れただけだが。
「あぁ、初日は生徒が、未帰還になりやすいからな、毎年、班長を聞いて回るのと、同時に生存確認をしているんだ」
「いい考えっすね」
「君たちの班は誰が班長だ?」
俺は、銀二を小突く。
驚いた表情をするが、すぐに、納得の表情になったのを見て、俺は、安堵する。
(こういうのは、得意そうな銀二にでも、任せとけばいい)
「灰斗っす」
銀二が放った言葉理解できず、唖然とするが、話はそのまま進んでいき、俺が班長として、認識されてしまった。
「じゃ、気を付けて帰るように」
そう言って、兵頭先生を見送ると、俺は。
「くたばれクソやろー!」
と、銀二をぶん殴った。
後に残ったのは、身体能力で負けて、拳を痛めた俺と、爆笑している、銀二であった。
俺たちは、ダンジョンの傍にある、換金所で魔石を、お金に換えて、五人で分け合った。
ゴブリンの魔石が一つで一〇〇円なので、一〇〇個で一万円となる。
一階層では、一人2千円だが、もっと奥へ行けば、もっと稼げるというわけだ。
その金で、打ち上げをし、今日は帰宅した。
「「ただいま」」
部屋着に着替えて、ソファーに座ると、千里が、脚の間に座ってきた。
千里はよく、このポジションが好きで、座ってくるが、個人的には止めてほしい。
「良かったの?」
背中を、俺にあずけて来たので、顎を頭に乗せた直後に、聞いてきた。
「何が?」
「力を見せて」
本来は、見せない方が身の安全のためだが、今後を考えると、しょうがない。
「今後、一緒にいるなら、ある程度、見せないと、不自然になる、それに、ダンジョン科に来させたのは、千里だろ?」
そう、ジト目を向ければ。
「だってー」
と、少し拗ねた表情になる。
千里の表情が、コロコロ変わるのが、本当にかわいくて仕方ない。
「何とかするさ」
(何があっても、千里だけは守るさ、たとえ、世界中が敵になったとしてもな)
「ありがとう」
太陽のような笑顔を向けられ。
(この笑顔は、なくさないさ)
「目は?」
信吾の目だろう、神の目と呼ばれるものに近いが、本物ではないため、問題ないと思われる。
神の目とは、伝説では、全てを見通すと、いわれている目のことである。
アメリカに、その保持者がいると、言われており、存在が隠ぺいされているため、真実は不明。
だが、信吾の目は、本物ではなかった。
「大丈夫、あれなら分からないよ」
「灰斗がそう言うなら、分かった」
「いつも、ありがとうな千里」
「えへへー、彼女ですから」
「ほんとに、俺には、勿体ない彼女だよ、悪態さえやめてくれれば、な」
俺は、千里のお腹に、手を回して、抱きしめる。
「それは、無理」
「はぁ、それを受け止めるのも、彼氏の役目、ということにしておこう」
「いつもありがとうね♪」
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