第8話nocturne④クラスメイト
緑
その日の朝は爽やかな風が吹いていた
そこは市街地からは少し離れた広くて長い道、如月姉妹が通う学校はエレベーター式の私立女子学校の中等部校で地元の人間たちは、そこに皮肉を込めてお嬢様学校と呼んでいた。
校舎まで延びるその道はなだらかな坂道でその左右にはハナミズキが街路樹として植えられており、ちょうど今の時期にはハナミズキの白い花が新緑に混ざり、それはまるで合唱を奏でて居るかの様に白く咲き誇りながら今はそこを歩く生徒たちを学校迄導いていた。
今そこを歩く舞の周囲には大勢の
生徒たちが同じく学年へと向かって歩いていた
友達同士で談笑を交わしたり
群れて歩く集団も有れば
独りで黙々と歩いている者いた。
時折、ひとつの集団の中から
「うそーーー!?」
「それマジでヤバくない!?」
「いやいやソレ本当だって(笑)」
などの楽し気に話す声も聞こえて来ていた。
舞はそれらの集団からは少し距離を置きながら一人でポツンと歩いている
多分姉の優も舞と同じくこの中で一人でポツンと歩いているのだろ。
と、舞はそんな事を考えて歩いていた。
その時舞は食事の時に姉の優に指摘された身だしなみには、その後に特に気合いを入れキチンと整えられた、見事に自分の可愛らしさをアピール出来ている事を誇らしく思いながら
『私だってやれば出来るんだからね!』
と内心で独り自分自身を褒めていた
しかしそれと共に
『それは一体誰の為?』
悲しい思いが舞の心の片隅にはあり
切ない気持ちを抱かせていた。
それに、ただでさえ優とは双子の姉妹で顔が似ている事、姉妹が二人揃って同じ服を来て、同じ髪型をしていれば、他の人からは嫌でも見分けが付かず間違えられてしまい、それで優も舞もイヤな思いもする事が小さい時には良くそれが起きていた。だから中学生になった今は、姉の優とは区別を付ける為にそのままセミロングの髪を降ろしている優との区別を他人にも見た目でそれと解るように
その髪を後ろに束てポニーテールにしていた。もちろん前髪にも気合いを入れて区別を付けキメてもいた。
だが、それでも他人[ひと]とは勝手な物でただ如月家にいる子供で双子であり判別が付かないと言う理由だけで勝手に舞の事を姉の[優]と適当に間違えて呼んだり、間違えたりもする。
それに学校にいる音楽教師の睦月愛先生から「姉妹の見分けが出来る様にお願いね」
と舞は言われてもいたのだ……
それは優も同じくその事に対してコンプレックスを抱いているな、と舞は何となく感じてはいた。
口に出して言ってくれないから、その優の本当の気持ちが舞には知りたくても知ることが出来ず、またそれを下手に聞く事め出来ずにいた。
また初夏の朝を流れる風が吹いた
舞は家や姉妹間の事とはまた違うその心の深淵に宿るイヤな現実を出来る事ならば、その風で洗い流したいその一心で全身で風を浴びながら登校への道のりを歩いていた。
そこへ
「舞ちゃ~ん」
と、背中から舞を呼び止め声がした
聞き覚えのある馴染んだ声だった
舞はその足を止め、その声の方へと振り返った。
その声の主は美奈であった
「舞ちゃ~ん!」
美奈は立て続けに叫んだ
舞に会えた事がもの凄く嬉しかったのか、昨日も会い1日を過ごしたばかりなのに、美奈はまるで舞とは待ちに待ち久しぶりに会ったかの様に全身からその喜びを表して舞の名を連呼しながら、息せきを切って舞の許へと駆け寄って来た
そして、ゼイゼイと息を切らせながら
「舞ちゃんお早う♪」
満面の笑顔を舞に見せながらそう言った
舞も美奈に笑顔を返して
「お早う美奈ちゃん」
と朝の挨拶を返した
美奈はそれにハッと息を飲んだ
舞には気付かれたくはないと思いながらも
胸の内がキュンとなり
美奈のその気付かれたくないと言う意識に反して、舞を見詰める眼は自然と潤み、その頬は少しの熱を帯びながらポッと紅色に染まっていた。
『イヤだ恥ずかしい舞ちゃんにバレちゃう』
と恥じらいと美奈が舞に抱く複雑な想いを必死に胸に納めながら
『普通に、普通に』
と自分に言い聞かせながら
「おはようございます舞ちゃん」
と美奈は照れながら舞に挨拶を返した。
美奈は、舞や優の姉妹が女子中学生の平均身長の高さならば、その身長よりも若干低く
顔も童顔な為か14.歳と言う歳よりも少し幼く見た。実際、この中学校の制服と着ていなければ小学生と間違われても不思議では無かった。
その茶色い瞳がくりっとしていて
あどけの無い顔をした
いわゆるロリっ娘‘だった
髪は少し長めのボブヘアーでそこにコテを入れた様な天然の縮れ毛で尚且つ美奈の見た目も相まっていて、彼女を愛らしく見せていた。
美奈が子犬ならば、今はその尻尾をブンブンと振り回しながら、その飼い主である舞に飛び付き戯れたいと言う思いが他者からはまる見えなのだが、その対象者である舞はその辺りの事を感じる事が鈍く
『美奈ちゃんて何時も元気で可愛いな』
と、この友達にはそれ位の感覚しか抱いてはいなかった。
美奈は舞とのこの二人だけの時間が永遠に続けばと思っていた
しかし、その二人だけの世界に
「お~い、やっほー!、おっはよ~お二人さ~ん!!」
と、叫び割り込むヤツが現れた
その声の主に向かって笑顔で
「あ、亜里砂ちゃん!。おはよう」
こちらへと駆け寄って来る、声の主、亜里砂を迎えているのとは対照的に『ジャマ者が!』の言葉を正直にその顔に出し駆け寄っくる亜里砂をむくれっ面で見ていた。
文月亜里砂、この少女は舞と美奈のクラスメイトのひとり。
如何にも勝ち気な性格を体現した少女で小悪魔的な茶色いツリ目と赤み掛かったキツネ色の髪の色が特徴的で、今はその髪を左側のサイドに束ねて流していた。
『このキツネ女💢』
美奈は亜里砂に向かって内心で毒突いた
好きでは無いのだ
時として舞や自分に無遠慮に近付き
そして時としてさり気の無さを装いながら
平気で刺のある言葉を使え
時として息を吐く様に[嘘]を吐ける
亜里砂の事が
美奈は[キライ]だった
そして美奈が亜里砂を『キツネ女』と呼ぶ理由には、そのライトブラウンの髪の色がキツネを連想させる色であったからと、美奈が抱く彼女のイメージからでもあった
だが美奈のその思いを余所に
亜里砂はすぐにそこへたどり着くと
「よう!、朝からラブラブですなぁ、お二人さん!」
と舞の肩を軽く叩くと
と二人を冗談混じりに揶揄い
そして
先の言葉に「えっ?、いや、それは、あの……」とその心情を声に出し
顔を赤らめながら動揺をする美奈と
それに気付き「へっ?」っと僅かに戸惑う舞とその二人のやり取りを見た亜里砂は
益々その愉快さに調子にほくそ笑むと
次にはコレは冗談なんだよ。と言わん
ばかりに声高らかに
「ニャハハハ、ゴメン、ゴメン冗談だからwww」
と笑い
しかし自分が開いたこの少劇場に
もうこれ以上の余計な手前は要らない、だから早くこの茶番劇に幕降ろそうと
そして目の前で呆気に取られている
二人に目を向けて
「てへペロッ♪」
と亜里砂は戯けをみせた
が、その癖に亜里砂はその内心では必死になっていた。
自分の事を二人に否定されるのが怖かった。
嫌でも孤独と言う不安が付き纏う時代は避けたかった
こんな詰まらい事をして
悪ふざけが過ぎたとも感じていた
だから、亜里砂は心の中で
いつもの私だよ!
亜里砂だよ!
あなた達の仲良しさんだよ!
だから安心して!
と叫んでいた
いつもの仲良しさんで居たいから
だがもうひとりの亜里砂は
色々と面白いから引き続き二人の仲良しさんを演じ続けて行くその為にも。
舞と道の二人に向かって
心の中でも『テヘペロ』と舌を出していた
小狡く て 狡猾 な女なのだ
そう、美奈の直感は間違ってはいなかった
彼女の姿を見事に見透かしていたのだ
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