『鹿の王』(角川文庫) 上橋 菜穂子【★★】

<1>

静かでたおやかなシンとした物語。

飛鹿と人の生きるリアルな姿、そして、黒狼熱の恐怖……ファンタジーと言えばファンタジーだけど、この世界のどこかにこんな国があってこんな出来事がある、と言われても違和感のないファンタジーだ。

この作者の得意とする民族文化、人の生活する姿をリアルに描き出す巧みさは変わらず見事だが、正直エンターテイメントとして面白いかどうかというと、個人的にはうーん……。

本屋大賞って、読書幅の広い書店員が選ぶのだから、一般受けというよりはマニアックなんじゃないかな。

嫌いではないけど、獣の奏者の方が好き。


<2>

物語が動き始めて、一巻より面白くなってきた。

病との闘い、がテーマなんですね。

こういうファンタジーは、他に類を見ないのでは。

ホッサルの口調がたまに変わるので、キャラが掴みにくい。

サエが生きててくれて良かった。

これからどう二つの話が繋がっていくのか楽しみだ。


<3>

面白い。

ただ、アカファ王、東乎瑠帝国の皇帝『那多瑠』、東乎瑠帝国アカファ領主『王幡候』、オタワル王国、火馬の民、沼地の民、トガ山地の民……などなど、多種多様な立場の人たちが入り乱れるので、何がどうなってるのかわかりにくい。

だれが敵でだれが味方か、善悪がはっきりしないのは、この作者のいい特徴でもあるが。

黒狼熱も、誰に効いて誰に効かないとか、薬の効く効かないの違い、毒を食べた犬の違いなどの説明は、似たような違いでいまいち整理できず。

これからはっきりするのだろうけど。

ユナは、おちゃんと会えて一安心。

続きが気になる。


<4>

難しい本だなぁと思います。

病をファンタジー世界の言葉で表現することもそうだけど、生と死、自然の大きな摂理のようなものを描こうとしているから、余計難しく、深い物語になっているんだなあと。

ちょっと話が長すぎる感はしますが、最後の終わり方は、とても印象的で味があり、素敵でした。

タイトルの意味にも重みがあり、これだけのものを書き上げる作者の力量に脱帽。

さすがだなあ。

本棚の一角に大切にとっておきたくなる物語でした。

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