第7話ノクターン③/弥生

その朝 

優は、舞よりも早く食卓に着いていた


その食卓兼リビングも、やはり如月家の家長である光一の趣味でもあるのだろう

舞や優たち如月家の娘たちの部屋が古いヨーロピアン調で統一されているのと同じ様に


広く間を設けられたそこもモダンな作りとゴシック調で彩られ

家具やそこに並ぶ様々な物が全てそれで纏められており


その天井にから下を見下ろ場所にはリビングファンがゆっくりと回っていた


今朝は母の恵子が気に入り、そして如月家に招き入れて雇った家政婦の、桜花弥生が早くから来て居て家族全員分の朝食を作ってくれていた。


恵子と優と舞の三人分だけがテーブルの上には並んでいた。


『お母さんは、お父さんがもう何日も家に帰らないの気にならないのかな』


テーブルの上で湯気を上げて並ぶ料理に目を向けながら、優はそう心で呟いた


そして、ふとキッチンに目を向けると

母の恵子と家政婦の弥生が親しげに談笑を交わしていた


それも優に取っては嫌な事だった


父の光一と母の恵子はかなりの前から半ば別居状態にあった


そんな父の留守の隙を突く様に弥生は家にやって来ては、この家に泊まる事も多々にある

それも母、恵子と部屋を共にしてである


優はそれがとてもイヤだった


そんな時だった

妹の舞が自室のある二階から階段を降り、この食卓へとやって来たのは

 

舞はいつもの通り屈指の無い笑顔で元気な声で


「お母さん、お姉ちゃんにそして弥生ちゃん、おっはよぅ!!」


とそこにいる3人に向かって朝の挨拶をするとスタスタと小走りでキッチンを横切り、

いつもの定位置である優の前の席に着いた。


最早いつもの事なのだが、優は目の前に座る、舞を見て呆れていた。


母、恵子も舞に同じ目を向け

その隣で弥生がどうした物なのか?と言う困惑の色をその顔に浮かべていた


舞の姿がボロボロだった、登校前だと言うのにその支度もせずに寝巻きのまま

尚且つ今は優と同じくセミロングの髪を下ろしたままだが、櫛も入れずに寝グセが立ちボサボサのままだった


そして思わず


優は反射的に椅子から腰を上げるてテーブルの上で両手立ちになって舞との距離を近づけた、そして私はアンタのお姉ちゃんなんだからねっ!を主張した怒り顔を作って


「ソレだらしないから!」


と舞を一喝!


それに対して舞は


「いやいやいやいやぁ~~~……」


と作り笑いを浮かべながら、その距離を姉から遠のけるべく、壁か或いは盾代わりとでも言うのか、とにかくいっぱいに広げた両手を前に舞は伸ばしその場から恐る恐る後退って行った。ギィギィと床と椅子の脚が擦れて鳴く音がその事を見事に物語っていた。


しかし、更に優は


「女の子なんだからね!」


と、付け加え


更に詰め寄った


が、その『女の子なんだからね!』の言葉に

ほんの一瞬だが、舞がその顔を曇らせたのを

その場に居た三人は誰も気付いてはいなかった。


そして更に優が舞に詰め寄ろうとしたその時


遠目にあるキッチンでその様子を見ていた、弥生がそこへ小走りで駆け付け


「はいはいはいはい、お嬢様方お話しはそこまで、そこまで!」


と、姉妹のやり取りをそこ迄で止め


優と舞に笑顔を向けると

その二人に『ここに有りますよ』と指し示しながら

テーブルに並ぶクリームシチューやサラダやパンなどの朝食メニューに目をやり


「せっかくの朝ごはんが冷えますよ、優さんも舞さんも早く召し上がって下さい、そうしないと学校に遅れてしまいますよ」


と、二人をなだめた


すると優と舞はそこで「はい」と答えて沈黙をし

二人は揃って朝ごはんを食べ始めた


優は奇跡的まだ温かったそのクリームシチューをスプーンですくい口に運び頬張った。

それはとても美味しかった。


しかし、それとはまた問題の違う不満が優にはあった。


食事を取りながら、チラッと横目で見キッチンに居る母、恵子を見た。


恵子はこちらには眼も向けずに床に目を落とし何かを考えている振りをしていた


母、恵子のその姿に、優は心の中で溜息を付きそして素直に大人に従う子供と言う役を演じ、弥生の作った手料理を黙々と食べ見せながらそっと


心の中で呟いた。


『ああ言う時にここに来るのは弥生さんじゃなくてお母さんの役でしょ』





















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