第17話 ずっと一緒に(終話)

「「きゃあああ」」


私は宿屋で思わず叫んでしまった。

これ夢ゆめだよね?

朝、起きたら体が縮んでいて・・この見覚えのある感覚は間違いない。

また猫になっちゃった??


私はこっそり宿屋を抜け出して、フィルの家へと向かった。

私いったいどうしちゃったの??



****



「フィル~起きて!大変なの!!」


ん?何故か聞き覚えのある声がする。

でも確か、レイシアは昨日宿屋に泊まったはずだけど。

にゃ~ん

頬に柔らかい感触がする。

猫?

ゴロゴロと聞き覚えのある音。


僕は一気に目が覚めた。


「レ、レイシア?」


僕の布団の上に、灰色の猫になったレイシアがちょこんと座っていた。


「ふえええん・・やっと起きた・・くすんくすん」


「え?魔法解けたんじゃないのか?」


「わかんないから、ここにきたんじゃないの・・ふええん」


レイシアは泣いてばかりだった。



****



僕とレイシアは、深淵の森のゼリューヌの所へ来ていた。


「魔法が解けたんじゃなかったんですか?」


僕はゼリューヌに問い詰める。

ゼリューヌは驚いた様子もない。

最初から分かっていたようだった。


「・・長い期間変身していたというのもあるが、おそらく本人の意志が影響したんじゃないかのう・・まぁそのうち戻ると思うが・・」


ゼリューヌは目を細めて


「何事も素直になるのが一番じゃよ。のう、レイシア?」


『好き、レイシア』


僕の肩にいた、スラリンが喋った。


「わ、分かったわよ。私、フィルの事が好きみたいなの・・猫なら自然に触れあえるし、くっついても違和感ないでしょ?昨日、猫だったら一緒にいられたのにって思っちゃって・・」


「本当に?」


「好きよ。大好きなんだから」


僕はレイシアの頭を撫でた。

気持ちよさそうに目をつむるレイシア。


「僕も・・好き・・」


「知ってたわ」


僕は猫のレイシアの口にキスをした。

触っていた毛並みがみるみる変化し、人間の皮膚に変わっていく。

小さかった猫は大人の女性の体に変化していった。


「あ、あれ?元に戻った・・」


レイシアは自分の手を見ている。


「意外と早かったのう」


「良かったわ!戻れないと思っていたの!」


レイシアは生まれた姿のまま、僕を抱きしめていた。

すごく良いにおいがして、やわらかくて・・このまま死んでもいいかもしれない。

僕は凄く幸せな気持ちになって、気が遠くなっていった。



****



「目が覚めた?」


僕は自分のベッドの上で寝ていたようだった。

気絶して、中々目を覚まさないので家に連れ帰ったみたいだ。

体を起こして、辺りを見回す。

日はとっぷりと暮れていて、夜になっていたようだった。


「起きて直ぐ、申し訳ないんだけどお願いがあるの・・猫になっても、そのままでもずっと一緒にいても良い?」


レイシアにぎゅっと抱きつかれる。

顔が一気に熱くなった。


「ずっと一緒に?」


「うん。ここで一緒に暮らすの」



****



「フィルおっはよ~」


バン!と勢いよくドアが開かれた。


「リナ、壊れるから・・静かにしろってあれほど・・」


「そうですよリナさん。壊れたら弁償しないとですからね」


この家は賃貸なので自分で直さないといけない。

家は狭くて一部屋なんだけども。

そろそろ引っ越しをしようかと検討をしている。


「なんで・・レイシアさんが朝からいる?」


「私ずーっとフィルと一緒に住むことにしましたので」


朝から、リナとレイシアの目から火花が散っている気がする。

睨みあっていて怖い。


「まあ、まあ二人とも朝ごはん食べようよ?」


喧嘩はしないで欲しい。

僕がなだめようとするが、全く聞かない感じだ。

僕はレイシアと一緒に暮らせれば十分なんだけど。


僕は一人椅子に座り、パンにバターを塗って口に運ぶ。

二人を眺めながら、朝食をとっていた。

コーヒーをすする。

まあ、いっか。


今日もスラリンがぷるぷると震えていた。


『スラリンも食べる~』


パンのかけらをスラリンに渡すと、スラリンは器用に呑み込んでいく。

見ているだけで面白い。


今日もゆったりと時間が過ぎていく。






☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆



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僕は猫と一緒に暮らしたい 月城 夕実 @neko6

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