第12話nocturne/舞

「ちゃんとピルは飲んだわね?」


と言う女の声がした


その言葉に


「はい」


と切ない声で答える少女の声がした

 

今そこはアメジスト色の照明が点り

全てを紫色に染め上げていた


ここは

狭い部屋だった


その紫色の部屋の中には椅子に座る少女と

蠢く女の姿があった


その女は紫色の中でも赤と解る派手なドレスを着ていた


その女の名は 文月羽衣 睦月愛の妹であり

文月紗理奈の母親でもあった


羽衣は目の前の椅子に座る少女に


「そう、ちゃんと準備出来たのね。お利口さん」


と機嫌良くそう言うと、その少女の肩をポンと軽く叩いた


それに少女はか細い声で


「はい」


とだけ答えた


椅子に座る少女は

舞だった


紫色に染まる舞は


黒いゴシック調のドレスを身に纏っていた

その首には黒い布製のチョーカーを

そしてそのチョーカーからは

ドレスから露出した胸元に向かって、金縁で彩られたイミテーションのアメジスト宝石が妖しく輝いている


そして頭には長髪で青色のウィッグを被り

その左右はやはり黒い色のリボンで纏められ可愛らしいく結ばれたツインテールの髪をその腰の辺り迄、降ろされ伸びている


そして脚にはガーダーで止められた黒の網タイツとやはり黒色でリボンの付いたパンプスを履かされ


やはり黒色のゴシック調の椅子に座る舞のその姿はまるで可愛らしいドールの様にも見えた


舞はその哀しみを忘れたいの一心から

今はキツくその目を閉じていた

それと同じ様に強く結んでいるその唇はローズピンクのルージュに彩ってる


そんな舞の顔や肩や胸元などの露出した白い肌を紫色の照明がその色に染め

その部屋の中に舞の姿を妖しく映し出していた


舞は心に念じていた


『これはお父さんの為なんだ』



だがそこは女性がそれを求めやって来た男に

身を売る場所


舞の様な子供が居て良い筈の無い場所


何者かが、舞の心と身体を傷つけられた時の

写真や動画を撮影しそれを手にしていたのだ


そう


脅されていたのだ


その動画や写真がばら撒かれ

名門の音楽学校の学長である、父親、如月光一の名誉に傷を着けたくなければ。と


睦月愛とその妹の風俗店店長の文月羽衣はそれを共に利用していたのだ


だが、舞にはそんな大人の深く暗い陰謀などは知る由も無かった


ただその大人達に言われた通た事に従う事

それだけしか出来なかった


そうまさに人形になり別の自分を演じていた


ややあってから


羽衣が嬉々した声で


「さぁ、みるくちゃん。ご指名の方が見えたわよ」


と舞を急かし


[みるく]


それはこの店での舞の源氏名だった

だが舞はその呼び名をとても嫌っていた

自分を汚れた者へと変えている

偽りの名前だったから



そんな思いを胸に舞は


「はい」


羽衣に従い答えると

椅子から立ち上がり静かにその瞼を開いた

そこに現れた瞳には左はルビー色の赤そして右の瞳には黄色いトパーズ色の左右非対称のカラーコンタクトで作られた擬似的なオッドアイが施されていた


紫色に染まる舞はその切な気な表情も相まってその妖艶さで男を虜にする妖しさを無意識の内に醸し出し漂よわす


小悪魔のそれだった


だが同時に何処に哀しみの漂う可愛らしくも悲さの漂うその姿は


正に[ドール]人形の姿とも言えていた


そして椅子から立ち上がった舞は先を行く羽衣に促されながら、その紫色に染まる待合室を後にし[お得意様]の待つ部屋へと前を行く羽衣に気付かれぬ様にやるせない思いと、無理矢理にでも自分自身を騙し押し殺している怖さ、そして今にでも泣き出したい、そんな悲しさや気持ちひと纏めに籠めた、ため息を静かにそっと吐いた


ーーーーーーーその同じ頃ーーーーーーーー


美奈は自室にある机に付きながら

勉強をしていた


ややあって


美奈はその筆を止め

手にしていたシャープペンを手放し

その身体を椅子の上で仰け反らせながら


「ふぅ~」


とため息をひとつ吐きながら

その頭上にある白く輝く部屋の照明そして、その照明とひとつになっている、やはり白い色の天井を見上げた


美奈は頭に後ろ手を組みながら


ギコ ギコ と音を立てながら


座っている椅子を前後に揺らしていた

そしてふとその口を小さく開くと


「舞ちゃん今頃どうしているのかな?」


と独りごちた


と、その時

美奈は部屋の窓に掛かるカーテンを閉め忘れた事に気が付き、椅子を揺り動かして弄ぶのを止めると、その窓の方に目を向けた


美奈の眼にはその窓の外が妙に外が明るく見えた


美奈は思わず椅子から立ち上がり


窓の傍まで小走りで近付くと

その硝子窓の向こうに広がる外の様子を

何だろう?と言わんばかりに伺い暫くの間ジッと目をこらし見詰めていると


美奈は何かに気付いたのか咄嗟的に両開きの部屋窓を外へと押しやる様に開き

そこから身を乗り出すと

その夜空を照らす明かりの源を見上げた


その明るい夜の空の中にはの丸く大きな月が浮かび白く眩しく輝いていた


美奈はその夜空に輝く月を

同じ様に輝く瞳で

見上げていた




ーーーーーーーーnocturneーーーーーーーー


















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