新人と住職
「今日はよろしくお願いします!」
作業着に着替えて更衣室から出たばかりの弥生に、男が駆け寄ってくる。
「
昭男が互いの紹介を促す。
「琢彦です!山城先輩、よろしくお願いします。」
「よろしくね、琢彦君。」
「挨拶もそこそこに、縁高寺の件、よろしく頼むよ。今日はそれで昼も過ぎるだろうし、それで帰社してきてもらっていいからさ。」
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幹線自動車道を降りて少しした所で、目的地が見えてくる。
浄衣真宗縁高寺。国内の仏教でも歴史が有り、大きな規模を持つ宗派で、それに応じてか、その寺院もかなり大きい。
「こういう仕事って、多いんですかね?」
「そうだね。こういう所って駐車場も広いからね。」
敷地に広くとられた駐車場に営業車のミニバンを止め、二人はドアを開ける。
初夏の炎天下とも言えるその陽射に、隣接した雑木林から、けたたましく
「お待ちしておりました。細川便利商会さんですね。本日はよろしくお願いします。」
玄関から袈裟を着た坊主頭が出てくる。
「細川の山城です!こちらは弊社の岡山。本日は私達二人でお仕事させていただきます!」
肩に工具カバンを下げ、弥生のよく通る声が敷地に響く。
「住職をしております、
陽準は二人を見て軽く会釈をすると、二人を先導するように玄関へと戻っていく。
「今日は暑いでしょう。まずは用意してありますので冷茶でも上がってください。お仕事の説明もそこで。」
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二人が通された玄関は、御堂へ続く口と、奥の待合場へと続く道で別れている。
陽純が手を招いたのは、待合場の方であった。
「どうぞ、あがってください。」
待合場の長台の上にはガラスの水差しとコップが並んでおり、コップには既に氷が入れられている。
先に座し、水差しの中の褐色の茶を注ぎ、二人に振る舞う。
「ご馳走になります!」
誘われるままに弥生と琢彦は座ると、差し出されたコップを受け取る。
ひんやりと冷たいそれを受け取り、思えば、この待合場に程よく冷房が効いているのを弥生は気がついた。
そしてふと目をやると、その弥生を陽純はじっと見つめてる事にも気がついた。
返す弥生の視線に気がつくと、陽純は微笑むように静かに頷いた。
「あ。」
その視線の意味が、手にあるものだと感じた理解をした弥生は、それを僅かに口に含む。
まず意外性、そして覚えがある味であった。
「ルイボスティーですね。」
陽純はその答えを受けて、再び微笑み頷いた。
それを待っていたかのように弥生の隣で、琢彦が喉を鳴らして飲んでいる。
「お嫌いでしたか?緑茶のご用意もありますが。」
「いえ、私もよく飲みますよ。最近、紙パックでの販売も増えましたからね。」
弥生は陽純にそう返すと再び、ガラスに口をつける。
弥生の耳裏からスッと一滴、汗が首筋を伝う。この屋内にも、外の油蝉の鳴き声は薄っすらと響いてくる。
「お仕事の話をさせてもらいましょう。お願いをしたいことがいくつかございまして。本来は私どもで滞りなく済ませねばならない事なのですが。」
そう、陽純が切り出すと、弥生は気を引き締める。
縁高寺から仕事を受けるのは初めての事だった。
ここで良い仕事をして、或いはどういった対応を受けるのかが、二度目、三度目と仕事を頂戴できるのか、重要な材料となる。
一回目の仕事が、再びの依頼に繋がる事はそれ程多くはない。
まして二度目、三度目と続いても、長年の仕事になる事は徐々に減る。
社長が拾ってくる一度目の依頼というのは実際の所かなり多い。
そしてこの三年半の間に、弥生が一度目の依頼を任される事はかなり増えた。
それが信頼や信用であるし、弥生に対しての評価でもある。
便利屋として仕事をしているが、対応できる業務の幅は、応対する作業員の力量や技術の幅で大きく変わる。
「できない」の一言で、会社の評価がそこで止まってしまう事もよくある。
「やれない」の一言が言えずに、会社に掛かる負担が増え、かえって信頼を失うこともある。悪評がつくことすらもある。
その点で、弥生は中間管理職に覚えが悪く、社長に覚えが良いタイプであった。
「自分に可能なこと」だけを、手際よく、安心感を持って提供する。
十分に余裕を持って仕事をこなすことで、もう一つ、会社にとって大事なことを見極める余裕も持てるからだ。
「まずは、先程お車をお留めいただいた、駐車場の清掃作業をお願いしたいのです。手前は砂利を敷き詰めていますが、奥は土を平らにしただけですので、この時期は雑草が湧くのです。」
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