第16話 猫の気持ち

レイシアが戻ってきた。

今の僕はそれで十分だった。


ガシャン!


今何かすごい音しなかった?

慌てて、台所へ行くとレイシアがおろおろしていた。


「ご、ごめんなさい。お皿割っちゃって・・後で買ってくるから」


素手で片付けようとするので、レイシアさんの手を止めた。


「ホウキ持ってくるから待ってて。触っちゃだめだよ」


手を怪我したら大変だ。

部屋の隅に立てかけてあったホウキを僕は持ってくる。

皿のかけらを、ホウキでちり取りに入れてゴミ箱へ捨てる。


はぁ~


レイシアがため息をついていた。


「僕で良ければ、何か悩みがあるのなら聞くけど?」


「ううん。大丈夫だから・・」



****



ぼーっとしちゃってだめね。

本人からはっきり言われたわけでもないのに、意識してしまう。

前々から私はフィルの事を好意的に思っていた。

だからといって、物を壊すのは駄目よね。


「お買い物行ってくるわ」


私はフィルにひとこと告げて、町に出かけた。


「同じお皿売ってるかな?」


まず食器を売っているお店を探さないと。

あんまりお店詳しくないんだよね。

最近まで猫だったし。


歩いていると威勢のいい声が聞こえてきた。


「野菜どうだい?お安くしとくよ~」


「キレイなお姉さん、都会で流行っている服見てかない?」


わいわい活気があって、見ているだけで楽しくなってきた。

シンプルな白いお皿。

何処にでもあるデザインだったけど、どうせなら良いものが良いな。

露店でも陶器を扱っているお店があった。

可愛い猫の置物も売っている。

ついつい私は目がいってしまった。



****



夕方になり、レイシアが戻ってきた。


「お皿買って来たけど、これで良かったかしら?」


テーブルに白いお皿を重ねていた。

余分に3枚買ってきたらしい。

「しまっておいてね」と言われる。


「そういえば、今日何処に泊まるの?」


「ああ・・失念してたわ・・。もう猫じゃないんだものね」


どうやら、僕の家に泊まるつもりだったらしい。

ベッドが一個しか無いし、狭いので二人は寝られないよ。


「・・適当に探して泊まるわ。少しお金もあるし、じゃあまたね。おやすみなさい」


「おやすみなさい」


僕はレイシアに手を振った。

不思議な気分だ。



****



何だかもやもやする。

私せっかく姿が戻ったのに、さっきは猫だったら良かったのになんて思っていた。

変なの。

フィルに気兼ねなくくっついたり、すりすりしたりしたくなっている。

猫化ってやばすぎでしょ。

恋人同士なら、違和感がない様な気がするけれど。


きっとテイマーの能力のせいに違いない。

私は自分にそう言い聞かせた。













  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る