第10話 深淵の森2

ブラックベアが目を覚ました。

ゆっくりと体を起こしている。

かなり体が大きくて・・とてもじゃないけど、太刀打ちできそうもない。

なってほしくないって思っていると、そうなってしまうのは何故だろう。


「い、急いでにげ・・」


僕の声は震えていた。

ブラックベアに目が釘付けになっている。

生きた心地がしない。


「大丈夫よ、落ち着いて」


レイシアは僕をさとした。


幻影魔法ホログラム


薄い膜が僕たちの体を覆った。


「これで、ブラックベアはこちら側を認識できなくなったわ。静かに、ゆっくり進みましょう」


ブラックベアはきょろきょろしているが、見つかった様子ではない。

匂いはあるのに、見えないから戸惑っているのだろうか。

音を殺して、ゆっくりと歩く。

僕らはひやひやしながら、その場を離れて行った。


**


森の開けた場所で休憩を取る。

ちょうど切り株があって、座れるようになっていた。

僕は革、袋に入れた水を飲んでいた。

リナも水分を取っていた。


「あと、どれくらいかかる?」


「わからないわね。私も初めてきたところだし」


僕はレイシアの前にお皿を置いて水をそそいだ。

舐めて、水を飲んでいる。


「緊張しながら、逃げるの嫌だ~」


リナがもう根を上げていた。


「だから言ったのに」


「だって、こんなに大変だとは思わなかったんだもん」


リナは今にも泣きそうだ。

今更引き返せるところじゃないし、最後まで付き合ってもらおう。


それからも、しばらく僕たちは移動を続けた。

霧がある以外は至って普通の森だ。

スラリンに案内してもらいながら・・なんとか無事に向かっているような気がする。

うっすらと前方に何かが見えてきた。


「小屋だわ」


リナが前方を指さした。

小さい石造りの小屋。

煙突から煙が上がっていた。


「目的地はあれかな?」


「多分・・」


目の前の建物のドアが開いた。


「おや、珍しいお客さんとは・・」


歳をとった白髪の老婆が小屋から出てきた。

よく見ると白い角が頭頂部に生えていて耳も長い。


「「魔族?」」


「こんなところに人間が住めると思うかい?」


まさか、会いたがっていた人が魔族だなんて。

僕は目を見開いていた。


「言葉も無いみたいだね。悪いようにはしないから家に入りな」


小屋の中は普通だった。

人間の家とまるで変わらないようだ。


「わしゃ、魔族だが引退した身だからね。わしはゼリューヌだ。何もしやしないさ。用があって来たんだろ?」


「はい」


レイシアが頭を下げる。

小屋の中はとても暖かく、暖炉の火がついていた。

外とはまるで別世界の様だった。


「外の霧は特殊でね、長い間だと人間には酷だろうよ。体力も奪っていくしね。早めに小屋に入れて良かったのう。死にたくは無かろう」


外の霧は思っていたより危険な物だったようだ。

ぞっと背筋が凍る。


「そのスライムに導かれたのかい。運が良かったようだの」


僕の肩で、スラリンがぷるぷる震えて答えた。


『案内した。人間死んでしまうから』


スラリンは、僕が思っている以上に色々考えているらしかった。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る