第3話


「ねぇ、機嫌を直して!」


 そう言ってくるのは、千里。


 俺は、ため息をつく。


「……もういいよ」


「ほんと? 今回は本当に申し訳なく、思ってるよ」


「...今回は...か」


 そう、ジト目を向ければ。


「いやいや、いつも!」


 慌てて、否定した。


「どうせ、普通科に行きたいって気持ちは俺のわがままだったし、もういいよ」


「えへへー」


 かわいい。


「もう、するなよ」


「うん!」


 と、元気よく言った千里が再度しなかった試しがない。


「はぁ」


「ため息は、幸せが逃げちゃうよ?」


「こいつ、誰のせいだと、思ってる」


 おでこを小突く。


「いったーい」


 こちらを睨むが可愛いだけだ。


 急に上目遣いになると、


「でも、一緒に通えて嬉しいのはホントだよ♪」


 ほんとにこいつ、ずるいわ。


 こんな簡単に、許しちゃう俺も悪いのだが。


 ちょっとした仕返しで、早足で目的地に向かうことにするが。


「あ、待ってよー」


 と、すぐに追いつく千里を確認すると、俺が無駄に疲れるだけなので、早足を止める。


 この世界で、突如覚醒した能力者は、その能力に問わず、身体能力が飛躍的に上昇する。


 最下位のGランクですら、一般的にアスリートと呼ばれる人達の、5倍の身体能力を持っている。


 ましてや、Sランクの覚醒者は、Aランクが複数人いたとしても、足元に及ばないと聞く。


(能力者の身体能力ってずるいわ)


 千里の能力は、念動力といい、物質干渉系だ。


 能力には、精神干渉系、物質干渉系、放出系、身体系、変化系、創造系の6つの能力に分かれている。


 念動力は、そこまで珍しくないが、Sランクの念動力保持者ともなれば、精神干渉系に近いことも、できるようになり、疑似的マルチ能力者とも、呼ばれている。


 Sランクの身体能力を合わせたら、疑似的トリプル能力者だな。


(ここがそうか?)


 目の前に、レンガ作りの大きな門があり、 と書かれていた。


 俺たち以外にも、同じ制服を着た学生がいる。


 俺は今、中学を卒業式を経て、今日は高校の入学式のため、その高校に来ていた。


 この高校は、全寮制で、オープンキャンパスや学校説明会などを、行っておらず、外部の人が中の様子を見るのが難しいため、実際の在校生や卒業生に、話を聞くしか情報を得られない。


 しかし、何故もう、高校生の入学式になっているのか、と言うと、山よりも高く海よりも深い理由がある。


 俺が入学式まで、家で引きこもっていたからだ。以上。


 詳しく言うと、普通科に行けなったショックから、現実逃避していた。


 さすがに、高校の入学式を行かないのはまずいと思い、今に至る。


「千里、行くか」


「うん」






 入学式が終わり、校長の長くて、ありがたみもない会話を聞いて、寮に向かう。


 生徒会長は、綺麗で、強そうな人だった。


「……灰斗?」


 千里が、こちらを、ジト目で見てくる。


 能力者に覚醒してから、女性の勘が鋭くなった気がする。


「……何でもないよ」


 そう言って、笑いながら、誤魔化す。


 この学園は寮に入る時に、三つ選択でき、男性寮、女性寮、男女共同寮の三つである。


 男女共同寮だけは、選択できる二つの条件がある。

 

 ”パートナーがいること”、


 ”どちらかがBランク以上であること”、である。


 それらを合わせて、男女が合意の元、二人部屋を選択すれば、初めて入寮できる仕組みだ。


 このような部屋ができた理由だが、第一次臨海体制にて、能力者に覚醒できなかった人達が、大勢亡くなったことによる人口不足。


 それと、能力者同士では能力者が生まれやすいという事情からだ。


 当然、俺はこれを選択し、二人部屋を獲得している。


 寮に着くと、二人部屋に案内され、二人で一息つく。

 

「今日は荷物の片づけして、明日からの授業に備えるか」


「今週のどこかで寮の探索はしたい」


「荷物片付けなきゃだから、明日以降な」


「うん!」


 無邪気に笑う千聖を、見てると、俺の心まで癒される気がする。






「私は、これから三年間、このGクラスを担当する兵藤萌ひょうどうもえだ」


 そう自己紹介をしてきたのは、スーツを着こなし、厳しめに見える茶髪の女性だった。


「まずは、入学おめでとう、晴れて君たちは、能力者としての大きな一歩を踏み出した」


 と、兵頭ひょうどう先生の拍手が、教室に鳴り響く。


 皆、兵頭先生の雰囲気に呑まれるのか、声を上げない。


「早速だが、今朝、配られた端末を見てくれ」


「そこに、入学時のランキングが乗っている、今後は、そのランキングを上げることに、務めて貰いながら、学生の本文である、勉学にも励んでもらう」


 端末を取りだすと、と、書かれていた。


 とんだ、マンモス校に来てしまったらしい。


 チラッと周囲を見ると、このGクラスには四〇人しかおらず、クラスがどれだけ、あるかによるが、三十万人以上もいるとは、思えない。


 と、思考していたが、次の言葉で解消した。


「その端末にある、ランキングだが、全国の学生が対象となっており、評価基準には、他校との交流戦などが入ってくる」


(……全国となると、むしろ少なく感じてしまうな)


「先生! 入学したばかりの私たちは、必然的に低くなりませんか?」


 と、場の雰囲気に慣れたのか、女子生徒が質問する。


「その通りだ、君たちは最下位から、始まるため、のし上がらなければならない」


 その言葉に、質問をした生徒が、苦い顔をする。


(この制度だと、上に上がるまでに、卒業を迎えてしまうな、だが……)


「しかし、手っ取り早く、上に行く方法がないわけではない、それをこれから説明しよう」


「この学校には、下剋上システムが存在し、ランキング下位の者がランキング上位の者に決闘を申し込み、決闘で倒した場合、ランキングが上下するシステムだ、上の者は基本的に断ることが出来ないため、下の者にとっては、逆転のチャンスでもある」


「ただし、負けたランキング下位の者は、その日一日は、勝ったランキング上位の者にデメリットもあるため、挑むときは慎重にするように」


「それと、他校との対抗戦が一年に一回あり、出場したランキング下位の者が、相手に勝てばランキング上位の者と上下することが可能である、これは全学年でそれぞれの代表選手を、めることになるため、選手に選ばれて初めて可能となる、以上となるが、他に質問があるやつはいるか?」


 と、兵頭先生が、この学校の仕組みを教えてくれた。


(……実質的には、下剋上システムの一つしか方法がないな)


 質問した女性が、顔を歪めているのが、いい証拠だ。


 兵頭先生は、周囲を見渡し、これ以上、質問がないことを確認すると。


「早速だが、今後の活動することになる五人グループを、各自で作ってほしい、今後は何をするにも、そのグループで活動してもらうため、端末情報などを活用し、慎重に行ってくれたまえ」


「あ、男女共同寮に入寮している生徒は、必ず同じ班になるように、そのためなら、少し人数に、バラつきが出ても構わん」


 兵頭先生は、最後にそう言うと、腕を組み椅子に座って、目を瞑った。

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