第11話 交渉

「まぁ、座りなさいな」


僕たちは椅子を勧められた。


「猫とスライムと人間二人とは面白いのう」


カッカッカッと笑う、ゼリューヌ。


「まぁ、知っておったがの。わしは未来が見える目を持っておるからの。ちょっと待っておれ」


ゼリューヌは奥の部屋へ行き、右手に年季の入った手鏡を持ってきた。


「これは真実の鏡ってアイテムだ。この鏡でただ、戻すのもいいが・・。それじゃつまらんので、わしの好きな宝玉の実を取ってくれば戻してやるとしよう」


つまらないって・・戻してくれるのなら良いけど。


「噂では聞いたことあるけど・・宝玉の実ってどこにあるんだろ」


宝玉の実は、とても甘くて美味しい果実だそうだ。

実物を見たことが無いので、本当に存在するものなんだろうか?


「・・知ってるわ」


「「え?」」


「マノリ村の隠れた農産品なの」


レイシアが顔をしかめて言った。

隠れた農産品というのも変な話だが、密かに栽培しているらしい。

王家に献上する品物なのだ。


「でも、村に戻りたくない・・」


レイシアは下を向いた。


「僕らで何とかするよ!ねぇリナ?」


「え、ええそうね」


僕とリナとスライムはゼリューヌさんの家を出た。

レイシアは、ゼリューヌさんの家にとどまってもらう事にしてもらった。

一緒に行くと言っていたけど、辛そうだったからな。



****



「頼んで良かったのかしら・・」


私の事なのに、私は何もできない。

フィルに、そこまでしてもらわなくても良かったのではないか?

申し訳ない気持ちで一杯になる。


「どれ、ちょっと様子を見てみようとするかね」


ゼリューヌは部屋に置かれていた、丸く大きい水晶に手をかざす。

すると、フィルたちが見えてきた。

マノリ村は、深淵の森から半日くらいの距離にある。



**



「やっと村に着いたようじゃの」


日も落ちかけた夕刻。

辺りは薄暗くなっていた

マノリ村に到着して、フィルとリナが会話している。

村長に会って、直接交渉するつもりらしい。


見覚えのある顔が見えた。

茶色い髪のラズベル、私を猫にしたあの女だ。

隣には銀髪のアーロンがいた。


私がいなくなった後、ラズベルに彼を取られてしまったのかもしれない。

1年も行方不明じゃ、仕方ないよね。


村長と話をしているが、がっくりうなだれているフィルたち。

交渉は失敗したようだ。


「交渉は失敗したみたいだの、やはり大金か、よっぽどのコネが無い限り難しそうじゃ。まあ、一旦ここに戻ってくるじゃろ」



自分の事は自分でしないといけない。

私は覚悟を決めた。

フィルに、これ以上迷惑かけるわけにはいかない。


「お願いします。何でもするので、私を元に戻してください」


私はゼリューヌさんに頭を下げた。


「・・そうきたか。じゃあ、代わりに・・」


私はゼリューヌさんの要求を受け入れて、人間に戻してもらうことにした。

手鏡には、人間の頃の姿が映っている。


『鏡よ真実の姿に戻せ』


ゼリューヌさんが声をかけると、猫の姿が徐々に変わっていった。

光に包まれて、気が付くと生まれたままの姿に変わっていた。


「あんたは、村に帰らないほうがいいかもしれんの。あの女がまだいるんじゃろ?また何かされるかもわからんし」


私はアイテムボックスから、服を取り出して着替えていた。

久しぶりに服にそでを通す、変な感じ。


「・・・やられっぱなしじゃ、悔しいですね。ご忠告有難うございます」

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