第2話


「あー今日も疲れたな」


 俺、今井灰斗いまいはいとは、背筋を伸ばし、帰宅する準備をする。


「灰斗! 帰るの?」


 そう声を掛けてきたのは、上桐千里かみぎりちさとである。


「おう! 千里も?」


「うん! 一緒に帰ろ」


 特に予定はなかったので、承諾した。


「いいよ」


 楽しく会話をし、下駄箱まで向かうと、靴に履き替え、駅に向かう。


 目的地は、お互い一緒なため、向かう方向も一緒だ。


「来年から高校生だね、灰斗は、このまま普通科に行くの?」


 そう、不満そうな顔で聞いてくる。


 俺らが、行く高校は、普通科、ダンジョン科も、魔具技術科、と分類が分かれており、校舎も分かれている。


 俺が普通科で、千里がダンジョン科だ。それにもう、受験済みで、変更が効かないのは知っているだろうに。


「おう、ダンジョン科も、魔具技術科も、俺には合わないしな」


「また、そう言う」


 頬を膨らませているが、かわいいだけなので、突く。


「ぷしゅっ……もう」


「それより、今日の夕飯、冷蔵庫に材料なかったぞ?」


 あからさまに、話を逸らしたのが、分かったのか、少し不機嫌になる。


「……悪かった、何でも一つ言うことを聞くから」


 俺がそういうと、にぱっと笑顔を浮かべて、不機嫌さがなくなる。


 全く、かわいいから、つい許しちゃうんだよな。


「今日はね、灰斗の好きな唐揚げを、作るからお肉を買って帰ろう」


「仰せの通りに」


 二人は駅に着き、電車で最寄りまで行った後、スーパーに寄ってから、帰るのだった。






「ただいま~」


「ただいま」


 二人の家に帰ってきた。


 もう、察している人がいると思うが、俺らは同棲をしている。


 お互い、親はいるのだが、付き合ってから、相性がよかったのか、中学に入学したのをきっかけに、同棲を始めたら、上手くいったのだ。


 それぞれの親は、自分たちで説得したため、千里がどう説得したか、知らない。


 俺の親は放任主義だったので、楽だった。


 今では同棲三年目になる。


「料理しちゃうね」


「お願いしまーす」


 料理は週代わりにしており、今週は千里の当番だ。


 暫くゲームをしていると、料理が出来たのか、いい匂いがしてきた。


「へい、お待ち!」


 そう言って、これでもか、と山盛りの唐揚げが出てきた。


「おぉ~、いつもながら美味しそう」


「今日は力作だからね」


 千里は嬉しそうに、こちらをニマニマしながら、見てきた。


「うわぁ、怪しい」


 そういって、顔を観察するが、顔芸が得意な千里には勝てない。


「まぁまぁ、食べて食べて」


「いただきまーす」


 企みを見抜くのは、諦めて、唐揚げを口に入れて噛むと、少し熱かったが、口いっぱいに肉汁が広がった。


「美味しい!」


「でしょ~」


 その後、二人で料理を食べ、片付けると、一緒にお風呂に入った。


「ゲームする?」


 ここは重要だ。


 間違えた選択をすれば、途端に楽しくなくなる。


 俺は、全集中を行い、千里の一挙手一投足を観察する。


「そうだね、レースゲームなんて、どう?」


 そう言った時、目を光らせたのを見逃さなかった。


「うん! しよう」


 正解を選んで、俺は安堵した。


 その後、寝る時間までゲームをすると、一緒の寝室に向かい、寝た。


 寝る前に、運動したかは、ご想像にお任せするよ。

 





「今日は、合格が発表される日だね」


 朝から元気な千里が、確認してくる。


「そうだな、学力の面では、二人とも心配ないだろ」


「そうだね」


 俺たちは、二人とも学年一桁なので、受験は余裕である。


 ちなみに推薦で行っていない理由は、行こうとしている学校が、推薦受験を行っていないからだ。


 代わりに、スカウト受験というものがあり、担任や理事長が、直接スカウトするらしい。


「俺は、普通科だし、学力的には二段階くらい下だからな」


「ふふふ、そうだね」


 千里がこういった笑い方をしている時は、大抵ろくな事じゃない。


「なんか、昨日から怪しいんだよな」


「サプライズは、後で取っておかなきゃ」


「何かあるのは確定ですか」


 俺は、ため息をついて、学校に向かった。




「おはよう~」


「おはよう」


 2人が挨拶すると、”夫婦が揃ってご登場”や”きゃー”、などの発言が、教室中に飛び交っている。


「はい! 恒例行事終わり」


 そう言ったのは、クラスの委員長である。


 こういった野次は、たまに行われており、その都度、委員長が指揮を執っていた。


「今日、合格発表だっけ?」


 こいつは、鈴木銀二すずきぎんじ、俺の友達だ。


「おう、一二時からだ」


「灰斗は、余裕そうだな」


 そう、銀二が言ってくるが。


「ちょっと、懸念があるけどさ」


 そう言って、不安な原因を見る。


「ふふふ」


 千里がほほ笑むのを見て、銀二も被害者のため、気づく。


「おっと? これは?」


「やっぱり、なんかやらかしてるよな」


「一〇〇パーセントやってる」


 と、銀二は断言する。





「キーンコーンカーンコーン」


 12時になったので、お昼に行く。


 この学校は給食がなく、購買や、お弁当を食べるように、なっている。


 周辺の机をくっつけて、俺、千里、銀二、委員長でご飯を食べる。


「合否の確認しようよ」


「ああ」


 千里のスマホで合否発表がある掲示板にログインし、二人で見る。


 まずは、千里から見ていく。


「……一〇〇〇四五八…………一〇〇〇四五八……あった!」


「おぉぉぉ!」と、銀二が。


「おめでとう!」と、委員長が。


「よかったな!」と、俺。


「うん! みんなありがとう、次は灰斗だね」


「あぁ」


 と、言い掲示板を見ながら、番号を探す。


「……おい……千里……俺の番号……一〇〇〇五八三なんだが?」


「ん? そうだね」





「この普通科に、書かれてる番号は、全部から始まっていて、から始まる数字がないぞ?」





「ん? あったよ、灰斗、二人ともに合格だ」


(まじか、人の人生、左右する選択を捻じ曲げたぞ、こいつ!!!)


「……え……おい……さすがに冗談だよな……?」


「高校に行っても、また一緒に頑張ろうね!」


 そう言って、千里は、満面の笑みを浮かべる。


 後ろで、銀二が大爆笑をしているが、俺は目の前が真っ暗になり、気を失った。


「灰斗ー!」

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