第12話 忘れない
僕は交渉に失敗してしまった。
レイシアに何て言おう。
「フィルは頑張ったよ。ほ、ほら、野性の宝玉の実があるかもしれないじゃん?」
リナは僕を一生懸命に励ましてくれている。
落ち込んでいても仕方ないな。
戻ったら、ゼリューヌに何とかお願いしてみようと思っていたのだけど。
****
「戻りま・・?」
僕がドアを開けたら、急に女の人に抱き着かれた。
「ごめん、ごめんねえ・・もういいから・・」
女の人は僕に謝っているみたいだ。
あれ?もしかして・・・。
「もしかして、レイシア?」
**
ゼリューヌさんの家で僕たちは椅子に座っていた。
目の前には元猫のレイシアが座っている。
銀色の長い髪、表情豊かな瞳は空色で右手に大きな杖を持っている。
可愛いというよりは美しく20代くらいだろうか。
猫と姿が似ても似つかないけど、雰囲気が同じだった。
「ゼニューヌさんにお願いして、元に戻してもらったのよ。ごめんね、村まで行ってくれたのに・・」
「フィル?」
リナが僕に声をかけた。
ぽんぽんと頭を叩く。
「駄目だこいつ、聞いてないよ・・レイシアさんに驚き過ぎてんのかな・・」
「にゃ~ん?」
レイシアも僕をコツンと軽く叩いた。
手を猫の手にして、叩く。
何を思ったか、僕の顔を舐め始めた。
「れ、レイシア?」
僕は意識が戻った。
あ、あれぼーっとしていたみたいだ。
「猫いなくなったから寂しくなった?元に戻してもらおうか?」
「・・びっくりしたぁ・・レイシアさん急にフィル舐めるんだもん」
「あは、つい、猫の時の癖で・・」
僕、レイシアに舐められてた?
胸がドキドキして、可愛いって思ってしまう。
年上に向かって、可愛いとか失礼だろうか。
****
僕らはグレイス町に戻って来ていた。
このままずっと一緒にいると思っていた。
猫の姿ならともかく、もうレイシアは一人の女性なのだ。
リナは家に先に戻っていて、今はレイシアと二人きりだ。
「ここ、眺めがいいわね。こんな所知らなかったわ。連れてきてもらって、ありがとうねフィル」
小高い丘の上。
レイシアは右手に杖を携えていた。
銀色の長い髪が風で揺れている。
いつも隣にいた灰色の猫はもういない。
彼女はやっと故郷に帰れるのだ。
僕は顔を無理やり笑顔にしてみた。
引きつった顔から、雫がこぼれ落ちていた。
泣いてはいけない。
そう解かってはいるのに・・。
「どうしたの?何で泣いているの?」
彼女は不思議そうに僕の顔を覗き込んだ。
「私ねフィルに会えて良かった。会えなかったらずっと猫のままだったかもだもんね」
レイシアはぎゅっと僕の体を抱きしめた。
「明日、村へ戻るわ。あなたの事はずっと忘れないわ」
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